連載「Performing beyond The Verse」(第3回:VRパフォーマー・yoikami)
「未来のリハビリ・福祉・医療にVRを近づける」 VRパフォーマー・yoikamiが目指す「アカデミー賞のその先」(後編)
真っ白な世界に、和の様式で自然を描く
――あらためて、『SHIRO: FOUR SEASONS』という作品についてもご説明いただければ幸いです。
yoikami:この作品は、古武術演舞、剣舞、扇舞など日本ならではの舞踊で、真っ白な空間に「四季」を表現する演舞です。自分の語りも入るので、「日本風ミュージカル」とも言えますね。これまでの自分のパフォーマンスと比べて、荘厳なものになって驚かれた方もいると思うのですが、根幹にあるテーマは過去の自分のパフォーマンスと共通しています。
――どのような点が共通しているのでしょうか?
yoikami:自分のパフォーマンスには、「障がいを持つ人も、健常者も、不安を抱えて生きる人も、不安は無くとも満たされていない人も、みんなに元気になってもらいたい」というテーマがあります。なので、観客のみなさまに、楽しんでもらい、元気になってもらうことを重視しています。たとえば、ミュージカル系の演目であれば、派手なパレードのような演出や、観客に近づいて行うパフォーマンスなどが組み込まれていました。
一方、『SHIRO: FOUR SEASONS』の舞台は、自然もなにも存在しない、真っ白な空間で、そこに桜などの自然物を描く演目となっていて、少しこれまでの作品とアプローチの仕方が異なります。
現実世界を生きている人は、朝はアラームの音で起きて、ビルがたくさんある街で車の音をたくさん聞き、着信音に怯えながら仕事をする、たくさんのノイズに囲まれた生活をされていると思います。そして、バーチャルの世界はというと、先ほどの話でもあったように、なんでも表現できるがゆえに、派手なものをたくさん見る機会がある。逆に、それに疲れてしまう人もいると思うんですよね。
そんな方々に、真っ白な世界に描かれる自然を見てもらい、心を落ち着かせて元気になってほしい。そして翌日、翌々日に、嫌な仕事に行くときでも、ちょっと自然を目にした時に私の演目を思い出していただき、心のノイズを取り払って、少しでも明るく元気になってほしい、という願いを込めています。
そういう意味で、「元気になってほしい」という根幹のテーマは変わらない作品になってます。
――デトックスで元気をもたらす、と。本作でもそうですが、yoikamiさんといえば剣舞や扇舞といった「和」の要素を作品によく取り入れていらっしゃる印象です。yoikamiさんにとって「和」というテーマはどのようなものなのでしょうか?
yoikami:私のダンスパフォーマンスをテレビなどで見て、それをきっかけに『VRChat』にやってきたり、VRダンスを始めたと言ってくださる方が少なからずいらっしゃるのですが、自身の影響力を感じると同時に、「ダンスが苦手な人」が多くいることにも気付かされまして。
そんな人たちの選択肢として、剣舞や扇舞を提示したいんですよね。自分自身、元をたどれば古武術などもたしなんでいましたし、ならばバーチャル空間で自在に小道具・大道具を取り出し、「ダンスやりたいが、自分はできなかった」という人にも表現の道を提示できるな、と考えたんです。
――身体表現の発展型としての剣舞・扇舞なのですね。実際、『VRChat』はアップデートやユーザーによるツール開発などによって、刀などの小道具を取り出すのは容易になっていますし、調整しやすい様式だと思います。
yoikami:そして、この演目は自分自身にとっては、表現の研究でもあります。これまで、ブロードウェイ的なミュージカル性の高い作品を作ってきたので、今度は「和の演舞」を一つしっかりと作りたいなと考えたんです。
その先にあるのは、SXSWで優勝した時から、私が海外でやる定番のパフォーマンステーマ「Fusion of Culture」です。最初は海外のメジャーソングで、今風の格好で踊ってから、曲の転換に合わせて和装に切り替え、剣舞・扇舞を織り交ぜて、ひとつの演目内に海外の文化も日本の文化もごちゃまぜにする、というものです。
将来的には「Fusion of Culture」を軸に据えた大きな作品を作りたいと思っているんです。それを作り出すには、海外の流れを汲むミュージカル的な作品と、『SHIRO: FOUR SEASONS』のような和の演舞を作り上げるのが前提かな……と考えているんですよね。
――この演目自体が、ひとつの通過点になり得るかもしれないのですね。
yoikami:そうですね。「洋」と「和」の2つの要素を内包した作品を作り上げるのであればまずひとつひとつで大きな出力を生み出し、全力を投じてみて、その上でふたつを混ぜる必要がある。それがいかに難しいかは想像に難くないので、まずは一歩一歩やっている形です。
アカデミー賞の“その先”へ yoikamiが掲げる、現在の夢
――最後に、今回の『Raindance Immersive 2024』でのノミネートを経て、yoikamiさんは今後どんなことにチャレンジしてきたいかをうかがえればと思います。
yoikami:「Raindance Immersive」が該当するかはわかりませんが、イギリス国際映画祭では最優秀短編賞、ないしそれに匹敵する受賞があれば、アカデミー賞の応募資格を得られます。なので、ここから「VRの中から日本人として初めてアカデミー賞を受賞する」という大きな夢がありますね。
まさに前人未到の挑戦ではあるのですが、「ナメているのか」と怒られることを承知の上で、アカデミー賞という目標にひたすら邁進するだけでなく、VRの中で遊びつつ、楽しく後続を育成しながら、近づいていけないかなと思っています。
――それこそ、「好きこそものの上手なれ」ですね。まずは目の前の創作に集中して取り組むこととも言えそうです。
yoikami:アカデミー賞受賞は、大きな目標ですし、自分の栄誉のためでもあるんですが、最終的なゴールは、かつて祖母が「海を見たかった」と言った、あのとき以上のなにかができる世界を作ること、あるいは、その足がかりを得ることですね。結局、自分は祖母に一人で海を見せることしかできなかった。それをいまも悔やんでいるので。
VRを使えば、入院中の人にVRでお見舞いに行くこともできる。年配の方や、障がいがあって施設から出れない人も、ご家族といっしょに、VRで旅行に行ったり、テーマパークで遊ぶこともできます。けれども、そのような施策を導入している医療団体や介護福祉施設は、現状聞き得る限り存在しません。
自分がアカデミー賞を受賞し、影響力を持てば、予算次第で医療や福祉の方々をも動かすことができるかもしれない。自分が得た影響力を、未来の人たちに「海を見せる」以上のことを実現するために使いたいのです。未来のリハビリ・福祉・医療にVRが近づく糸口となるような存在になることが、アカデミー賞受賞の先にある、自分の大きな夢です。
大きな壁、越えられない山、開かない扉、様々あると思います。でも、その世界が実現したとき、介護を必要とする人や障がいのある方が、自分を見て楽しんでくれることを想像すると、本当に楽しそうだと思うし、ぜひ実現したい。いろんな人を元気にして、力になってあげたい。祖母の言葉通り、無理を疑い、できないと言われるようなことをやってのけていければなと思っています!
――yoikamiさんが願う世界が実現することを、自分も願っております。本日はありがとうございました!
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