現実から仮想まで。建築家・水谷元と巡る建築探訪記 【第5回】
『ドラゴンクエストX』好きの建築家が、開発者に「アストルティア」の都市と建築について本気で考察をぶつけてみた(第1部)
水谷:次はみんな大好き『メギストリスの都』へ。メギストリスって他の町に比べて圧倒的に賑わうじゃないですか。ヨーロッパの街並みのように広場としてきちんとデザインされていて、便利な施設が広場の周辺に配置されている。やはり冒険者が集まりやすい設計を意識されているんですか?
丹下:レベルデザインの時に、例えば「仲間を募集するための広場がある」という設定があって、集まるであろう人数を想定して設計していました。
水谷:本当に人が集まるように設計されているわけですね。
丹下:オープンチャットの吹き出し(通称:白チャ)が出るじゃないですか。「みんなが喋っている様子が吹き出しで出たら声をかけやすいよね」とか、そういったシステムを入れつつ設計しています。ただ、パーティチャットが実装されたら思いのほか、使ってもらえないので(笑)。
キャラクターの距離に応じて吹き出しの見え方が変わるじゃないですか。 もっと気軽に喋ってくれていて、近づいたらそれをきっかけに仲間になるみたいなアイデアだったんです。吹き出しの工夫は僕たち自身もファンとして強いアイデアなんです。
水谷:メギストリスの城のイメージは何かありますか?
丹下:一番はかわいいイメージでお菓子にしようとか。いろんな事例や資料を参考にしてかわいらしさが出るように模索して作っていました。デザイナーは女性スタッフが担当してくれています。
水谷:花のモチーフの石畳とか。
小川:プクリポは花の民ですからね。
丹下:花摘みギルドは開いてないですけど、実は中身はちゃんと作りました。
水谷:あ、作ってあるんですか。
丹下:入ったら中にギルドがあります。エイプリルフールの時に中を全部解放しようという話にもなりましたけど、入り口から飛ばして裏庭に行けるようにしました。
水谷:懐かしいですね! トイレがあって「お花を摘む」にかけてトイレがあるという(笑)。
丹下:ランダムでいろんなものが出てくるっていう(笑)。冒険することが目的なので、ランダムでどんどん出てくるというのは使ったことがなくて。ここでテストしてみようという意図もありました。うまくいったので、このアイディアを将来的にシナリオに活用してみようかとか。
水谷:どこの都市も共通して大陸間鉄道は城郭と合わせてうまくデザインされているのがすごくいいなと思っていて。建築として効率的な感じがするなって。その意図はあったんですか?
丹下:最初の設計は鉄道の旅みたいなことをやっていこうというのがありました。イベントも車内で起こるという話があって、大陸を繋ぐ鉄道を町の中心に作るという方針がありました。モンスターが世界に存在する間は安全に移動できる世界を作ろうと。鉄道パスを手に入れて、どんどん世界が広がっていくという初期設計ですね。
水谷:町並みはヨーロッパの木造家屋を参考にされていますか? 石積みなのか、コンクリートなのか、とかいつも建築の主体構造が気になります。
編集部:水谷さんの話を聞いているとお話しを聞いているとあらためて『ドラゴンクエストX』のヘビーユーザーと同時に建築家なんだと再認識します。丹下さんや小川さんと建築話のかなり共鳴する部分があるんだとちょっとビックリしました。
丹下:あー、確かにそういう話ができて嬉しい(笑)。
編集部:ただ、ふつうの冒険者や意識しない方も多いんじゃないですか?
丹下:背景は自然に作れば作るほどお客様の感想がないんですよ。
水谷:僕らはよく建築用語で「透明性」と言います。気にさせずに空間体験に没入させる。建築やディテールの存在が消えるという意味で。
丹下:逆に気になっちゃうというのは、うまくできていないということで。スタッフに言うんですけど、強く主張する必要はなく、最終的にはその場所の印象が心に残ればいい。そちらの方が背景として大事だと思います。
水谷:実際の建築も体験の記憶が残るように技術者はいろんな工夫をします。身近なところだと、違和感を感じさせないように「タイルの目地はちゃんと揃える」などの丁寧で地味な作業をするわけですけど。
丹下:僕たちも100個の仕掛けを入れて、いくつか印象に残ってくれれば良くて。要は旅行に来た感覚を得てほしいんですよ。
水谷:ちなみに、メギストリスの駅前はなんでこんなに簡素なんですか? メインエントランスがないんですよ。駅までのアプローチも石畳でなくて芝になっている。仮にここに雨が降ったらズブズブになる(笑)。
丹下:今度しれっと直しておきます(笑)。
水谷:入り口の場所も目立たない地味な場所ですよね。
丹下:設計しながら実際にプレイしてみて利便性をいろいろ試してみました。メギストリスはお店の世界というか、通りの配置なども色々考えたんですけど。駅の配置も検討しているうちに今のところに。
水谷:現実の都市や建築でもある話ですよね(笑)。
丹下:いろいろ突貫で直しちゃってね。そのまま無くなっている場所もあったりしますけど(笑)。
水谷:おしゃれストリートは公式の名前になりましたけど、最初は冒険者が呼んでるだけでしたよね。壁が無くなって内部でお店を行き来できるようになりましたね。
丹下:意外と大変なんです(笑)。
水谷:DQXTVでお話しされてましたね。繋げるとなるとモデリングし直さないといけない。
丹下:繋がっていない頃は中身がない別々の部屋として読み込んでいましたから。おしゃれストリートの、特にアーケードはテーマパークの楽しさを演出するために贅沢にデザインしました。
水谷:夜はもうちょっと照明が欲しいですね(笑)。
丹下:僕はキラキラ大風車塔を担当しているのですが、そちらは照明をたくさん置いて高級ホテルっぽくしました。この時はまだ総括リーダーではなくて、担当者同士でああだこうだと議論していました。特にテントは光が透過したように見えるように工夫しています。当時は性能上の問題で透過ができなかったんですけど、影を描くことによって透過したように表現しました。
水谷:次は『キラキラ大風車』へ行ってみましょう。
© ARMOR PROJECT/BIRD STUDIO/SQUARE ENIX
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