ファンサービスか、それとも形骸化したノイズか HD-2D版『ドラクエ3』における新旧要素の折衷を考察する

HD-2D版『ドラクエ3』の新旧要素を考察

 待望のHD-2D版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…(以下、ドラクエ3)』が、11月14日に発売された。言わずと知れたRPG「ドラゴンクエスト」シリーズの第3作であり、オリジナル版が1988年に発売されたタイトルのリメイク作品である。そしてスクウェア・エニックスが開発した、ドット絵と3DCGを融合した独自のグラフィック描写「HD-2D」のビジュアルで、本作の特徴とも言える「懐かしくも新しい体験」を象徴した表現がなされている。

HD-2D版『ドラゴンクエストIII そして伝説へ…』ファイナルトレーラー

 システム面でもリメイクにあたって新たな職業「まもの使い」や、新コンテンツとして仲間にしたはぐれモンスターを戦わせる闘技場「モンスター・バトルロード」が追加。そしてボイスの実装や職業ごとの外見バリエーションの増加、便利機能としてミニマップ・目的地の確認が可能など、『ドラクエ3』をはじめてプレイする人には遊びやすく、プレイしたことがある人でも新鮮な気持ちで遊べるような要素が盛りだくさんな内容だ。

新職業「まもの使い」などの追加要素

 それでは追加要素について詳細に触れていきたい。まず、新職業である「まもの使い」と「モンスター・バトルロード」はそれぞれ要素同士の強いつながりがある新システムだ。「モンスター・バトルロード」を勝ち進んでいくためには世界各地に散らばった「はぐれモンスター」と呼ばれる魔性が消えて大人しくなったモンスターを探し出し、保護をして仲間にする必要がある。中には臆病なものもおり、通常であれば盗賊の特技「しのびあし」を発動したり、アイテム「においぶくろ」を使用したりしてこっそりと距離を縮める必要があるが、まもの使いが仲間にいれば近くに寄るだけで無条件で仲間にできる。

 まもの使い側も、はぐれモンスターを一定数仲間にするごとに強力な特技を覚え、特にすばやさアップ&2回行動の効果を持つ「ビーストモード」は本作において猛威を振るっている。そのためキャラの性能強化と「モンスター・バトルロード」を十分に楽しむために、まもの使いをパーティーに入れてみたいという動線が巧みに敷かれているのだ。

 さらに世界に点在する隠しエリア「ひみつの場所」や、マップ上にキラキラと落ちているアイテムを探すなどの探索要素が増えたため、冒険中に寄り道をするなかで自然に敵とエンカウントしてレベル上げもはかどる。さらに船を手に入れた中盤以降に各所にそうしたイベントが用意されているため、オリジナル版よりも探索時の起伏が生まれ、作業感が低減されているように感じ、クリアまで夢中になって遊ぶことができた。

形骸化したシステムが実装されたままの違和感

 ただ、新たな要素がゲームになじんでいると思う場面もあれば、伝統のシステムがゲーム全体のノイズとなっている箇所も見受けられたように思う。たとえば選択した特定地点まで一瞬で移動することができる呪文「ルーラ(キメラのつばさ)」のMP消費が0になり、屋内であっても天井に頭をぶつけなくなったため、あらゆる場面から発動可能になった(厳密には『ドラゴンクエストXI 過ぎ去りし時を求めて(以下、ドラクエ11)』からの仕様だが、3DS版は天井に頭をぶつけてしまう)。

 ルーラの効果が向上するにともない、ダンジョン入り口に戻る効果の呪文「リレミト」の存在感が薄くなっている。『ドラクエ11』のルーラは基本的に町への移動、リレミトはダンジョン脱出という効果の違いから差別化ができていたが、本作は町だけではなくダンジョンやほこらもルーラの移動先に選べるため、リレミトの存在意義が完全になくなっているのだ。

 そして教会において「おつげをきく」を選択すると、次のレベルまでの必要経験値が見られるが、ステータス情報を確認できる「つよさ画面」からいつでも確認可能。さらに戦闘ごとにオートセーブが入り、全滅しても再挑戦か直前のオートセーブから再開するかを選べるのにも関わらず、全滅時に所持ゴールドが減らないように前もって預けておく「ゴールド銀行」が存在するなど、意味を失って形骸化しているにもかかわらず実装されている要素も多い。

