にじさんじ・壱百満天原サロメの成長譚 高潔な精神性と自罰的な思考のはざまで
デビュー初期から“異質” 壱百満天原サロメの飛び抜けたポテンシャル
前回の記事を執筆した当時、筆者は彼女についてこう評している。いくつか抜粋しよう。
〈彼女は1時間ほどの配信の中で、自身のパーソナリティをフルに活かした配信を届けてくれる。この1時間というタイム感覚も、テレビ番組などを通じて体感として分かりやすく、彼女を見に来た新しいリスナーたちにとって親しみやすい〉
〈ゲーム内でのやり取りやハプニングをきっかけにした返答・リアクション、思わず飛び出す口の悪さとキレッキレなワードチョイスが彼女の配信でメインとなる笑わせポイントだ〉
〈「すでになっている」のではなく、「これからなろう」とする。彼女(壱百満天原サロメ)は、架空性のある設定を背負って演じるのみならず、架空性の強い夢・目標を掲げて、これから先の未来に向けて邁進する〉
こういった評価をしているわけだが、デビューから約2年が経過したいまでも、この本質に大きなブレはないように感じられる。
デビュー当初は1時間ほどであった配信も、彼女がゲームに慣れてきたという一面もあって徐々に長時間に渡って配信できるようになり、今年のにじさんじを象徴する大規模企画『にじさんじGTA』に参加した際には4~5時間ほどの配信、『スーパードンキーコング』のクリア耐久に挑んだ際には連続17時間以上に渡って配信するなど、年々ゲーマー/配信者としての体力を身につけつつある。
彼女自身は決してゲーム上手というわけではないものの、先に上げたようにジャンル・年代問わず様々なゲームタイトルに触れてきている。そんななかで、彼女がもっとも得意としているゲームジャンルを強いてあげるとするなら、格ゲーではないだろうか。デビュー以前に『ギルティギア』『東方非想天則』『MELTY BLOOD』『アルカナハート』などをプレイしており、ゲームセンターでもプレイしていたことがあるようだ。
「下手の横好きですのよ」「ヘタなりに無言でコンボを練習していた」と彼女は語りつつ、『ストリートファイター6』ではアーケードコントローラーを使い楽しそうにプレイしているのは、やはり新鮮だ。
「サロメが『SF6』をプレイする」「しかもアケコンでプレイする」という意外性ある話題はファンの間でも注目をあび、その後も度々格ゲー配信をしたり、大会に出場したりもしている。ちなみに「格ゲー界の神」とも評される梅原大吾は、彼女と初めて接する際に予習をし「フリーザの第二形態くらい強い」「視聴者数がすごい」と出会う前から気圧されていた。
デビュー当初からキレキレであった「お嬢様言葉・口調+ネットミーム」を絡めた言動は、現在でも相変わらず。小ボケ・ツッコミ、ところどころ垣間見せる常識外れな振る舞いも笑いを誘うのだが、じつは彼女は関西出身。配信でところどころ関西弁らしいイントネーションが混じっているだけでなく、「ユニバ」などの発音やイントネーションでリスナーと討論する、母親との会話を関西弁で再現してみせたりと、配信中に関西人らしさを感じる瞬間が何度かある。
そう考えると、デビュー時から輝いていた異様な“ツッコミ力”の高さにもうなづける。ゲーム内のキャラクターや出来事、コラボ中の相手、企画中に出されたお題など様々なモノに鮮烈なツッコミを入れ、時には「半ばキレているのでは?」という一瞬もあるほど。
だがこうした関西人らしい会話中のボケに対するツッコミ気質なスタンスは、自身にとって分からないことや未体験のものに対して「これはなんですの?」と疑問をぶつけ学びを得ようとするアクティブなスタンスへと繋がっているようにみえる。
言ってしまえば、「お嬢様に憧れる一般人」「いつかお嬢様になりたい」と語っている壱百満天原サロメは、自分にとって未知・未体験な事象に相対したときに積極的に知ろうとする過程を、丁寧かつ愛らしくみせているわけで、まさしく言行一致のスタンスだと感じられる。
デビューしてから1ヶ月と立たずにPR配信を任されたのを皮切りに、現在ではより多くの機会を求めてにじさんじ内外かかわらず企画に登場し、さらには企業CM・コラボ企画に多く参加しているのも、一流のお嬢様を目指すうえで彼女がさまざまな経験を会得しようとするロードムービーをみているかのようだ。
こうしてみると、壱百満天原サロメは「活気のある元気の良いタイプの人間」に見えるだろう。だがその実、樋口楓や月ノ美兎は彼女についてこう話してもいる。
「サロメ嬢はとてもフッ軽。人と絡みたがったり、おしゃべりするのが好き。でもコミュ障なんだよね。不思議な人だよ」
フッ軽でおしゃべり好き、しかしコミュ障。相反するような評価だが、実際のところ、彼女がかなり内気なタイプであることも同じように記しておくべきだ。