『Mildom』が5年の歴史に幕 ゲーム配信サイト“2強”突出の問題点と、期待される新勢力の登場

『Mildom』が5年の歴史に幕

 ライブ配信サービス『Mildom(ミルダム)』を運営するDouYu Japanは8月19日、2024年9月1日0時をもって同サービスの提供を終了すると発表した。

 Mildomのサービス終了は、ゲーム配信プラットフォーム市場、さらにはゲームの実況・配信文化にどのような意味を持っていくか。両者の現状から、その問題点と今後の展開を考える。

過渡期に誕生した、中国大手によるライブ配信サービス『Mildom』

 Mildomは、2019年に提供がスタートしたモバイル/PC向けのライブ配信サービスだ。高画質・低遅延をセールスポイントとしており、リリース当初から特にゲームの分野で広く支持された。過去にはeスポーツイベントにおいて、公式の配信プラットフォームとなったこともある。しかしながら、直近は取り巻く環境の変化に対応しきれず、他のサービスに水をあけられつつあった。

 運営するDouYu Japanは、中国最大のライブストリーミングプラットフォーム(※)を展開する闘魚(Douyu)と、日本の三井物産によって2019年に設立された企業。闘魚は子会社であるDOYU HONGKONGを通じ、『Nonolive』と呼ばれるライブストリーミングプラットフォームを東南アジア各国向けに提供していたが、こちらも2024年にサービスを終えている。

 Douyu JapanはMildomのサービス終了の理由について、「ご満足いただける品質でのサービスの提供が困難という結論に至った」と説明している。今後は、8月26日よりサービス内通貨の販売の停止、アカウントの新規登録の停止といった措置が行われ、9月2日から有償通貨の払い戻し対応が始まる予定だ。実況・配信文化の形成に一定の役割を担ってきた有数のサービスが、その歴史に幕を下ろすこととなった。

※2019年時点

実況・配信文化で進む“二極集中”。第3の選択肢が登場する可能性は?

 Mildomがサービスを開始した2019年の実況・配信文化はまだ、一部の人のみが興味を示し挑戦する、比較的アンダーグラウンドなカルチャーだったように思う。プラットフォームでは、それまでの定番だった『ニコニコ生放送』から少しずつ、第2、第3の選択肢への移行が始まっていた時期だったと記憶している。つまり、Mildomにとっては時勢そのものが追い風として作用した面がある。

 そうしたタイミングの良さを十二分に生かす結果へとつながったのが、Mildomの積極的なマーケティング戦略だ。同サービスは母体である闘魚の資本力を武器に、「配信すると、1時間あたり500円以上がもらえる」というキャンペーンを実施。これがゲームプレイでお金を稼ぐことを志す層に刺さり、急速に界隈で名を広めることへとつながった。

 また、他方では、ほかのプラットフォームから有名ストリーマーを引き抜く戦略を展開。特に格闘ゲームのジャンルではその傾向が顕著で、往時にはウメハラを筆頭に、たくさんの有名プレイヤーがMildomを介して実況・配信を行っていた。

 しかしながら、やがてYouTubeやTwitchといった、現在のシーンで二大巨頭を形成するプラットフォームが台頭すると、戦況は厳しいものに。結果的には最後まで独自の立ち位置を確立することができず、いち早くドロップアウトする形となってしまった。

【こくじん雑談】ミルダムがサービス終了… こく兄の反応(2024/8/19)

 実況・配信文化では現在、YouTube、Twitchへの“二極集中”が顕著となっている。Mildomのリタイアによって、こうした傾向は今後さらに加速していくだろう。視聴者/配信者にとっては、利用するプラットフォームに迷わない状況がメリットとして働く面もある。しかしながら、市場の健全性を考えると、その他大勢のサービスにもチャンスが与えられていくべきなのではないだろうか。

 YouTubeをめぐっては数年前から、ストリーマーの収益が減っているという話題を目にする機会が増えている。ここにはプラットフォーマーに入る広告収益の減少、ゲーム配信プラットフォーム市場のレッドオーシャン化といった外的要因がある一方で、サービス内における規約の変更といった内的要因も少なからず存在している。こうした収益性の問題は、Twitchが支持される理由にも通じている。特に配信者側にとって、実入りの多さはプラットフォーム選びの重要な指標となることは間違いない。

 他方、視聴者側の立場で考えると、サービスの使い勝手が良いことと同等、またはそれ以上に、コンテンツの充実度もプラットフォーム選びの基準となる。より多くの配信者が集まれば、そこには視聴者も集まることになる。上述のMildomの戦略は、こうした性質を利用してのものだったのだろう。

 そのような視点に立つと、内的要因によってストリーマーの報酬が減らされている状況を、YouTubeの強気な姿勢ととらえることもできる。同サービスがこのような戦略に打って出られる背景には、ゲーム配信プラットフォーム市場が寡占状態にあることも少なからず影響しているはずだ。つまり、極端な二極集中は結果的に、視聴者/配信者のユーザビリティの低下とも地続きであることになる。

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 今後、第3のプラットフォームが新たに台頭する可能性はあるのだろうか。もし現れるとすれば、潤沢な資金力はその最低条件となっていくだろう。先にも述べたとおり、ゲーム配信プラットフォームをめぐる好循環は、配信者側に十分な報酬を与えるところから始まっている。2大プラットフォーマーの牙城へと迫るためには、Mildomの積極的なマーケティング戦略にも似た大胆な施策が必要となるはずだ。サービスの草創期にそのような体制で運営するためには、先立つものの存在が必要となる。大きな資本を正しく投資してはじめて、第3の選択肢として2つのあいだに割って入ることができるはずだ。

 しかしながら、そうした資金力を持つ企業が、わざわざレッドオーシャン化している同市場を投資先に選ぶとは考えにくい。おそらく今後もしばらくは、二極集中の硬直化した状況が続いていくのではないだろうか。

 Mildomのサービス終了が映し出す、ゲーム配信プラットフォーム市場の未来。健全化と活性化のために、新たなキープレイヤーの登場に期待したい。

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