福岡晃子が語る“microKORG愛” チャットモンチーでもソロワークでも活躍する名機の「トリッキーな使い方」

福岡晃子が語る“microKORG愛”

 2002年に発売され、世界的大ヒットを記録した小型シンセサイザー『microKORG』。デビューから22年の時を経ても色褪せず、ミュージシャンたちからは“名機”と呼ばれる一台だが、2023年にはスケルトン仕様の『microKORG Crystal』が発売され、大きな話題を呼んでいる。

 そこでリアルサウンドテックでは、microKORGを愛してやまないミュージシャンにインタビューを行う企画を実施。今回はチャットモンチーのベーシストとしてデビューし、現在はaccobin名義でソロ活動を行う福岡晃子にインタビュー。自身のキャリアやチャットモンチー時代の秘話、”ベーシストならではのmicroKORGの使い方”、そして新製品である『microKORG Crystal』について、たっぷりと話を聞いた。(編集部)

「microKORGは3人体制のときから使っていた」

福岡晃子が語る「KORG愛」
福岡晃子

――まずは福岡さんが音楽を始めたきっかけ、ベースを選んだ理由を聞かせてください。

福岡晃子(以下、福岡):音楽を始めたのは幼稚園のころで、最初にやっていた楽器はピアノなんです。

ーーそもそも、ベースからのスタートではなかったと。

福岡:幼稚園から高校生まで習っていましたが、凝縮したら1年くらいしか練習してないと思います(笑)。先生が優しかったから、ピアノ教室に行ったときに練習するくらいだったんですよ。一応、譜面見ながら弾いたり初見で弾いたりはできましたけど、その程度で。「そんな長いことやってたの?」って思うくらいのものしか弾けませんでしたね。

ーーそこからベーシストに転身して、チャットモンチーに加入したわけですか。

福岡:中学生くらいのときにSUPERCARに衝撃を受けて。ベーシストのフルカワミキさんが元々は初心者だったけど頑張って練習してデビューしたというのをインタビューで読んで「初心者でもバンドってできるんや!」って思って「いまからだったらできるかもしれない!」とベースを手に取ったのがきっかけでした。でも、そのときは周りに誰もバンドをやっている子がいなくて、一人でベースを弾いているだけだったんです。曲に合わせて弾くのは楽しかったんですけど、段々つまらなくなってやめちゃって。でも高校生のときにチャットモンチーに出会って、ベースとドラムが辞めるという段階で誘っていただいたので、ベースとして加入しました。

――ピアノをやってらっしゃったころとバンドを始めたころとでは、聴いている音楽や影響を受けた音楽も違うのでは?

福岡:ピアノを習っている頃はクラシックを弾いていましたし、家では本当に限られた音楽しか流れてなくて。小学校のときとかはCHAGE and ASKAとか、当時のヒット邦楽しか聞いてなかったですね。その後自分がチャットモンチーに入るとなったときにはいろんな音楽を知らないといけないと思って、海外の音楽にも本格的に触れるようになりました。

――クラシックとバンドの音楽とでは、演奏も180度変わりますよね。

福岡:やっぱりクラシックって、いかに楽譜を表現するか、作曲者の思いを汲むかとなってきますけど、当時の私はそれがまったくできていなかったと思うんです。でもバンドって自分で作っていいし、いわゆる音楽理論とかもまったく無視してできる。自分でコードを作ったりできるのがすごく楽しかったんです。なので自分のベースラインも音楽理論を知ってる人からは「気持ち悪い、不協和音」とよく言われたりしたんですけど、それが駄目とは言われないというか。それも味になってくれるから、クラシックとは違う自由さに惹かれましたね。

ーー実際にコピーしたこともあるのでその視点からお話すると、福岡さんの作るベースの音って、結構前に出たり後ろに下がったりと自由自在なアプローチの印象があって。「自由に」とありましたが、どういうイメージで作ることが多かったですか?

福岡:私のなかでベースラインを作る時は、曲に対して「編み上げる」ようなイメージでしたね。

――ありがとうございます。チャットモンチーはスリーピースのバンドとしてキャリアを歩んでいきましたが、ドラムの高橋久美子さんが脱退して2人体制になってからは、福岡さんがドラムやキーボードも担当するようになっていきました。あのステージセットを見ると今でもすごく異色だなと思うのですが、どういった経緯で実現に至ったのでしょうか?

