「未来のリハビリ・福祉・医療にVRを近づける」 VRパフォーマー・yoikamiが目指す「アカデミー賞のその先」(後編)

VRダンサー・yoikamiインタビュー(後編)

「優劣の必要性はない」――渾然一体なバーチャル身体表現の担い手たち

――yoikamiさん以外にも、バーチャル空間で活動してる身体表現者は多くいらっしゃいますし、後進育成の動きもいくつか見られます。黎明期から携わってきたyoikamiさんの視点から、バーチャル空間における身体表現は、どのように発展・変化してきたと感じていますか?

yoikami:私がダンスを始めたとき、日本でVRダンサーとして活動していたのは2〜3人程度だったと思います。そこから現在、VDAには250名以上のダンサーや、ダンサーに興味関心のある方が参加しています。「VRP Dance Studio」といった育成組織も増え続けていますし、いまはもう総数は把握できない規模になっているかなと。VDA所属者と未所属者が同数と仮定すれば、およそ500名ほどがいるのではないでしょうか。

 日本はそこまでダンスに強いわけでも、歴史があるわけでもない国ですが、近年ダンス教育が義務化されました。そうなってくると、自分の生身の体で踊るよりも、好きな姿を選べて、身体コンプレックスの少ないアバターで踊る方がハードルが低く、参入もしやすいのかなと思います。

 もちろん、VRユーザーの母数自体がそこまで多くないので、まだまだこれからです。ここから母数が増えていくと、比例してバーチャル空間で活躍するダンサーや身体表現者が増えていくでしょうから、期待しています。

――総数が増えている一方で、その実力・表現力については何か思うところはありますか?

yoikami:個人的には、ダンスのクオリティなどに優劣をつける必要性は薄いのではないかなと思います。というのも、このバーチャルの世界ではいろんなカテゴリーのダンスが「VRダンス」として一つにまとまっているように感じるからです。

 例えば、私の弟子の一人・Tarakoは、バレエやジャズの要素を取り入れたダンスが得意で、これは剣舞とは全く異なるものです。並べることはできるけど、そこに優劣はないですよね。あえて言うなれば、発想力勝負なのかなと。異なるジャンルや表現手法を混ぜ合わせるのもアリですから。

 また、現実でもダンサーをしている方が、テクニックは優れているけどアバターに合わない動きになって苦戦していることもあれば、『VRChat』でダンスを始めた人がメキメキと育っていくこともありますし、虚弱な身体で運動能力もない人が手踊りから「体を動かすこと」自体に興味をも向けてくれることもあります。その意味でも、優劣を無理につけなくていいかなと。

 もちろん、舞台やコンテストになれば優劣が生まれますし、人ごとの好みもあると思います。けれども、ダンスや身体表現そのものは、優劣なく、ゼロからいろいろなことを考えられますし、どんなことでも始めて問題ないと思いますね。

――これからバーチャル空間の身体表現者として活動したい人に、なにかアドバイスをするとすれば、どんなことを伝えたいですか?

yoikami:これは少し実践的な話になりますが、「きれいで自然なたたずまいができること」を、守るべき基礎として身体に叩き込むとよいと思います!  猫背にならず、骨盤から伸ばし、肩甲骨を寄せて、しっかりと胸を張り、そこから顎を引く。疲れてくると顎が上がり、視線が泳ぎ、足元を見がちなので、そうならないよう意識する。

 ランウェイや、マリリン・モンローのポージングから生まれた古いダンスには、ポージングを徹底的にきれいにするように教えられるものがあります。それと同様に、身体の根幹になるような部分を徹底してきれいにすれば、演者がたくさん並んだときに、まず最初に「姿勢がきれいな人」へ観客の視線が向きます。ダンスでも、演劇でも、パフォーマンス前にアドバンテージを得られ、成功への近道になるはずです。

「Raindance Immersive」ノミネートの裏側

――ここからはyoikamiさんの近況について話題を進められれば。直近では、『Raindance Immersive 2024』に『SHIRO: FOUR SEASONS』がノミネートされました。ノミネートに至った経緯はどのようなものだったか、お聞かせください。

yoikami:『SHIRO: FOUR SEASONS』は、もともと昨年のダンスイベント『にっぽんど真ん中祭り』へエントリーするために作り、セミファイナル進出と奨励賞を獲得したパフォーマンスです。この時点では動画作品として提出していたのですが、せっかくなのでVRでも見てほしかったので、2024年のお正月に『VRChat』にて上演しました。その時の公演を、「Raindance Immersive」の関係者の方に見ていただいたところ絶賛いただき、「これはもっと大規模にやるべきだ」という後押しもいただいて、応募することにしました。

 ただ、出演のノウハウはあっても、こういったものへエントリーするノウハウまではないので、キービジュアルの準備やチケットのやりとりなど手助けもいただきました。

――ものすごい熱量ですね……『Raindance Immersive 2024』自体、12作品も日本からのノミネートがあり、発掘に大きく力を入れている印象です。

yoikami:私自身も、「日本のいい作品はどこにあるのか」とご質問いただいたので、様々なところをご紹介させていただきましたね。

――ノミネートと合わせて、オープニングセレモニーでの『SHIRO: FOUR SEASONS』での上演も打診されたとうかがいました。こうした熱量の高さも含め、『Raindance Immersive 2024』はどのような雰囲気であると感じましたか?

yoikami:今回、ノミネート作品の約30%が日本の作品となり、さらに前回の開催が昨年末だったのに対し、今年は6月の開催となったので、準備期間は少なかったはずで、そのためか前回からの続投クリエイターは少なく感じましたね。

 そして、オープニングセレモニーでお話しをうかがっていると、やはり「Raindance Immersive」は攻めているなと感じましたね。『VRChat』上の会場も一新していましたし、日本人参加者に向けた通訳もアサインしていて、そういった姿勢からとにかく「後ろを見ずに拡大し続ける」という意思を感じられました。この姿勢と熱量には驚かされています。

 もちろん、そこから生まれるのは、良くも悪くも玉石混淆な映画祭であり、作品群になるとは思うんですが、自分は映画祭とは本来そうあるべきかなとも思いましたね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「連載」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる