約5年ぶり開催『春のVTuber甲子園』各チームの育成配信を総ざらい 大物監督たちが織りなすドラマを見届けよ
“豪運”と“大会経験”を活かして作り上げられたにじさんじ高校
先にも述べたように、『VTuber甲子園』と『にじさんじ甲子園』は内容・形式がまるっきり同じである。こうした大会形式では「栄冠ナイン」モードの内容だけではなく、実際の試合のなかで強い特殊能力がどれなのか、またはどのステータスをあげればより影響が出やすいのかといった点も重要になってくる。経験者にしかわからないこまかな差異を知っていることは大きな武器となるはず。
初回大会となった2019年8月に開催された『VTuber甲子園』に出場して以来、『にじさんじ甲子園』を通して毎年のように大会へ出場、「栄冠ナイン」を幾たびもプレイしている椎名唯華。彼女は間違いなく、今回の大会におけるノウハウを熟知しているひとりだろう。
また椎名は昨年開催された『にじさんじ甲子園2023』で見事優勝を果たしている。その後の配信で「自分的は大・大・大満足で、燃え尽きた」「終わった後に舞元としゃべってて、殿堂入りかなっていうのはあるかなって」と発言しており、同企画に今後参加しない可能性があることも示唆していた。
「椎名の『栄冠ナイン』配信が見られなくなってしまうかもしれない」
そんなことを思ったファンは大勢いただろう。こうした経緯もあって、彼女のプレイはひときわ注目を集めた。
まずは初年度、毎年豪運を見せつけることの多い椎名の“新入生ガチャ”を見ようと多くの視聴者が集まった。
そんななかでゲームをスタートさせると、転生選手や天才肌はいなかったものの、特殊能力「威圧感」を持ったピッチャーなど、優秀な選手が揃った新入生らを引き当てた。この時点でも悪くはなさそうで、「平均が高いな」と悩む姿を見せた椎名。最終的には「正直、これよりも弱い新入生でも強くなったチームがある」と、自身の経験と予測を信じ、2度目のガチャを試したのだ。
すると、宮崎県を育成の所在地として選んだこともあり、広島東洋カープに所属している投手・ケムナ誠選手を転生選手として引き当て、他の選手も軒並み平均以上の能力を持った選手で揃えることに成功し、そのままチーム育成へと進んでいった。
初年度の新入生には自身の同期である元ゲーマーズの名前をつけ、夏大会は2年連続で準決勝に進出するなど結果を残していく。だが、初年度の選手がスタメンとなる2年目の秋大会では思うように勝ち進むことができず、椎名の中に大きな焦りが生まれつつあった。
そんな状況を救ったのが野球部の先輩メンバーだった。
椎名はもともと過去大会での育成配信で、先輩メンバーの名前や容姿などを変えて、リスナーと共に楽しむというプレイをしていたことがあった。今回、彼女は同じにじさんじの同僚にちなんで野球部の先輩らを「舞本」「甲斐田」へと変え、ゲーム中になにかあれば「かいだぁー!!」「まいもとぉーー!!」と叫んで笑いを取る、といったことをしていた。
そしてこの「舞本」が卒業後、特殊能力を付与するアイテムを届けてくれる「本屋」に就職したことで、状況が一気に好転していくことになった。
「本屋」を始めとしたOBイベントがどのような頻度で発生するかは、プレイヤー側からは一切手出しできないランダム要素なのだが、本屋となったOB「舞本」は3年目の4月から最後の夏大会が始まる7月まで何度と無く登場し、多くの特殊能力をチームに与えることになった。
さらに3年目の新入生には、懸案だった捕手を埋める選手だけではなく、ソフトバンクホークスに所属する風間球打の転生選手や、レアステータスである「天才肌」の選手までも引き当てるという、文字通りの“豪運プレイ”でチームを強化。これにはリスナーからも驚きのコメントが次々と書き込まれたのだった。
肝心要である3年生の夏大会1回戦。打線がうまく噛み合わないにじさんじ高校は得点を取ることができず、8回裏2アウトまで相手校にリードされる厳しい展開となってしまった。
敗北ムードがただようなか、8回裏・2アウトのランナー1塁というタイミングで、2番バッターの叶が能力のひとつである「地方大会の魔物」(※)を使えるとみると、ランナーに出ていた月ノ美兎をムリヤリ走らせてアウトにし、9回の攻撃に叶をトップバッターに仕向けるようにプレイした。
(※地方大会の魔物:「栄冠ナイン」内で全選手が試合中に発動できる固有能力のうちのひとつ。ピッチャーが暴投しやすい、野手がエラーしやすいなどミスを多く発生させることができる、かなり凶悪な能力である)
結果、9回裏にトップバッターとなった叶の「地方大会の魔物」を発動させ、バントを絡めてエラーを誘発させ、見事サヨナラ勝ちを収めてみせた。思わぬ落とし穴にハマりそうになったところを、実際の野球ではありえないような作戦を実行、まさに機転を効かせて勝利したのだ。これぞ『栄冠ナイン』流の勝ち方といえようものだった。
毎年育成で豪運を発揮するというのが椎名の育成配信のイメージであるが、「特殊能力をどの選手に振り分けるか?」「ピンチをどのように防いで逆転までもっていくか?」など、この育成配信を通して、豪運でたぐり寄せたチャンスをこれまでの経験でうまく活かしていくプレイングが随所に現れていた。
その後は準決勝まで進んだが、現在大リーグ・ドジャースに在籍する日本人最強ピッチャーとも名高い山本由伸の転生選手が登場。先発・笹木が最少失点で攻撃を抑えるが、山本から得点を奪うことができず、1-0で敗北。3年夏の大会は地方大会の準決勝進出までという結果で育成終了となってしまった。
じつはこの強豪校とは春の段階で練習試合で対戦しており、この時はまだ山本は先発していなかったこともあり勝利を収めていた。“ほぼ現役の山本由伸”といっても過言ではない超強力なステータスを持つピッチャーを前にして打ち崩すことができず、椎名も悔しさを滲ませていた。
夏・春通じて甲子園へ出場することができなかったが、それでも特殊能力に関してはホロライブ高校のメンバーにも負けず劣らず揃えることに成功したにじさんじ高校。
自身の盟友・笹木咲はエースピッチャーとして十二分のステータスを誇り、「逃げ球」「緩急◯」「球持ち◯」「勝ち運」などの特殊能力を持っている。変化量は小さめながらも5種類の変化球を投げ分け、ゴロアウトを量産していくのが得意なピッチャーといえよう。
野手陣も粒ぞろいだ。盗塁が成功しやすくなる盗塁B以上かつ走力B以上を備えた野手が2人おり、「アベレージヒッター」や「パワーヒッター」といった打撃能力を大いに高めてくれる特殊能力持ちも複数人おり、彼らがズラっと並んだ打線はステータス以上に強力だといえよう。
博衣こよりが率いるホロライブ高校を打倒する可能性も十分に有り得そうだが、重要なのは本企画における対戦は「CPU対戦」であるということ。椎名の豪運が自身の手を離れた対戦で発揮されるのか、そういった点でも、にじさんじ高校には注目したいところだ。