PlayStationの歴史を総括し、未来へと向かっていく傑作 『アストロボット』が思い出させてくれたこと

『アストロボット』が思い出させてくれたこと

 『アストロボット』のようなゲームほど、実は誰かに勧めるのが難しい。その魅力については、「最高にキュートで魅力的なキャラクターと世界観」「優れた操作性とレベルデザイン、バリエーション豊かなスキルを兼ね備えた、完成度の高い3Dプラットフォームアクション」「DualSenseの性能を最大限に活用したことで生まれる没入感の高さ」「これまでのPlayStationの歴史をコミカルに総括したストーリー性」にまとめられると思うのだが、それはトレーラーや評判を見ればなんとなく分かるだろうし、そもそも本作はPlayStation 5に無料で同梱されている『ASTRO’s PLAYROOM』をベースとしているため、もし購入するか迷っているのであれば、同作を実際に遊んでもらって判断してもらう方が、この文章を読んでもらうより遥かに手っ取り早い。

『アストロボット』 - ロンチトレーラー

 とはいえ、それを自覚したうえでも、やはり全力でオススメしたい! と思わせてくれるのが『アストロボット』だ。個人的にも、今年のゲーム・オブ・ザ・イヤーに躊躇なく挙げられるくらいには傑作だと思っているし、もし見た目の印象だけでスルーしているのであれば、あまりにももったいない。筆者は今回のレビューを執筆するにあたって、ゲームクリアどころかトロフィーコンプリートまで完了しているが、その約18時間のうちに「楽しくない」と感じる瞬間はなかった。大量のファンサービスに視線を奪われてしまいがちだが、『アストロボット』は何よりも「最初から最後までワクワクし続ける体験」が詰まった最高に楽しいゲームなのである。

スピード感に満ちたゲームプレイを起点とした、巧みに構築されたゲーム全体のリズム

 『アストロボット』の最大の魅力は、なんといっても「触っていて気持ちが良い」の一言に尽きる。ジャンプやパンチ、移動のすべてが直感的で、まるでコントローラーを介して主人公と一体となっているかのような感覚だ。それは、3Dプラットフォームアクションにおいて最も重要であると同時に、最もハードルが高い要素でもある。なぜなら、その比較対象は必然的に「マリオ」になってしまうからだ。たとえAAAタイトルであろうと「マリオ」の操作性には到底及ばないものが大半であることを踏まえれば、これがどれほど高いハードルなのかは言うまでもない。だが、『アストロボット』は徹底的に磨き上げられた操作性の良さに加え、さまざまな工夫やアイディアによって、「マリオ」に匹敵するだけではなく、さらに独自の魅力を生み出している。

 まず、特筆するべきは、そのスピード感だろう。極めて直感的な操作性を実現しつつも、ひとつひとつの挙動は「マリオ」よりも高速に仕上げられており、アップリフティングでキャッチーな素晴らしいサウンドトラックも相まって、非常に軽快でノリの良いアクションを楽しむことができる。さらに、ステージ外への落下や誤操作といったストレス要素についても、極力発生することがないよう絶妙にチューニングされているし、チェックポイントの配置も非常に的確であるために、勢いのままに思わぬミスをしたとしても、リトライがまったく苦にならない(ロード時間が皆無に近いのもポイントだ)。

 また、ポップ・ミュージックがAメロやBメロ、サビ、ギターソロなどで構成されているように、50種類以上用意されているステージは、そのどれもが起伏に富んだワクワクするような展開が詰め込まれているし、DualSenseのハプティックフィードバックがゲーム内のひとつひとつの動きと連動しているために、草むらを歩くとカサカサとした感触を感じたり、バルーンにぶつかったときにはボヨンとした反応を得たりといった具合に、通常のゲームよりも臨場感のある体験を味わうことができる。ただ操作が気持ち良いだけでは途中で飽きてしまうが、こうした作り込みがあることによって、最後まで楽しさが持続するのである。

