接続した『VRChat』とVTuberの世界 3人の識者が振り返る、2024年のバーチャル業界(後編)
VRChatとVTuberはどう接続されていく?
たまごまご:今年のビッグな参入者といえば、ホロライブの火威青さんも『VRChat』を盛り上げたいと熱く語る一人ですね。
浅田:火威青さんは、スタンミさんとはまた別の方角からきた特異点でしたね。ホロライブの新規タレントが、2019年から『VRChat』をやっているベテランユーザーだなんて、そんなの予測できっこない(笑)。
たまごまご:今まででも、ワトソン・アメリアさんが『VRChat』とVTuberをつなぐ役割を担っていましたが、火威青さんはホロライブ全体を巻き込んでいきそうなのが特徴ですね。
浅田:火威青さんによって、国内のホロライブ所属タレントも『VRChat』の面白さに気づき始めているような印象です。かつてはロボ子さんやアキ・ローゼンタールさんが『VRChat』に行く配信をされていましたが、その頃はまだ『VRChat』がさらにマイナーだった時期でしたからね。
おそらく火威青さんは、ホロライブ内部で『VRChat』現地の情報を解像度高めで伝えているのかなと思います。「これってどういうこと?」としっかり説明できるからこそ、他のタレントたちが「じゃあこういう遊び方ができるね」と気づけるようになり、宝鐘マリンさんや白上フブキさんが配信の企画を立案できるようになったのかな、と予測しています。
たまごまご:ところで、草野さんはこの流れでVTuberがさらに『VRChat』に来ると考えられますか?
草野:VTuberがみな『VRChat』をやるかどうかはさすがに判断がつかないですね。事務所内ですでに遊んでいる人たちが固まって『VRChat』をやれば、他のメンバーも遊び始めるかもしれませんし、ホロメン全員が『VRChat』に集結する可能性も無きにしもあらずかなとは思います。
たまごまご:これまで『Minecraft』でやっていた運動会のような企画が『VRChat』開催になったら、ちょっとおもしろいですね。
草野:それに、モーションキャプチャースタジオが確保できなくて実施できない案件や企画が、『VRChat』を活用することでできるようになる未来も想像できます。
――まさに火威青さんの3Dお披露目はそのパターンでしたね。
草野:そうですね。自社の3Dスタジオではなく、火威青さんお手製の3D空間でお披露目をやったことはエポックメイキングですよね。
――ホロライブのハロウィン企画のときも、自身の3Dモデルを使っている方と、そうではないSDキャラのアバターを使っている方がいらっしゃいましたね。技術的な課題があるとすれば、ここかもしれません。
草野:もともとある3Dモデルが転用できればいいですけど、そうでない場合はどこから制作コストを出すのか、という問題は出てくるでしょうね。くわえて、ドライですが「『VRChat』配信が収益につながるのか?」という運営目線からみた観点もあるかと思います。
たまごまご:『VRChat』に関して言えば、YouTubeのスーパーチャットで投げ銭を受け取ること自体は規約的に問題は無いので、繋げること自体は出来るはずです。
PCはもともとハイスペックなものを使っている方が多いでしょうから、一般的なユーザーと参戦のハードルは変わらないはずなんですよ。なので、おっしゃる通り足りないのはアバターなどを持ち込む技術になりそうですが、そこさえ裏側にいるスタッフが補えればなんとかなるはずです。
ーーそこのサポートを受けられるか否かは、大きな分かれ道となりそうです。
浅田:にじさんじの鈴木勝さんは、アバターなどのセットアップは独力でやったとコメントしていましたね。「先人の知恵があったからなんとかなった」とも語っていましたが、それがなければ挫折していた可能性は高いはずです。
草野:『cluster』のバーチャル渋谷に行くイベントはにじさんじでも実施経験があったと思うので、オペレーションに不慣れというころはないとは思いますが、実際みんながみんな『VRChat』配信をやるのかというと……やはり読めないですね。
