「お金がないことは死に値しない」 放送作家・白武ときお×『ハイパー ハードボイルド グルメリポート』など手掛けた上出遼平が語る“テレビ業界への反発心”

白武ときおと上出遼平のテレビ業界への反発心

 プラットフォームを問わず縦横無尽にコンテンツを生み出し続ける、放送作家・白武ときお。彼が同じようにインディペンデントな活動をする人たちと、エンタメ業界における今後の仮説や制作のマイルールなどについて語り合う連載企画「作り方の作り方」。

 第二回には、テレビ東京で『ハイパー ハードボイルド グルメリポート』などを手掛けたテレビプロデューサーの上出遼平を迎える。2022年6月にテレビ東京を退社後は、映像作品の企画・制作はもちろんのこと、文芸誌で小説の連載を始めるなどメディアの枠を越えて活動の幅を広げている。テレビ東京在籍時に『群像』2021年4月号で発表したコラム「僕たちテレビは自ら死んでいくのか」も大きな話題となった。

 上出が『ハイパー ハードボイルド グルメリポート』を手がける以前から交流があるという白武が、上出の行動力の源泉を探りながら、テレビの未来や現代の価値観、これからふたりが作るものなどについて語り合う。

テレビ業界への危惧と、ふたりが持つ反発心

白武:確か2016年ごろに飲み会で、人から初めて「ソーシャルグッド」って言葉を聞いたんですよ。それが上出さんで。



※ソーシャルグッドとは、地球環境などの「社会」に対して良いインパクトを与える活動の総称を指す。

上出:僕、そんな前から言ってた?

白武ときお

白武:言ってましたね。文字で見たことはあったけど「ソーシャルグッド」について人と話したのは初めてでした。上出さんは「ソーシャルグッドの意識があって、こういうことをやりたい」って言っていて。僕はそういう問題に目を瞑ってしまうことが多くて……。お笑いとか楽しみにできるものを作って社会貢献できたらいいなとは思ってるんですけど。

上出:その話をしたの、覚えてるかも。

白武:だから、当時からソーシャルグッドの意識を持っていた上出さんは自分と違った感性だったし、テレビ業界でも中々見ない志を持ってて素敵だなと思ってました。なんで持つようになったんですか? 元々持っていたんですか?

上出:たまたま、困ってる人がいると何かしたくなるタイプだったってだけのことだと思う。でもテレビってけっこう逆のことをやるじゃない。人を傷つけるとか。

白武:そういうところもあると思います。

上出:そういうことがまかり通る世界で、自分が加担しながらお金を稼いでいることに対する自己嫌悪みたいなものがずっとあったから、それに対する反発という意味で「ソーシャルグッドでありたい」って気持ちがより定着していったところはあると思いますね。

白武:なるほど。そういう背景があったんですね。

上出:いまでこそSDGsの特番とかもあるけど、それはいちいち食事のあとに「この食材はフードロス問題に貢献しています」とか注釈が入るみたいなもの。そういうことじゃないよね。ソーシャルグッド的なことはもっとテレビが普通にやってこなきゃいけなかったことだし、できることがいっぱいあるはずなのに、それをやらずに来ている。

白武:はい。ぼくもそういった内容の制作物に関わることは少ないです。

上出遼平

上出:最近いろんな会社の人と話すと、ものすごく共感してくれたり、一緒にやりましょうって言ってくれたりするから。「ソーシャルグッド」は個人的感情の部分もあるけど、最近は経済合理的にもマストになってる。ファッションでもアートでも、いまはそうじゃないことは受け入れられないくらい。でも日本のテレビはずっと「村」だから、そういうことが必要ないままここまで来てしまった。

白武:長い間変わらなかったテレビのルールが変わってきて、まだついていけてない人はいますよね。自分もそうならないように気をつけたいです。上出さんはテレビ局員だったからより内部からそういう側面を見てるんだと思います。村とはいえ、なぜそういう考え方が入ってきづらいのか。

上出:やっぱり競争に晒されていないからじゃないかな。日本のテレビは競争しているようなフリをしているけど、テレビ東京なんて万年最下位でもへっちゃらなわけじゃない。だって、新しいところが入ってこないから。みんな真剣にやっているようで、本当の意味では真剣じゃないんだよね。

白武:6局で競争しているようだけど、6局なのは変わらない。

上出:そうそう。サッカーでいえばJ2がないわけで。それはけっこう由々しき事態だと思うよ。

白武:そこからNetflixやAmazonプライム・ビデオ、YouTubeとかに視聴者が分散したり移っていったら、変わることがあるんですかね?

上出:あるかもね。だって実際、顕著に奪われてるしね。だから僕たち世代は一生懸命に革命を起こす気でいないと、船が沈んじゃう。日本のテレビが培ってきたノウハウはすごく特徴的だし、通用するものはいっぱいあると思うから、そこを大切にしながら今のうちにちゃんと外に目を向けてアップデートしていく方法を探っていかないと。

白武:『マネーの虎』『SASUKE』『ドキュメンタル』とか海外にフォーマット販売されて成功しているものもある。海外のテレビとか見ると、日本の番組と似てるものが全然ないですよね。テロップとかワイプとか独特すぎますよね。

上出:日本のテレビマンって、日本のテレビ的文法を知ってるだけだから。もう映像のプロとは言えるレベルじゃないし、クオリティが世界に通用しない。コアを抽出して、ちゃんと世界に通用するクオリティを出せる人間になろうとしないと。マーケットが日本国内に絞られているわけだから、そりゃあ業界はどんどん縮小するよね。

白武:テレビ局からの発注も海外にフォーマット販売できる企画っていうお題が多いので、日々考えてますね。

上出:ときおくんは、何を考えてるのかずっとわからない。いまもそう思ってる。でも心の中に毒をいっぱい持ってるんだと思うんだよね。

白武:何考えてるのかわからないのは上出さんもですよ。そんな風に思っていたとは。

上出:「面白さ」に対する執着をすごく感じる。面白さのためなら良くも悪くもなんでもいいみたいな。この時代、この世代で、逆にそんな不器用な人いるんだなと思った。

白武:「面白い」とか「笑える」とかの方しか向いてこなかったんで。2010年代のテレビは情報的に「ためになる」番組が増えていたので、僕としては「テレビがなんかぼくの好きじゃない面白くない方に行ってるな」と思ってたんですよ。そのときのほうが毒が強かったかも。

上出:なるほどね。

白武:最近はお笑いブームがまた来てるから楽しくて、でも僕は「面白い」の方だけ向いてたのに、上出さんが「ソーシャルグッド!」って言ってるのを聞いて背筋が伸びましたね。

上出:だから、僕もときおくんも当時のテレビに対する反発心を持っていたのは同じで、その反発の方向性が違ったんだと思う。僕は、テレビが数字のためなら手段を選ばないってことに対するアンチテーゼを持っていて、一方でときおくんは情報とかコスパのために番組が作られていることに対して反発してたってことだろうね。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる