「情報発信にはエンタメが必要」ホリプロデジタル鈴木秀が語る、自治体×SNS発信の成功の要因

自治体のSNSにもエンターテインメント性は必須
ーー2軸目としてデジタルマーケティング事業が成長しているなか、次に見据えている分野はありますか?
鈴木:この1、2年で体制が強化されて実績も出てきたので、次は「自治体」にフォーカスしています。情報発信したい自治体はたくさんいますが、皆さん苦戦されていて。自治体は「税金」を使っているという性質上、炎上やコンプライアンス違反といったリスクに敏感です。そんななか僕らは、少人数でありながら自信をもって起用いただけるタレントが揃っています。またそういったタレントを育成する過程で、SNSやマーケティングの知見を蓄積しました。その結果、各省庁や都道府県のプロモーションをお手伝いする機会が増えていて、既にいくつもの実績があります。
ーー会社としても、急成長している分野ですよね。
鈴木:自治体からのお問い合わせはすごく増えています。自治体とお仕事をすると、社内のコンプライアンス意識が高まるんですよ。その結果タレントへの教育レベルも上がり、タレント自身の意識も高まるので、投稿もどんどんクリーンになっていきます。最近では法務省からもお仕事をいただくようにもなっていて。タレント事業とマーケティング事業、そして自治体の事業、この3つの親和性が高いんですよ。弊社の原点はやはりタレント事業ですから、タレントにメリットがある事業に優先的に投資をすることで拡大していき、それによってさらにタレントが伸びる、というループができています。
ーータレントさんを軸に、シナジーがある新規事業に投資しているんですね。しかし実際に支援されている自治体のSNSで発信されたコンテンツを見ると、タレントさんの影をあまり感じない作りになっていますが、意識されてのことでしょうか?
鈴木:そうですね。多くの企業や自治体と向き合うなかで気づいたのは、再生数へのこだわりがとても強いことです。その結果、ほかの支援会社が運用している企業や自治体のアカウントの中には、アカウントのコンセプトや企画の趣旨に合っていないにもかかわらず、多額の投資をしてとりあえず人気のタレントを起用している事例を見かけます。
動画単体では再生数を稼げるかもしれないですが、そのタレントが出なくなった途端に再生数は下がることが多いです。そんなことを繰り返していると業界が縮小してしまうので、僕たちは再生数に対していいねやコメントがどれぐらい多いのかを示す「エンゲージメント率」も重視して、視聴者にその企業や自治体のファンになっていただくところまで意識しています。再生数を増やすことだけを目的とした依頼は、お断りすることもあります。
ーー企業や自治体のリテラシーを上げていくことで、結果的に業界全体を良くすることに繋がっていきますね。自治体の事例としては、山梨県が最初かと思いますが、どのようなきっかけで一緒に取り組むことになったのでしょうか?
鈴木:約2年前に、山梨県の長崎(幸太郎)知事とデジタルプロモーションについて意見交換をする機会があったんです。コロナ期間中、中小企業向けにボランティアでSNS活用についての講演会をやっていたのが県議会議員の方の目に留まったようで、それ以来意見交換の会に呼ばれるようになりました。SNSを含めた広報戦略を雑談ベースで話していたら、翌日に県の担当者から連絡が来て、「顧問という形で県のプロモーションやブランディング、情報発信に助言をいただきたい」とご依頼いただきました。
SNSを活用したプロモーションをすることになり、予算を編成して一般の入札公募を実施しました。いろいろと検討を重ねる中で、県が特にアプローチしたいZ世代・α世代に対しては、TikTokがプロモーションツールとして有効だろうという結論になりました。
ーー自治体のSNSのコンテンツを作る上で、どんなことを意識されましたか?
鈴木:「エンターテインメント性を消さないこと」です。視聴者が気になる、見たくなる要素を必ず入れるようにしました。県としても初めての試みだったと思いますが、知事や県の担当者の方も含めて、みなさんが真摯に向き合ってくださったことが、成功の大きな要因だったと思います。
ーー運用していくなかでの気づきや手応えはありますか?
@yamanashi_yosugiru 山梨県は水素・燃料電池に関連する産業を応援しています #山梨 #水素 #自転車 #クリーンエネルギー #日邦プレシジョン ♬ フォークダンスの定番、オクラホマミキサー - Minaco
鈴木:水素で走る自転車の動画が好評だったのですが、その動画に「水素は爆発しないの?」とコメントがついたんです。それに対していち早く「爆発しません。水素は危なくないよ」と返信動画を上げたところ、エンゲージメントがすごく高かったんですよ。自治体に問い合わせをしたらコンテンツで返ってくるという双方向コミュニケーション的な広報戦略は、非常に新しく、かつ今後重要だと感じています。
ーーたしかにあまり見かけませんね。ここまで柔軟に対応できる自治体は多くない気がします。
鈴木:長崎知事は、僕らみたいな一県民の意見をしっかりヒアリングして、調査・分析を行って県政に活かされる方なんですよ。TikTokを運用するにしても、県民の意見を汲んでコンテンツに反映されています。ただ発信するだけではなく、発信したコンテンツへの反応を拾っていく姿勢が初めからあったことも、成功した要素の1つですね。
ーートップの柔軟性や器の広さがあったんですね。
鈴木:新しいことに挑戦することにはリスクもありますし、政治生命に関わることさえあります。それでも県が抱えている課題の解決を優先する姿勢を見て、僕ができることはすべてやりたいという気持ちになりました。山梨は僕の故郷でもありますしね。
ーー顧問を務められて3年目となりますが、コミットメントの範囲は広くなっているのでしょうか?
鈴木:そうですね。いまではSNSの運用だけではなく、LINEを活用した情報発信の仕組み作りや、サービス利用率を上げるための設計など、タレントでいうエンゲージメントに近いものを指標として整えるところまで落とし込んでいます。ただリリースして終わりではなく、使ってもらって、検証するところまでが僕の担当ですね。
ーー生きた数字を見てしっかりと反映していくという点は、先ほどお話しされていた鈴木さんの事業とも共通していますね。
鈴木:県で事業をやっているような感覚ですね。大切な税金を活用させて頂いて行う施策も多々あって失敗できないですから、会社とまったく同じ感覚で緊張感をもって取り組んでいます。



