 たとえ意味がなくなってもファンサービスのシステムとして残してほしい、ダンジョンではリレミトを使ってからルーラを使いたいなど、伝統に則った「ドラクエ」らしさのロールプレイに必要だと考える方も多いだろうが、果たして本質としてはそうだろうか。ルーラやリレミトは消費MPがあるからこそボス戦でも呪文を温存させるように戦い、思わぬ死闘でリレミト分のMPまで使い切ってしまった帰り道の心細さなどのドラマ性こそが、いわゆるロールプレイとしての「ドラクエ」らしさなのではないだろうか。ファンサービスとして実装するのであれば新たなシステムとの差別化をはかり、伝統を意味のある形で残してほしかったと思う。本作はリメイクとして作品を現代に蘇らせる上で考慮するべき遊びやすさ・便利さと、プレイヤーに味わってもらいたい「ドラクエ」らしいプレイ体験を両取りしようとした結果としての“粗さ”が残っているように感じた。

ルックスにおける表現のちぐはぐさ

 また、発売前から物議をかもしていた性別がルックスA/Bと区分にされている件についても触れたいが、私個人の意見としてはルックスA/Bという分け方に異論はない。

 『ドラクエ3』はゲーム冒頭に性格診断を行ったり、『ドラクエ1~2』で登場する勇者ロトが『ドラクエ3』において「ロト」の称号を得た自分のことだったというストーリーテリングだったりと、プレイヤー=勇者を同一化させるような仕組みが多く、ほかのシリーズ作よりも極めてロールプレイ性は高い。

 そのため本作には「主人公は自分だ」と思える演出がゲーム内に必要である。その点においてルックスA/Bという区分は、莫大なプレイ人口が予想される本作で当然存在する多様な性の当事者であるプレイヤーが、自分の分身・投影先に男女という区分を強制されないアクセシビリティという点において意味があり、中には本作の対応に救われたプレイヤーもいるだろう。そしてルックスA/Bはキャラメイク時に指定することから、あくまでキャラそれぞれの性自認だと私は考えており、たとえば主人公がロマリアで王になった際に「王さま」「女王さま」と外見上の性別で呼称される点については、『ドラクエ3』は当然現代の話ではなく作中の文化レベルから見てもLGBTQ+への理解が進んでいるとは思えないため、主人公以外のキャラから男/女として扱われることは本作のゲーム内においては矛盾しないのではないか。

 ただ、性別にルックスA/Bという区分を設けたのであれば、ルックス専用装備を設定するべきではなかっただろう。先述したように本作はロールプレイ性が重要な作品であり、勇者として好きな格好で冒険できたという体験も、『ドラクエ3』という作品への愛着につながっている。それにも関わらず「多様性配慮でルックスA/Bという区分は作りました、ただし過去作で女性限定だった装備はそのまま女性限定として表記し、ルックスBのみ装備可能です」という対応には「なんのためにルックスA/Bという表現にしたのか」という違和感を覚えてしまう。

 このようにHD-2D版『ドラクエ3』はリメイク前の作品に新たな面白さを付与しつつ、一方で追加要素と従来の設定のちぐはぐさが目立ったタイトルだと思えた。しかし、これはすでに各種デザインや型が決まっている1988年発売のタイトルを、オリジナルをリスペクトしながら現代の価値観に照らし合わせてリメイクしたからこそ生まれたノイズ。本作からシリーズを遊ぶ新規プレイヤーへの配慮と、過去に遊んだプレイヤーの思い出を裏切るわけにいかない板挟みの結果、表出したのが本作だったのではないかと勝手ながら想像している。

 発売予定の完全新作である『ドラゴンクエストXII 選ばれし運命の炎』はどのような作品になるかわからないが、伝統の「ドラクエ」らしさと、現代で遊ぶのにふさわしいモダンさを両立させた作品であることを祈りたい。

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