福岡:まず、自分がドラムを叩くというアイデアは本当に賭けだったんです。もしそれが成功したらお客さんが盛り上がるんじゃないかと思って。メンバーかつドラム素人の私がドラムを叩くことで、その後に違うドラマーさんが来たときの緩衝材になれると思ったんですよね。お客さんを悲しませないサプライズにもなるし、その後もっと上手い人が来てくれたときにもっと盛り上がると思ったし。脱退をネガティブに捉えてほしくなかったんです。あとはやっぱりツーピースをやるからには、やったことない楽しそうなことを追求したいという気持ちもあって。最初はベースも置いちゃってギターとドラムでライブしてたんですけど、ベーシストなのもあってローが足りないのが気になってきて。ツーピースって言ってるのにベースを入れるのは邪道な気がしちゃったんですけど、ライブってローがあって乗れる部分がかなりあると思うし、自分がバスドラムを踏んでいても、その帯域を伸ばしてくれるのがベースだと思ったんですよね。ベースがあることが安心感とかグルーヴにも繋がってくると思ったときに、microKORGをめちゃくちゃ使っていました。

『microKORG』
『microKORG』

――そのタイミングでmicroKORGを買ったんですか?

福岡:microKORGは3人体制のときからあったんです。スタッフの人が「すごく名機だから1個は持っといた方がいい」と勧めてくれて、壊れて2台目を買った記憶もあるくらい使ってました。でも多分レコーディングで使っていたくらいで、ライブではあまり使ったことがなかったと思います。でもツーピースの後期に“チャットモンチー・メカ(※)”をやり出したときに、同期のローだけでなく実機のロー感が欲しくなったんですよね。たとえばベースを弾いた音源を同期で流すより、MIDI音源でインして鳴らす方が厚みが出るし、ディケイしないでサステインがずっとあるのが私好みで。減衰しないスーパーローもすごく出るから、かなりmicroKORGで対応していました。

※チャットモンチー・メカ:生演奏+ルーパーなどの機材やソフト、打ち込み音源を使い、2人だけでステージを完結させていた2016年〜2018年のチャットモンチー、リリース時期でいえば『majority blues/消えない星』〜『誕生』の時期を指す言葉。

『microKORG』を触る福岡晃子
『microKORG』を触る福岡晃子

ーー使い方は独学に近い感じだったんですか?

福岡:独学で始めたんですけど、メカモンチーの時はかなりPOLYSICSのハヤシさんにお世話になりました。宅録のやり方や打ち込みの仕方はハヤシさんの影響をすごく受けていると思います。実際にハヤシさんも同じ打ち込みのソフトやmicroKORGを使っているので話が早くて。

ーーそうだったんですね! ハヤシさんに教えてもらったということは、ボコーダー的な使い方も……?

福岡:ポリが使っているのを見てずっと羨ましいと思ってました。ただ、ボコーダーはまだ音源でもライブでも使ったことがないんですよね……。いつかやってみたいかも。

――スリーピース時代はどのようにレコーディングで使っていたんですか?

福岡:本チャンで使ったかは分からないけど、デモではよく使ってました。シンベに挑戦してみたいときにはシンベとして機能してくれたり。2人時代の後期、特に最後のアルバムはかなりmicroKORGでリフを作って、それをサンプリング的に使うことが多かったです。

ワイヤレス使いにドラムとの併用……トリッキーな福岡晃子流“microKORGの使い方”

『microKORG』を弾く福岡晃子

――microKORGが実際のライブに登場したのはツーピース以降だったと思いますが、福岡さんの場合はmicroKORGだけを弾くという使い方ではないからこそ、いろんな難しさがあったのかなと思います。

福岡:そうですね。ステージ上に2人となると、物理的に寂しくなるじゃないですか。なのでとにかく動き回りたくて。本当はドラムとギターボーカルだけだから立ち位置が決まってて動けないはずなんですけど、ドラムをループさせて立ち上がって、microKORGも電池駆動のワイヤレスにして肩にかけて客席を練り歩いたりしました。ちょっと邪道ですけど、お客さんを巻き込んでいきたくて。microKORGはベースの音も出るしメロディーも出せるから、すごく演奏している実感があるんです。それをお客さんに見せながら練り歩くのがすごく楽しくて。あとはステージ上にいるときも、アウトラインは2系統使っていて、MIDIで音を出すのと同時に、ベースアンプからも出してたんです。なのでステージ上の中音でもベースが鳴っていて、メンバーにもローで高揚感を味わわせることができたから寂しくなかったというか。そういう風にリアンプを駆使したりしてましたね。

――改めてお伺いすると、本当に特殊ですね。

福岡:3人のときより物量がめっちゃ多かったです。microKORGをどう使うのが本来の使い方なのか分からなくなるくらい、感覚的に「これでなにができるのか」というのをガチャガチャと手を動かしながら探していましたね。そういえば、弾き方も特殊だったかも。すごい細かい話なんですけど、スケールが短くてドラムを叩きながらだととてもじゃないと見れないので、microKORGの端っこに指を引っ掛けながらスケールの位置を把握して弾いたりしてて。そういう意味でこのサイズ感もめっちゃ便利だったんですよ。

