マンガ家・山本さほが語る“ゲーム観”――「私にとってゲームとはご飯を食べるようなもの」

マンガ家・山本さほが語る“ゲーム観”

 ゲーム好きの著名人・文化人にインタビューし、ゲーム遍歴や、ゲームから受けた影響などを聞く連載“あの人のゲームヒストリー”。今回話を聞いたのは、マンガ家の山本さほ(以下、山本)だ。

 2014年3月、Webサービス・noteで発表した自伝マンガ『岡崎に捧ぐ』が大きな話題を呼び、マンガ家としてデビューを果たした山本。

 翌2015年には、『ビッグコミックスペリオール』(小学館)にて、note版『岡崎に捧ぐ』をリニューアルして連載を開始。2018年に単行本5巻で完結となった。

 そんな『岡崎に捧ぐ』では、幼少期からの親友“岡崎さん”と一緒に楽しんだゲームにまつわる思い出話などを赤裸々に描きつつ、“大のゲームファン”としての姿も披露している。

 その“無類のゲーム好き”が高じ、現在は『週刊ファミ通』(KADOKAWA Game Linkage)において、ゲームエッセイマンガ『無慈悲な8bit』を7年にもわたって連載中だ。

 「ゲームは1日1時間!」とは、16連射でおなじみの高橋名人の名言だが、当インタビューにおいて山本は「毎日、5時間はゲームで遊んでいます!」と、からっと語る。

 はたして、彼女のゲームに対する熱意はどこから来ているのだろうか。

 初めて触れたゲームや思い入れの深いゲーム、運命の分岐点となったゲームなど、これまでのゲーム人生を振り返っていただきつつ、彼女独自の“ゲーム観”を詳しく伺った。(ローリング内沢)

思い出深いゲーム体験は、父と、兄と、幼なじみと一緒に……

――ゲームの原体験を教えてください。

山本:私がすごく小さいころ、父が遊んでいたパソコンゲームを触らせてもらったのが最初です。

 ゲームタイトルまではわからないんですけど、『DOOM』のような一人称視点で、血が飛び散っているような赤黒い感じだけは印象に残っています。

 ただ、幼かったということもあり、マウスやキーボードを適当にいじらせてもらった程度できちんと遊んだわけではないのですが、これが思い出せる範囲でゲームと触れた最初の記憶です。

 ちなみに当時は、現在のようにパソコンが一家に1台、ましてやひとり1台持っているような時代ではありませんでした。ですが、我が家にはけっこう早い時期からパソコンがあったんですよね。

 というのも、私の父は新しいガジェットが大好きで、気になる商品が発売されると、すぐに買ってくるんです。大学で機械工学を学んでいたので、機械に詳しかったんですよ。いわゆる機械オタクです。

 ですから、我が家には、携帯電話しかり、ビデオデッキしかり、カーナビしかり、当時の新しいガジェットがたくさんありました。

 なお現在、父はもう80歳近いのですが、最近はドローンにはまっていまして、自分で改造をして楽しんでいるほどです。

――自分が実際に操作して遊んだゲームの思い出は?

山本:小学2~3年生のころだったと思うのですが、お兄ちゃんがプレイしていた、スーパーファミコンの『ファイナルファンタジーIV』をたまに触らせてもらっていたのも、私のゲームの原体験のひとつです。

 基本はお兄ちゃんが遊んでいるのを横で見ていただけだったのですが、たまに気まぐれに「パロムとポロム(※1)のキャラだけは操作していいよ」と、コントローラーを持たせてくれることもあったんです。

 ちなみに『ファイナルファンタジーIV』はふたり協力プレイが可能で、バトル中にどのキャラをどちらのコントローラーで動かすのか設定できるんですよね。

 「さほ、違うよ、回復だよ!」、「ばか、そこで魔法使えよ!」など、お兄ちゃんに怒られながらでしたが(笑)、自分でキャラクターを操作するのがとても嬉しかったのを鮮明に覚えています。

 ただ、ストーリーの進行上、途中でパロムとポロムが自らを犠牲にして仲間を助けるエピソード(※2)がありまして……。

 それまでパロムとポロムの2名だけは操作することをお兄ちゃんに許されていたわけですけど、そのエピソードで操作していいキャラを同時に失ってしまったんですよね。

 それがとても悲しくて大泣きしてしまい、とてもショックだったのを強烈に覚えています。

【※1:パロムとポロム】……双子の魔道士。弟のパロムは黒魔道士、姉のポロムは白魔道士。

【※2:仲間を助けるエピソード】……塞がれた通路の両側から迫りくる壁の動きを止めるため、自らに魔法をかけて石化し、壁に潰されないように仲間を救った。

――小学校時代に、友だちと遊んで記憶に残っているゲームは?

山本:小学4年生のときに生まれ故郷の岩手県・盛岡市から東京に引っ越すことになりまして、引っ越し先の学校で『岡崎に捧ぐ』の“岡崎さん”とも出会い、いろいろなゲームで遊ぶことになります。

 なかでも思い出すのは、岡崎さんの家にお泊りして夜通しゲームで遊んだことでしょうか。

 ちなみに我が家には、兄のスーパーファミコンはありましたが、当時発売されたばかりのプレイステーションはまだなかったんです。

 だけど、岡崎さんの家には、スーパーファミコンも、プレイステーションも揃ってて、毎日のように遊びにいっていたんですよね。

 いま大人になって、深夜にゲームをするのはあたりまえになってしまいましたが、小学生のころの私たちにとっては、“夜通しゲームで遊ぶ”ということに、スリル感といいますか、特別感があったんですよね。それがめちゃくちゃ楽しかったです。

 岡崎さんとは、本当にたくさんのゲームを遊びましたが、なかでも思い出深い作品は、ラブデリックが開発したRPG『moon』です。

 『moon』は、“アンチRPG”をテーマにした作品でして、いわゆる一般的なRPGとはちょっと雰囲気が異なるんですよね。

 “戦闘がない”というゲーム性はもちろんですが、世界観そのものが不思議でちょっと怖さも感じるんです。

 たとえば、キャラクターが何を言っているのかわからなかったり、ときにすごい怖いことを言われたり、BGMがいい意味で不穏だったり。

 当時、子どもながらに、魅かれるものがすごくあったんです。

 ちなみに、操作が楽しくて止め時が見つからないゲーム、ってあるじゃないですか、インタラクティブな心地良さといいますか……それとは確実に異なる面白さや魅力があったんですよね。

 グラフィックもシナリオも音楽も含めた、その独特の雰囲気に、心をすべて持っていかれたんです。

 のちにリリースされた、ラブデリックの『UFO -A day in the life-』なども、幼なじみといっしょに遊びましたね。

本人の私物である、『moon』の主人公“透明の少年”のフィギュア。最近、引っ越しに伴い、ほとんどのゲームグッズは実家に送ってしまったそうだが、このフィギュアだけはいまでも手もとに置いているという。

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