あの人のゲームヒストリー 第二八回:野田クリスタル
「自分はゲームクリエイターだと錯覚したら、絶対に失敗する」 野田クリスタルが語る“ゲームという第2の武器”への向き合い方
「お笑い芸人の経験を活かしたゲーム作り」なら、誰にも負けない
――ゲーム制作の経験が、お笑い芸人のとしての仕事にも活きていると感じる部分はありますか?
野田:むしろ、お笑い芸人としての経験があったからこそ、ゲームも作れたのだと思っています。たとえば、自分のゲームの中にミニゲームを用意するとなったら、僕はお笑いライブのコーナーをイメージするんです。ライブの出演者たちの顔ぶれを思い浮かべて、「こんな企画をやったらウケるんじゃないか」とか、「こんな流れを作ったら彼はどうボケるんだろう」と考えていくように。
「自分はゲームクリエイターなんだ」と錯覚してしまったら、僕は絶対に大失敗するでしょうね。言わずもがな、僕の本職はお笑い芸人であって、本職のゲームクリエイターさんたちには絶対に敵いません。けれども、お笑い芸人としての経験をゲーム作りに還元することに関しては、誰にも負けない自信があります。そこの意識はブレずに持ち続けたいですね。
――ゲーム制作におけるこだわりや、おもしろいゲームを作るために大切だと思うことを教えてください。
野田:制作者のエゴが滲み出るような要素――プレイヤーの方が「興ざめだな」「野暮だな」と感じてしまうような要素を削ぎ落とすことですね。
これはお笑いの現場でよくある話なのですが、たとえば“クイズ大会”という名目の企画で芸人たちがボケ倒して、それがものすごくウケた結果、制作サイドが次回から企画自体を“大喜利大会”に変えてしまう、とか。これでは見てくれた方々が「“クイズ大会”でボケ倒したからこそおもしろかったのに……」と、不満を募らせて当然ですよね。
これと似たようなパターンで、今度は“ゲームあるある”でいうと、ネット上などでユーザーが散々いじり倒したバグなんかがあったとして。それを公式側が「ユーザーにウケたから」と、そのバグを次回作では仕様として採用しちゃう、みたいな。これはこれで、“必死にデバッグをしてなお残ったバグ”という偶然と、ユーザー側の懐の深さが噛み合ったからこその副産物だったわけですから、仕様にするなんて野暮な話で。
僕もゲーム制作中に、制作チームから「ちょっと笑えるバグが見つかったんですけど、おもしろいから残しますか?」といった提案を受けることはあるんですけど、大抵は「消してください」とお願いしますね。後から見つかったバグをユーザーのみなさんがおもしろおかしく楽しんでくれたのならまだしも、本来消せたはずのバグを消さずに残しておくのは、個人的にはちょっと違うのかなと。
「初心者すぎ大会」を主催して感じた、格闘ゲームコミュニティの温かさ
――最近プレイしたゲームの中で、とくに印象的だったタイトルを教えてください。
野田:たくさんありますが、あえて1本に絞るならば『ストリートファイター6』ですね。昨年末(2023年12月)に、「ストリートファイター6初心者すぎ大会!」を主催させてもらったのですが、それがすごく楽しかったんですよ。
“いくらなんでも初心者すぎる方々”を対象にした大会なので、たとえばクラシックタイプ(※3)を使って、コマンド入力で必殺技が出せるような練度の方は、その時点で失格になるというルールでした。
※3……従来の「ストリートファイター」シリーズと同様に、連続した移動入力+攻撃ボタンで必殺技をくり出す操作タイプのこと。『ストリートファイター6』には、単一の移動入力+攻撃ボタンで手軽に必殺技をくり出せる「モダンタイプ」も搭載されている。
自分が“初心者すぎる”かどうかは、あくまで自己申告制。ただし、大会キャスターには元プロ格闘ゲーマーのハイタニさんと、格闘ゲーム大会実況者としておなじみのハメコ。さんをお呼びして、おふたりには僕とともに審判団を務めていただいたんです。
――つまり、「ちょっとやそっとじゃ我々の目はごまかせないぞ」と。
野田:そういうことです(笑)。僕ら審判団から失格だと判定された方は、言ってしまえば、その道のプロの方々から「あなたは脱・初心者です」と太鼓判を押されたのと同義ですから、“名誉ある失格”ですよね。おかげさまで、“初心者すぎる方々”による予測不能の白熱した試合と、たまに現れる“名誉ある失格者”の方々によって、大会は大いに盛り上がりました。
僕自身、これまで格闘ゲームコミュニティに対しては、どことなく硬派で近づきがたいイメージを持っていたのですが、実際に飛び込んでみたらみなさんすごく優しく受け入れてくださって。「初心者を温かい目で見守ろう」という雰囲気も感じましたし、『ストリートファイター6』がこれだけ多くの方に楽しまれているのも納得だなと思いました。
お笑い芸人・野田クリスタルにとって、ゲームは「第2の武器」
――幼稚園児から現在まで、約30年間のゲーム遍歴の中で、「ゲームが好きでよかった」と思えた瞬間はありますか?