 また、一部のステージで用意されている特殊アクションが、ゲームプレイ自体にも変化を与えてくれる。そのうちのいくつかは『ASTRO’s PLAYROOM』から引き継ぎつつ、本作ではしっかりとボリュームアップしており、その数は10種類以上に及ぶ。一見すると物足りなく感じられるかもしれないが、そのすべてが触っていて楽しいと感じられる仕上がりになっているし、数が多すぎて混乱することもない。フルプライスになったからと言って、無駄にかさ増しをしたり、蛇足に感じられるような要素を増やしていないというのは、本作の美点の一つでもある。

 そのなかでも本作が巧みなのは、スポンジやネズミ(せっかくなので詳細は伏せる)など、特にプレイヤーに大きなサプライズを与えるであろう特殊アクションについて、たったの1ステージでしか使わないという贅沢な判断をしているということだ。膨らんで浮いたり、前方に思い切りダッシュしたりといった、基本的なアクションから派生したものはゲーム全体にバランス良く配置されているが、そうしたアクションに慣れてきたあたりで、あっと驚くような能力が登場することで、ゲームにさらなるダイナミズムを生み出しているというわけである。こうした「しっかりとした土台のもとに、常に軽めの刺激で起伏を作りながら、ここぞというタイミングで大きなサプライズを与える」という考え方は、『アストロボット』のさまざまな部分において見られるものであり、本作が「最初から最後までワクワクし続ける体験」を提供してくれる理由でもある。

 そんな「軽めの刺激」のなかでも特に強い印象を与えるのが、各ステージに用意された「スペシャルボット」の存在だろう。『Ghost of Tsushima』から『パラッパラッパー』まで、PlayStationを代表する新旧さまざまな名作のキャラクターをモチーフとしたスペシャルボットたちは、その存在自体がうれしいサプライズであり、(特にゲームに思い入れがあるほど)プレイヤーに確かなモチベーションを与えてくれる。スペシャルボットの発見時に、あえて登場元の作品名を明記していないのも絶妙であり、外見や名称、説明文から元の作品を想像するのは、それ自体がある種のクイズ的な面白さを持っている。一見しただけで分かるような超メジャー作品はもちろんだが、「絶対に見たことはあるのだけど、名前が出てこない」タイプのボットが出たときこそ、このアプローチは真価を発揮しているように思う。

PlayStationを代表するシリーズの魅力を見事に落とし込んだヒーローステージの存在感

 一方、「大きなサプライズ」のなかでも特に強いインパクトを与えるのが、各プラネット(いわゆるワールド)の最後のステージとして用意されている、PlayStationの歴史を代表するシリーズを大きくフィーチャーした「ヒーローステージ」である。リリース直後に「サルゲッチュ」を再現したステージがSNSを中心に大きな話題となっていたが、ほかにも同様のステージがいくつか用意されているのだ。驚くべきは、これらのステージでは基本的なゲームメカニクスに加えて、「サルゲッチュ」の場合はL2ボタンが「サルレーダー」(周囲にいるピポサル――の姿をしたボット――の場所をサーチする)、R2ボタンが「ゲットアミ」(ピポサルを捕まえる)といった具合に、シリーズのプレイフィールを再現した独自のアクションが追加されるということ。その仕上がりぶりは単なるファンサービスの域を遥かに超えており、もはや各シリーズの疑似体験といっても過言ではない。

 特に、序盤に用意された「ゴッド・オブ・ウォー」のステージは、端的に言って完璧だ。追加されるアクションはもちろん、レベルデザインからキャラクター、サウンドトラックにイースターエッグ的な要素まで、わずか15分〜20分ほどのボリュームのステージの隅々まで『ゴッド・オブ・ウォー ラグナロク』の要素がぎっしりと詰め込まれている(ゲームプレイの裏側でローディングをするための、狭い通路を通る場面まで用意されているのには笑ってしまった)。各ステージで使える独自のアクションは、それこそほかのステージでも使いたくなってしまうようなものばかりだが、やはり使い回しは一切ない。だからこそ、この「ヒーローステージ」で遊んでいると、本当に贅沢な体験をしているという満足感に浸ることができるのである。

