38歳からのゲーセン入門

人生は何事もトライ&エラーである――中年男性が四半世紀ぶりの格ゲーで思い出した敗北の大切さ

 私の中のチャゲアスが叫ぶ。いまからギルを、これからギルを殴りに行こうか、と。

 およそ20年の時を経て、私は『ストリートファイター3』で技が出せるようになった。ダッドリーの「マシンガンブロー」、そしてゲージが貯まったら出せる「スーパーアーツ」の数々も、とりあえず出せようになったのだ。

 というわけで、いざアーケードモードに挑戦だ。『スト3』は6人のNPCを倒すと、ラスボスのギルに挑戦できる。ダッドリーを選択し(ちなみに上着がピンクのカラーが一番好きである。エレガントだ)、いざ勝負。すると……ガシガシ勝てる。これまで最初の1人目で躓くこともあったのに、もう最初の1人目は敵ではない。もちろん難易度を一番低くしているのもあるが、隙を突いて技を入れたり、狙ったタイミングでスーパーアーツを入れて、しかもそれでKOしたり。これが抜群に気持ちいい。「そうか、こういうことか」と格ゲーに熱狂的にハマる気持ちが、以前よりグッと深く理解できた気がした。自分の思った通りにキャラが動く快感。「修行」して身に着けた技を、決めたいタイミングで決めたときの爽快感。そして、その快感を高める演出の数々。やはり『ストリートファイター』は不朽の名作だ。……などと思っていたら、4人目くらいでボコボコに負けた。相手は「エレナ」というキャラである。

 エレナはアフリカの出身で、カポエラの達人という設定だ。褐色肌のセクシーな外見をしており、私の性癖にJust For Meでもある。リアルタイムでゲームに触れたいたときから大好きなキャラだったが、そこは思春期少年の悲しさ。なんとなく「エロい!」と思ったキャラを使うと、周りから「エロい!」と思われそうで、「俺はエロくねーし!」と意地を張って使わなかった。本当は、敗北絵がすごくエロいし、勝ったときのヌルヌル動くモーションもエロいと思っていたのに。

エレナ ©CAPCOM CO., LTD. 2016, 2020 ALL RIGHTS RESERVED.

 そんな思春期の私を叱るかの如く、エレナにボコボコにされ続ける。連戦連敗。家でやっているからいいけれど、ゲーセンだったら100円の山がなくなっていたことだろう。

 しかし、それが良かった。何度も負け続けるうちに、徐々に疑問が湧いてきた。「いくらなんでも負けすぎじゃない? なんで負けるんだろう?」。これはゲーセンではなく、コンティニューし放題の家で遊んでいるから気が付けたことだ。ゲーセンだったら、軍資金が尽きた時点で帰宅以外に道はない。

 というわけで、「勝つことより、負ける理由を分析する」という気持ちで、エレナに挑む。すると、いくつかのことが分かって来た。まずエレナは足技に特化したキャラで、しかも足が長い。対してダッドリーはボクシングキャラで、そもそも足技がないのだ。いわゆるリーチの差。こちらの攻撃が届かず、相手に蹴られまくる展開が多いと気づいた。くわえてエレナは、こちらより動きが速い。通常攻撃からコンボをつなげられて、スーパーアーツでKOされる展開も多いと気づいた。

 こっちの負けパターンがなんとなく分かってきたところで、脳内対策会議である。本来のエレナはおひさまの香りがする真っ直ぐな少女だが、NPCエレナは足が長いことを武器に、いやらしい戦略を立ててくる。最初に蹴りを受けると、そこから間合いを詰められて連続攻撃を食らい、あっという間に負けてしまう。では……最初の一撃を防ぎ、距離をとって戦えばいいのでは?

 という答えが出たところで再戦。ダッドリーは強パンチが強い。突っ込んでくる/跳んでくるエレナに強パンチを合わせて、近づかせない。強パンチはガードされてもいいし、ガードされずに入れば、かなりのダメージを入れることができる。あとはしっかりガードを固めること。近づかれて連続攻撃を出されても、出来る限りガードして、攻撃終わりに必殺技を叩きこむ。……という作戦を立てて挑んだところ、さっきまでの苦労がどこへやら。自分でも驚くほど簡単にエレナを倒すことができた。そして相変わらずエレナの敗北絵は必要以上にエロかった。

 ここで私は大切な教訓を得た。

 格ゲーでは、負けるのは当然なのだ。大事なのは、負けたあとに「なぜに負けたのか?」を考えることなのである。そして「なぜに負けたのか?」の正解は、何十回も負けなければ見えてこない。勘のいい人ならば、きっと一回負けた時点で掴めるのかもしれないが、残念ながら私は違う。負けパターンを知るには、負けまくるしかないのだ。すると負けパターンから脱する方法も見えて来る。

 あとエロいものはエロいと認めるべきだとも思った。エレナがエロいと思う気持ちに素直になっていたら、もっと楽しい少年時代が過ごせたような気がする。

 こうして敗北の大切さを噛み締め、次のステージへ進む。そこからは同じだ。負けたらコンティニューを繰り返し、脳内会議で敗北の理由を考える。

 そして気が付けば、私はラスボス・ギルの前に立っていた。

 技術も知った。敗北の大切さも知った。いまの自分は、以前の自分よりずっと強い。自信をもってギルと戦う。何度ボコボコにされても挫けず、負けパターンを分析して再戦する。そしてとうとう、2-1でギルを下した。「10代のころからの念願のエンディングだ!」歓喜する私。次の瞬間、ギルの体力ゲージが満タンに回復して、ボコボコにされてゲームオーバー……。ギルには、特定の条件で体力を全回復して復活する「リザレクション」という必殺技があったのだった。私は、技術も、敗北の大切さも知ったが、肝心のゲームの仕様のことをなにも知らなかったのである。

 「そんなんありかよ……」。心が折れ、その日は眠りについた。しかし、ギルに勝てる日は近い。心の中のチャゲアスは、ベッドの中でも元気に歌い続けていた。そして気づけばpixivでエレナの絵を漁っていたのです。というかダッドリーじゃなくてエレナを使ってもいいんじゃないか? 俺……?

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