原音に忠実な音楽に魅了されて スキマスイッチに聞く名門オーディオブランド「AKG」の魅力
スキマスイッチがデビュー20周年を迎えたアニバーサリーイヤーが、今年7月にリリースされた通算10枚目のアルバムで終わりを迎えた。この1年間で、彼らはベストアルバム『POPMAN’S WORLD -Second-』やトリビュートアルバム『みんなのスキマスイッチ』をリリースし、初の主催音楽フェス『スキマフェス』を開催するなど、数々の企画を実現。思えばコロナ禍でもユニークな活動を積極的に行い、「音楽にできること」を追求してきた彼ら。そのモチベーションはどこからきていたのだろうか。大橋卓弥と常田真太郎にここ数年の活動を振り返ってもらい、後半では名門オーディオブランドAKGが伝統と実績に則りつつも、最新テクノロジーを搭載したヘッドホン『AKG N9 Hybrid』の試聴とそのポテンシャルについても話してもらった。(黒田隆憲)
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デビュー20周年のアニバーサリーイヤーを超え、希求し続ける「音楽の力」
──コロナ禍に突入した2020年からスキマスイッチは、無観客の配信ライブ『Streaming LIVE "a la carte 2020" ~実際にやってみた!~』を行ない、YouTubeで『スキマスイッチのこのヘンまでやってみよう』という動画企画も立ち上げました。後者は現在も続いていて、登録者数も約40万人に達しています。
大橋:コロナで活動が止まってしまい、そういう時に音楽がどれだけ力を持つのかは正直分からなかったけど、それでも何か発信したいという気持ちで始めたのが無観客の配信ライブとYouTubeでした。後者は何が正解かも分からず、みんながどう感じるかも分からなかったけれど、少しでも暗い雰囲気が和らいだり、気が晴れたらいいなと思って取り組んでいましたね。
──2020年に8thアルバム『Hot Milk』と9thアルバム『Bitter Coffee』を同時リリースしたのも画期的だったと思います。ただ、これはコロナ禍で考えたのではなく前作『新空間アルゴリズム』のリリース直後から構想を練っていたそうですね?
大橋:はい。実は、最初はもっと多くのアルバムを同時にリリースしようと考えていたんです。例えば5枚組とか、かなり大胆なアイデアもありました(笑)。CDというメディアがだんだん手に取ってもらいにくくなってきていて、それが作り手としては悲しい。もちろん、便利で低価格なサービスがあるならそれを求めるのは当然ですし、僕たちも利用していますからね。それでもやはり、CDというフォーマットで作品を届けたい気持ちは強く、同時リリースのアイデアに繋がりました。
常田:ただ、あのアルバムでかなりの曲を使い切ってしまったんですよ。20周年イヤーのうちにもう一枚新しいアルバムを作るという暗黙の了解があったのですが、「本当に出せるのか?」という気持ちになりましたね。これまではだいたい4年に一回のペースでアルバムを出してきたけど、さすがにストックが尽きる怖さを感じていました。
──その新作『A museMentally』を聴かせていただき、まさにスキマスイッチらしい作品だと感じました。バラエティ豊かで、楽曲それぞれのクオリティも非常に高いですね。
大橋:ありがとうございます。アルバムを作り終えると、毎回「もう次は何も出てこないんじゃないか」と不安になりますし、昨年の武道館で「今年の7月にアルバムを出します!」と発表したのもあって制作に追われる日々でしたが(笑)、結果的にやりたいことを詰め込むことができました。シングルっぽい楽曲や、初期のスキマスイッチの雰囲気を思い出させるような曲も取り入れることで、アルバム全体のバランスも良くなったし。苦労もありましたが、その分楽しさも感じられる制作でしたね。
──その武道館で開催された、史上初の「漫画と音楽ライブのコラボレーション」となる『Soundtrack』(2022年)も画期的でした。
常田:コロナ禍で「声が出せない」という制約があり、静かな雰囲気のライブを試みようと話し合った時に、卓弥の提案で「漫画がメインとなるライブ」をやってみることになりました。当初、スキマスイッチが完全に背景に徹する形も考えましたが、実際にはパフォーマンスも見せる必要があったので、そのバランスは考えましたね。コロナ禍ならではの、非常に実験的で楽しい挑戦でした。