――そんなトリッキーな使い方が……(笑)。

福岡:あのときはスタッフのみんなが、私たちの望みを叶えるために、いろんなシステムを「こんな使い方したことない!」って言いながら駆使してくれてたんです。とはいえ、一つ間違えたら音がまったく出なくなるから、毎回緊張感がすごかったですよ。場所もスイッチングするたびにモニターの音を入れ替えなきゃいけないし、2人ともイヤモニを絶対しなかったし。動き回るから線だらけになってもいけないので、繋ぎ方を工夫しつつなるべく少なくする必要もあって。

『microKORG』を弾く福岡晃子
『microKORG』を弾く福岡晃子

――凄まじいことをしていたんだというのが、あらためてよくわかりました……。直近では昨年7月にaccobin名義のアルバム『AMIYAMUMA』をリリースしましたが、聴かせていただいたかぎり、結構microKORGを使っているような。

福岡:そうですね。minilogueとかもすごく使わせてもらってます。改めてこうしてお話しすると、私ってKORGの音源がすごく好きなんだなと思いました(笑)。

――ドリーミーな音色を多用されているように思いましたが、それもある種microKORGらしい使い方だと感じました。

福岡:ドリーミーだと思うし、microKORGは懐かしい音色が多い印象があって。ハイファイすぎないところがすごく好きなんです。いま自分が新しく作るものにもそういった懐かしくて優しい音を使っていきたいと思っていたので、たくさん使わせていただいています。

――ソロ作品の話も出ましたが、チャットモンチーが“完結”して以降、福岡さんは地元・徳島を拠点に活動されています。accobin名義での活動やイベントスペースOLUYOの運営など、現在の活動についても聞かせてください。

福岡:チャットモンチーをやっているときから徳島市内にOLUYOというイベントスペースを構えていて、チャットモンチーのイベントもやったことがあったんです。2018年にチャットモンチーが完結してからも、イベントスペースはずっと続けていて。2020年、新型コロナウイルスが蔓延したタイミングで徳島に戻ったんですけど、移住した先は自分の実家がある徳島市内とは全然違う、誰も知り合いがいないところに引っ越したんです。なのでそこで改めて新しい自分になっていく感覚がありました。

 これまではチャットモンチーの福岡晃子としてずっとやってきたし、バンドのことしか考えてなかったけど、誰も知らない土地に行って1から人間関係を構築して、初めて等身大の自分として生活を送ることをしている気がしますし、チャットモンチー結成以降初めて自分の名前が返ってきた感じがして。いまならソロを作れるような気がすると思って、作りはじめたんです。自分の好きなものとか、「こういうのを作りたかったよな、自分」みたいなのを音を鳴らしながら確認しているうちに、「これを曲にしたい」と純粋に思えるようになってきて。それを形にしたいと思うまでに3年半ぐらいかかりました。それでやっとできたのが『AMIYAMUMA』なんです。『AMIYAMUMA』は徳島にいるからできたアルバムだし、徳島の環境音とかもいっぱい入れているんですけど、それが自分が一番出したい音で、徳島の風景が思い出せるような音を作りたいと思って作りました。

――環境音だけでなくお子さんの声も入っていたり、ある種のタイムスタンプといいますか、このときのこの場所の記憶をパッケージングするというか。周りの環境も含めて自然体なものを作るというのがアルバムとして伝えたいことだったんですね。

福岡:チャットモンチーをやっているときは、小説を書くような気分で曲を作っていて。起承転結があってお客さんが盛り上がるところを作ってかっこいいものにするという前提でしか曲を作っていなかったんですけど、自分のソロの音楽ではむしろそれができなくて。エッセイを書く感覚でしか曲を作れなくなったんです。前は音楽の中にちょっとだけ自分の生活がある、という感じだったんですけど、いまは音楽が生活の一部になりましたね。

――音楽性も、なにかのジャンルに縛られている感じがしなくて。本当に解き放たれているというか、まさにジャンルレスだなと感じました。

福岡:そうなんですよね。『AMIYAMUMA』というアルバムタイトル自体、自分の子どもが生まれて初めて発した言葉らしき言葉なんですよ。アルバムの制作も、音楽を作ってるという感覚よりは自分の今の情景を形にしたというだけで、「これが音楽です」とはあまり思ってなくて。なのでジャンルにしにくいし、言語化しにくいものになっていると思います。

――生活の様式も環境も変化して作る音楽も変化したいま、聴く音楽も変わってきているのではないですか?

福岡:前は最新の音楽とか新曲をいつもチェックしてたんですけど、いまはYouTubeで曲を聴くことも多くて。子どもが好きな音楽を聴くことが多いんですけど、日本語の曲も英語の曲も隔たりなく、なんでも聴くんです。だから子どもが気に入った曲を100万回くらい一緒に聴くっていう(笑)。でも、いままではぱっと曲を聴いたときに、「こういうフレーズいいな、私も作ろう」みたいに仕事耳で聴いていたのが、いまは「子どもはこの音源のどこにこんなに興味を持ったんだろう」とか、「この子をびっくりさせるような曲を作りたいな」とか、そういう風に思っていて。3歳の子どもと何回も同じ曲を聴いてます。

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