 こうした「ヒーローステージ」の存在は、各プラネットの区切りとしても分かりやすいし、ストーリー要素の少ない本作において、ゲームを進めていくうえでの最も大きなモチベーションになる。一度、「サルゲッチュ」のステージの完成度の高さを目の当たりにしてしまうと、「じゃあ、この先には何が待っているんだろう?」というワクワクが止まらなくなってしまうのだ。それは、PlayStationの歴史を辿り、未来へ向かうという本作の位置付けと重なるものでもあり、クライマックスではまさに「総力戦」と呼ぶに相応しい、凄まじい光景を目の当たりにすることになる。

ただかわいいだけじゃない。実は過激な演出がさらにプレイヤーを惹きつける

 ここまで『アストロボット』のゲームプレイの魅力について掘り下げてきたが、ただ面白いだけでは必ずしも最後まで楽しめるというわけではないのが、ゲームの厄介なところだ。ゲームの面白さを磨き上げるだけではなく、何か別のアプローチによってプレイヤーを惹きつけ続ける必要があるわけだが、ここで重要なのが主人公のアストロくんを筆頭とした、キャラクターや世界観の魅力である。

 これはスクリーンショットやトレーラーを見れば一目瞭然だが、小さいながらも懸命な表情でさまざまな挑戦に臨むアストロくんの姿は、とにかくかわいい。しかも、ただ見た目がかわいいだけではなく、雪景色が広がるステージでは凍えていたり、マグマで覆われたステージでは暑がったり、ちょっと放っておくとPS oneで遊びだしたり、カメラを合わせるとプレイヤーに向けて笑顔で手を振ったりと、アストロくんに用意されている動きのバリエーションは非常に多く、見ていて飽きることがない。現時点ではアストロくんはPlayStationの公式マスコットというわけではないのだが、『アストロボット』を遊び終わるころには、もはや勝手にその認識を抱いてしまうのではないだろうか(少なくとも筆者はそう思っている)。

 それだけでも十分ではあるのだが、重要なのは、実は本作には過激な演出が多いということだ。膨らんで破裂したり、炎に焼かれて消し炭になったり、水中を無表情のままにゆっくり沈んでいったりと、アストロくんの死亡(?)パターンはコミカルでありつつもどこか生々しい。さらに、ボスに至っては、目玉を直接ボコボコに殴られたり、歯を何本もへし折られたり、身体の一部を限界まで引っ張られたりしている(このアートスタイルでなければ、R-18どころか発禁レベルといっても過言ではない)。そもそも、ゲームのメインの目的であるはずのボット救出時も、さっきまで囚われていたはずの相手を思いっきりぶん殴っているわけで、相当に倫理観にズレを感じる。また、とあるステージでボットの骨(?)と思わしき物体が大量に積み上がっていた際には、普段、『DOOM』を楽しくプレイしているような自分ですら「うわぁ……」と少し引いてしまった。

 だが、こうした罪深い(?)要素によって生まれるスリルや勢いこそが、本作にコミカルで尖った魅力を与えている。思えば、こうした演出は「クラッシュ・バンディクー」や「スパイロ・ザ・ドラゴン」といった、本作の先祖でありPlayStationを代表する3Dプラットフォームアクションにも通ずるものだ。そのルーツは90年代後半という、(あえてこういう言い方をすると)露悪的で過剰なものが支持された時代にあり、『アストロボット』はそこにある露悪的な要素をなるべく削ぎ落とし、徹底的にコミカルで親しみやすいテイストに磨き上げることで、当時の作品にあった独特の魅力を現代的にアップデートしている。これは、「ちいかわ」などにも見られる「かわいそうでかわいい」感覚にもつながっており、だからこそ、ただでさえかわいいのに、プレイを重ねていくごとに、より惹きつけられてしまうのだ。