浅田:企業所属のVTuberにとってすら、『VRChat』での活動に収益性を出し、事業化につなげるには、まだ道のりは遠いかなとは思います。グリーティングイベントが、数少ない可能性が見出だせる道でしょうね。
一方で、VTuberにとっての『VRChat』や『cluster』には、先ほど草野さんがおっしゃっていたように簡易3D収録環境としての活用が見出せるかなとは思います。自前のVR環境を整える必要はありますが、それさえ整っていれば、ワンオペでも回せる3D収録環境が手に入ります。つまり『VRChat』や『バーチャルキャスト』などで活動してきたVR系配信者と近い環境となりますが、これがVTuber文化と本格的に合流する可能性はあるかなと思います。
法人所属のVTuberの場合、スタジオが埋まってて全然使えず、フラストレーションが溜まっている人もいるでしょうから、「自分の好きな企画ができる」という観点では、お金回りはあまり関係のない話になるかもしれませんね。
たまごまご:TikTokにアップするダンス映像の撮影や、サムネイル向け画像の撮影にも便利ですからね。ずっと使い続ける環境にはならないにせよ、新しい場所ができることはプラスにしかならないはずです。
浅田:選択肢が増えること自体が大きなことですよね。それでも、VTuberのワンオフアバターは相当高価ですし、それが運悪く悪意あるユーザーによってリッピングされようものなら目も当てられないでしょうから、リスクを鑑みて企業勢の動きは遅くなるはずです。逆に、個人勢が先に早く動いてきそうです。
草野:天鬼ぷるるさんの活動スタイル・規模感・ファンの温度感がベストかなというイメージですね。あとは赤見かるびさんとか。
たまごまご:天鬼ぷるるさんの『VRChat』握手会では、市販アバターの改変モデルを使っていましたよね。たしかに収益化もできるし、再現性もかなり高かった。
〈参考:メタカル最前線〉
草野:ハードルは決して低くはないものの、その方向であれば来年以降に広がる流れはありそうですね。
浅田:先日にはVAULTROOMも『VRChat』に公式ワールドを立ち上げましたし、ここと関わりのあるVTuberが参入する可能性はあるかもしれません。
それと、趣味として活動している個人VTuberを、『VRChat』でも見かける頻度は増えてきましたね。タレント系の人はイベントやワールドのレポ動画を作成していますし、シンガー系の人は音楽イベントに顔を出すことがあります。特に、毎週定期開催されているオープンマイクイベントは、シンガー系VTuberとの相性がよいはずです。数十人の観客の“眼前”で歌い、手堅く濃いファンを作り続けていくことができるんですよね。
たまごまご:大手配信者が叩き出す数千〜数万の同時接続と比べれば小さい数字ですけど、体感としては物理的に“そこにいる”観客のように感じられますから、それも良いところですね。ライブハウスで演奏をしているアーティストたちとすごく近いものを感じるので、ちょっとずつ光がちょっとずつ当たればいいなと思います。本当に才能のある人がたくさんいますから。
浅田:学術系VTuberがその博識ぶりで注目されたように、大人数を相手にする配信とは別ベクトルのファン開拓ルートが生まれそうですよね。
VTuberが目指すゴールは大きく変わりつつあります。大手事務所に入って100万登録を目指すことが唯一のゴールではなくなり、100万登録に至って何をするか、登録者は重視せず、自分のやりたいことを完遂できるか、そこを決めることが重要になりつつあるはずです。そうしたフェーズにあって、『VRChat』や『clutser』が活動拠点として選択肢に浮上するケースも増えていくのかなと思いますし、そうなってくれると嬉しいですね。
草野:どう盛り上がっていくかはさておき、そうした形の参入が一番増えていく予測については、自分も同意見です。
たまごまご:いずれ、『VRChat』で50人の前でライブした人がVTuberとして大成したとき、そこにいた50人の一人が「大きくなったな」と腕を組むこともあるのでしょうね。そうなってほしいな。