連載:作り方の作り方(第十回)
令和ロマン・髙比良くるま「M-1連覇のチャンスを逃したくない」 放送作家・白武ときおに語った“若き王者の悩み”
『M-1』にずっと出続けたい理由
白武:くるまくんは、たとえば「『M-1』優勝」とかゴール設定をしてクリアしていくタイプなのか、紆余曲折してたどり着くタイプなのかでいえば、どちらなんですか?
くるま:強いて言えば、紆余曲折ですかね。消去法なんですよ。「これは違うな」「これはやめたほうがいいな」ってなって、残ったものが『M-1』でいえば優勝になっちゃったわけで。
今年の『M-1』はやっぱり出たいし、優勝したいんですよ。どうしたらもう一度決勝に押し上げるような空気を作れるかを考えたら、ゴールデン番組を一周している場合じゃないし、ネタ作らなきゃいけないし。だからいま、ネタを作っても出す場がないのがストレスです。
白武:今後はネタを作って披露していく状況を作れそうですか?
くるま:そうですね。今後はもっとフラットな場所とか、ルミネtheよしもとに定期的に出してもらいますし、どんどん試していけたらいいなって思ってます。
『M-1』で優勝して、いろんなインタビューとかが出て、俺がどういう人間なのかが知られて、そのイメージが固まり始めている状況だと思うんですよ。その上で、どんなネタをやるのかを考えたいです。早く。とにかく『M-1』に向けてもう一度同じ一年を過ごしたいんですよ!
白武:その原動力というか、モチベーションはなになんですか?
くるま:楽しいは楽しいし、もっと良い決勝にしたかったから、できなかったものを回収したいというか。クリアはしたけど取ってないアイテムがある感じです。
白武:達成度を100%にしたいんですか?
くるま:100%にしたい! まだまだやり込んでないんで! お客さんや近しい芸人は嫌がる人も多いですけど、歴代チャンピオンとかだと「チャンスがあるなら挑戦したいよな。俺もしたかったな」って言ってる方がけっこう多くて。
「『M-1』優勝して、テレビに出るチャンスがあるのになんでやらないの?」みたいなことも言われるんですけど、そのチャンスよりもさらに確率が低いのが『M-1』連覇じゃないですか! 一番貴重なチャンスを逃したくないのは普通じゃないかなって。
白武:普通だったら連覇に挑むしんどさや勝ちにくさを考えてまたやりたいとならなかったり、優勝できなくて新チャンピオンが出たら話題は移っちゃうから「せっかく去年優勝したのに売れ逃したね」ってなるのを避けたいじゃないですか。
くるま:そもそもテレビに出て売れたい欲がないからでしょうね。それよりもずっと『M-1』に出たい! 連覇じゃなくても、何回優勝とかでもいいし、期間が空いて3回くらい優勝してもいいし。
白武:バカリズムさんが『IPPONグランプリ』で優勝を重ていくシーンを見たいみたいに。
くるま:そうですね。今年7年目になるんで、8年後まで出られますから。今年優勝して、2031年にまた優勝とかいいですよね! 渋いですね〜。その時点でまだ38歳とかですからね! 漫才としては一番脂が乗ってる時期だと思うんで、そのときに決勝出られたら一番いいですよね。
白武:それは楽しみですね。
くるま:だから俺は『M-1』ライフを打ち切られただけなんですよ! ラストイヤーまで何度も決勝に出る人でいたかったのに!
白武:なんでそのポジションがいいんですか?
くるま:ずっと漫才に取り組み続けて、ごはんを食べられてる。その状態が自分の理想に一番近いんですよ。健全だから。それなのに「『M-1』優勝しちゃったじゃん」とか言われるとさみしいし、みんなとまだ一緒にいたいし、もっと漫才を追究したいんです。
「本当に面白い人たちに見透かされるのが怖い」
白武:テレビの演出家みたいになって、自分も出て、それこそ北野武さんみたいに自分で監督をしながら演者もやるような、そういうコントロールできる世界でなにか作ることには興味ないんですか?
くるま:それは興味はあるかもしれないですけど、めんどくさがりなんで。めんどくさいなあって思っちゃう。できたら気持ちが良いだろうなと思いますよ、チームがやれたら。いま、いい感じに仲間探しができている感覚はあるので。
こうやって白武さんに会えていることもそうだし、『娯楽がたり』のチームもそうだし。同じことを思ってくれる人がいるわけだから、仲間が集まったら動くのかもしれないですね。
白武:いまは仲間探しの時期なんですね。
くるま:いや、動きたいのかな……漫才以外のことをしなきゃ、いけないのかな……めんどくさいなあ……。でもケムリがいつまで健康かもわからないんで、とか危機感はありますよ。
コンビや会社が当たり前にあるわけじゃないからこそ、ひとりでできることもやらなきゃなとは思います。でも、やっぱりめんどくさいんですよね……めんどくさいんですよ……とにかく……。
白武:今日はひとつ課題ができました。くるまくんが「めんどくさい」から抜け出すほど魅力的に思うなにかを、今後提案したいです。
くるま:え、そんなこと言われたら嬉しいですよ! 嬉しいけど、白武さんに対するコンプレックスとかが一番あるのかもしれないです。
白武:なんですかそれは。
くるま:霜降りさんとかAマッソさんとか、本当に面白い人たちと仕事をしている人だから、なんか見透かされちゃいそうな気がするんですよ! あいつとは違う、とか思われちゃうんじゃないかと思うんですよね。
白武:それはこっちも同じように不安ですよ。他の優秀な気の合うスタッフがいるのに声かけられちゃったなと思われないか。令和ロマンのYouTubeもたくさん観てますよ。面白い。
くるま:そうなんですか? いやそれも恥ずかしいんですよね。結局は、恥ずかしい気持ちがデカいかもしれないです!
優秀な人たちは若くして富と権力を得てきて、なんかこうプランとかビジョンとかあるんでしょう? 年上に対する反骨心とかも持ち合わせた、粗品さんとか加納さんとかが、なにかを築いていくんでしょう?
もうそっちでやってください! ごめんなさい、私は戦力になれません! こっちでこそこそやっとくんで、本当にもう気にしないでください!!
白武:いや、ちゃんとくるまくんの城を建ててほしい。
くるま:いやもうそれはこっちでこそこそやっとくんで、もう「これは面白いんですか?」「これはすごいですよね!」とか言ってこっちを光で照らさないでください!! もうみんな勘弁してください……僕の家に入ってこないでください……。
白武:こそこそしてる場合じゃありませんよ。お邪魔します。
くるま:ああ〜怖い〜!! こうやって輝きと力を持った人間が蹂躙するんですよ! だから入ってこられないように、鍵をかけておかないとダメだ! それでも入ってきちゃうんだろうな、こういう人たちは知的好奇心と行動力がすごいから。チームもあるし。だからもう、それが本音です。俺はただ怖いんです!
白武:大丈夫大丈夫。怖くない怖くない…鍵となるアイデアを考えないと。
くるま:怖い〜!! 今後はこの攻防をお楽しみください!
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