──先ほど大橋さんがおっしゃったようにCDが売れにくい時代ですが、そんななか『奏(かなで)』がBillboardでストリーミング1億回再生を達成しました。過去の曲がリアルタイムで再評価され、再び聴かれるようになるのは、ストリーミングの良さのひとつかもしれません。
大橋:皮肉な言い方に聞こえるかもしれないけど、ストリーミングが普及するまで僕らはCDの売上枚数でいわゆるミリオンセラーを出したことがないんですよ。そういう意味ではストリーミングで広まる機会が増え、20年前の楽曲が今でも多くの人にカバーされたり、カラオケで歌われたりしているのは本当に嬉しいことです。代表曲は意図して作るものではなく、リスナーに受け入れられて初めて成り立つものだと思うので、その意味では運が良かったと感じていますし、感謝もしていますね。
──カバーという意味では、アニバーサリーイヤーに初のトリビュートアルバム『みんなのスキマスイッチ』がリリースされ、多くのジャンルのアーティストがスキマスイッチの楽曲をカバーしました。また、『スキマフェス』では世代やジャンルを超えたラインナップになりました。
常田:フェスを立ち上げるのは想像以上に大変でしたが、同世代のアーティストたちがフェスをやっているのを見て刺激を受けたんですよね。多くの素晴らしいミュージシャンたちが参加してくれたことで、20年間の活動に自信を持つことができました。特にゆずが僕らを「戦友」と呼んでくれたことは、仲間としての強い絆を感じましたし、他にも色々な場面で先輩や後輩、仲間たちの存在の重要性を再認識しました。
『みんなのスキマスイッチ』に関しても、まさか自分たちがトリビュートアルバムをリリースする日が来るとは夢にも思っていなかったので、とても嬉しく感動しました。コード進行やアレンジの違いで自分たちの曲がどう変わるのかも楽しみでしたし、とにかく新鮮で学びの多い経験でした。
──ここでお二人のリスニングライフについてもお聞きしたいのですが、普段は音楽をどんなふうに楽しんでいますか?
大橋:僕はプライベートでも常に音楽が流れていますね。作業中も、リラックスしている時も音楽をつけておくことが多いです。移動中もそう。スマホひとつで何万曲も楽しめるのは本当に便利だと感じています。新しい曲から古い曲まで、インストゥルメンタルやジャズ、ファンク、フュージョンなどジャンルに偏ることなく幅広く聴いていますし、誰かに勧められた曲や偶然聴いた「これ、かっこいいな」と思った曲はすぐに調べて聴きますね。
常田:卓弥が隣にいると、僕はまだまだだなと思います(笑)。音楽を楽しむのは車を運転している時が一番多いかもしれない。ラジオよりもストリーミングやサブスクで流れる曲を聴くことが多いです。次々とおすすめされる曲を聴くのが好きで、ランキングにはあまり興味がありません。Spotifyのアーティストラジオもよく活用しますよ。曲を聴いて「これなんだろう?」と思ったら、Shazamで調べる。最近は「空前の80年代ブーム」が我が家に訪れていて、みんなで聴き合ったりしています。音楽はコミュニケーションツールとしても良いと思っていて、曲をおすすめし合ったり、「これ知ってる?」という会話が自然と生まれるんですよね。
──普段からお二人で「おすすめの曲」を聴かせ合っているのですか?
大橋:はい。「この曲、あれじゃない?」って言ったらすぐに調べてくれて、「それそれ!」ってなる瞬間が楽しくて。この間も全然何の曲か、どのアーティストかも分からなくても「この間、UNIQLOで流れていた曲があってさ。女性シンガーの曲で……」とシンタくんに話したら、すぐ「これじゃない?」とスマホで流してくれて「それそれ!」ってなったんです。
──それはすごい。おそらく似たような曲を、お互いに聴いていることが多いんでしょうね。聞いている曲が、作曲のヒントになるようなこともありますか?
大橋:そういう感覚も全くゼロではないですね。一般的な聴き方をなるべくしたいと思っていても、どうしても研究的に聴いてしまうこともあります。でも、意外と僕は普通のリスナーさんと同じような感覚で聴けているんじゃないかな。
──最近の新しい若いアーティストや海外のアーティストなども、ジャンルを問わず聴いていますか?
大橋:そうですね。ただ、新しいから聴いているわけではなく自分の中で「新鮮に感じるもの」を聴いています。たまに、「新しいと思ってたら実は5年前の曲だった」ということもありますけど(笑)。でも、いろいろなジャンルにアンテナを張って、常に新しい音楽を聴きたいとは思っていますね。