野田:吉田さんをはじめ、ゲーム開発者の方々とお話する機会が増えたことは幸せですね。それこそ、「ファイナルファンタジー」シリーズの生みの親である坂口博信さんとご飯を食べに行ったりとか、「星のカービィ」シリーズや「大乱闘スマッシュブラザーズ」シリーズを手掛けた桜井政博さんと対談させていただいたりとか。
当たり前のことかもしれないですけど、みなさんそろって超絶ゲームオタクなんですよ。桜井さんとお話ししたときなんて、正直言って、半分以上は理解できないような専門的な内容ばかりで。桜井さんはお優しいので、僕でもわかるように丁寧に解説してくださったわけですが。「本当に、根っからの技術者でいらっしゃるんだな」と背筋が伸びる思いでした。
それくらい、ゲームに対するとてつもない愛や情熱を持った方が多くいらっしゃるわけですから、「ゲーム業界って、なんて素晴らしい業界なんだろう」と感じます。もちろん、ゲーム業界のみなさんからすれば「いいことばかりじゃないよ」という話だろうとも思いますが、これだけの“愛”が集まっている業界は稀有だと思います。
――ゲーム制作に携わるなかで、あらためて気付いたゲームの魅力などがあれば教えてください。
野田:現在、「Roblox」というゲーミングプラットフォーム向けのゲームを、アメリカの方といっしょに作っています。僕は英語ができないので、基本的には通訳さんづてで会話しているのですが、ゲーム内容に関する「ここはおもしろいよね」「あそこはもっと改善したいよね」といった類の会話になると、通訳を介さずともお互いの言いたいことがなんとなくわかるんです。
そのくらい“ゲーム”って共通言語になっていて、言語の壁を越えて楽しめるものなんだなと実感しました。これまで海外ってまったく興味がなかったんですけど、いまでは「現地に行って、彼らといっしょにゲームがしたいな」って思うようになりましたから。
“お笑い”となると、笑いのツボやウケるネタって、日本人と海外の方とではまったく違うんです。その点、ゲームはより多くの国の方を巻き込んで楽しめる魅力があるように感じたので、もしも僕が海外に挑戦することがあるのだとしたら、そのときはたぶん、ゲームを絡めたネタをやると思います(笑)。
――それでは最後の質問です。スバリ、ご自身にとって「ゲーム」とは?
野田:“第2の武器”ですかね。お笑い芸人としての僕から派生した、自分にとっての新たな武器だと思っています。
新武器を入手したからといって、「これを使って何をしようか」とかは、まだ自分でもわからないんですが……。少なくとも、お笑いの賞レースで優勝を目指すのと同じくらいの情熱で、ゲーム制作にも取り組んでいます。それくらい、ゲーム作りにはロマンがあると感じるんですよね。
小さいころから大好きだった“お笑い”や“ゲーム”に、大人になったいまも全力で熱中できていて、なおかつそれが仕事になっているというのは本当に幸せなことだと思うので、これからも大切にしていきたいです。
ちなみに、2024年内には、僕が作る「野田ゲー」の最新作である『スーパー野田ゲーMAKER』を、Nintendo Switch向けに発売予定です。正直に言うと、これまで作ってきたゲームの中で1、2を争うくらいにニッチな内容になりそうな雰囲気があるんですが……これまでの集大成だと思って作っていますので、発売した暁には、ぜひプレイしてほしいです!
野田クリスタルさんのサイン入りチェキを2名様にプレゼント!
【応募方法】
①リアルサウンドテック公式X(旧Twitter)をフォロー
②本記事または応募ツイートをリポスト
③当選者の方のみリアルサウンドテックXアカウントよりDMにてご連絡
<リアルサウンドテック 公式X>
https://twitter.com/realsound_tech
<応募締切>
2024年2月21日(水)終日
※当選後、住所の送付が可能な方のみご応募ください。個人情報につきましては、プレゼントの発送以外には使用いたしません。
※当選の発表は、賞品の発送をもってかえさせていただきます。
※当該プレゼントは、応募者が第三者へ譲渡しないことが応募・当選の条件となります(転売、オークション・フリマアプリ出品含む)。譲渡が明らかになった場合、当選は取り消され賞品をお返しいただく場合がございます。
家族との『マリオ』から睡眠を忘れた『ゼルダTotK』まで =LOVE 佐々木舞香&齋藤樹愛羅が語る“ゲーム愛”
ゲーム好きの著名人・文化人にインタビューし、ゲーム遍歴や、ゲームから受けた影響などを聞く連載“あの人のゲームヒストリー”。今回話…