 あらためて書くが、本作のベースが「マリオ」を参照していることは自明であり、さらに言えば、ステージ内に配置されたキャラクターを助けながらステージを進めていくというゲームの基本的な構造についても「レイマン」シリーズを想起させる。だが、『ホロウナイト』が「メトロイドヴァニアだから」という理由で評価を落とすことがないように、『アストロボット』も既存の作品の要素をうまく取り入れながら、軽めの刺激や大きなサプライズを絶妙に盛り込んだゲーム全体のリズムと、魅力的なキャラクターや世界観を作り上げることによって、ユニークで優れたゲーム体験を生み出すことに成功している。しかも、その根源にあるのは、これまでにPlayStationが作り上げてきた歴史そのものなのだ。だからこそ、『アストロボット』を触っていると、最初から最後までワクワクすることはもちろん、「ゲームを遊ぶ」ということの喜びを強く感じられるのである。

これまでのPlayStationの歴史を総括し、新たな未来へと向かう象徴

 ここまで書いてきたように、『アストロボット』が圧倒的な完成度を誇る優れたゲームであることは間違いない。だが、一方で本作を遊んでいると、時々、何とも言えない気分になってしまうことがあるのも事実である。なぜなら、305体ものボットたちとの出会いやイースターエッグの数々を通して、いかに休眠状態のシリーズが多いのかを思い知ることになるからであり、それは、ある意味では本作における最大の欠点と言っても良いかもしれない。

 「アンチャーテッド」のように完結が明言されているものは良いのだが、「サルゲッチュ」「パラッパラッパー」「ジャック×ダクスター」「鬼武者」「リッジレーサー」など、ファースト/サードを問わず、その名前を聞かなくなって久しいシリーズは枚挙に暇がない。「懐かしい!」と同時に「懐かしい……」という感覚を抱いてしまうのが、本作を遊ぶうえで何よりもつらい部分である。

 だが、本作に登場するすべてのゲームをプレイしたことがあるという人もまた、限りなく少ないのではないだろうか(最近になってゲームを始めた人にとっては、もはや意味不明かもしれない)。「これって何のキャラクターだろう?」と調べてみたら、「名前は聞いたことがある!」と気付いたり、あるいはまったくピンとこなかったりするのは、本作ならではのユニークな体験だ。そうしてそれまでに触れたことのないゲームに興味を持つきっかけが生まれるというのは、もしかしたら本作が持つ何よりも大きな価値なのかもしれない。

 そもそも、『アストロボット』は極めて完成度の高い3Dプラットフォームアクションゲームであり、こうしたノスタルジア的な側面はあくまでその一部分にすぎない。本作はこれまでのPlayStationの歴史を総括する作品であると同時に、その歴史を彩ってきた作品との出会いを生み出すきっかけの場所でもあるのだ。それは、一度はバラバラになってしまった各時代のPlayStationが残したものを再び集め、一致団結して未来へと向かっていく本作のストーリーとも見事に重なっている。

 というわけで、筆者は本作をプレイしたことをきっかけに、これまで遊んでこなかった「アンチャーテッド」シリーズを始めてみたり、すっかり放置してしまっていた『Horizon Zero Dawn』のDLCを進めたり、すでに何度もクリアしているはずの『Bloodborne』にまた挑戦したりという日々を過ごしている。本作の持つ広告性に踊らされているといえばそれまでだが、優れたゲームを遊ぶことで、もっとたくさんのゲームを遊びたくなるのであれば、それ以上に幸せなことはないだろう。だが、何よりも期待しているのは、『アストロボット』の先に待っているであろう、新たなPlayStationの傑作だ。近年のゲーム業界は率直に言って暗い話題ばかりで、希望を抱くことすら難しかったりもするのが実情だが、本作を遊んでいると、そうした気分をアストロくんが明るい笑顔で吹き飛ばして、「ゲームは面白い」というシンプルな事実を思い出させてくれるのである。

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