恐怖の逃走パートと濃密な短編ストーリー 『SILENT HILL: The Short Message』レビュー

 サイコロジカルホラーの金字塔「サイレントヒル」シリーズ新作の先行プレイという魅力的な言葉に惹かれ、某月某日に向かった都内のコナミデジタルエンタテインメント本社で目にしたのは『SILENT HILL: The Short Message』(以下、『The Short Message』)という、まったく見たことのないタイトルだった――。

 本稿では2月1日から配信開始された『The Short Message』プレイインプレッションをお届けする。ネタバレには極力、配慮して紹介しているが、導入部分やゲーム性の説明において、多少なりとも本編の内容に触れることになることは留意してほしい。

※本作および本記事はセンシティブな内容を含みます。ご了承のうえ、お読みください。
※もし自分が自殺や自傷を行うリスクがあると感じたら、専門家に相談し、自殺や自傷の予防を目的とした専門的な助言、支援、または治療をお受けください。いますぐ助けが必要な場合は、お住いの地域の相談窓口や最寄りの病院にご連絡ください。

【厚生労働省「まもろうよ こころ」:https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/

目的は主人公・アニタの心を救済すること

 前提として、本作は2〜3時間でエンディングまで到達可能な短編となっている。廃墟マンションの探索とクリーチャー(怪物)からの逃走を繰り返しながら、希望を失って希死念慮に飲まれようとしている主人公・アニタの心を救済するストーリーだ。

主人公のアニタ。廃墟マンションで異変に巻き込まれる
主人公のアニタ。廃墟マンションで異変に巻き込まれる

 本編はアニタが未来の自分へと向けた独白からスタート。自らの弱さに悩み、ただひとりの理解者を求める思いを、プレイヤーは冒頭で知ることになる。複雑な思いを抱えるアニタは、友人・マヤからの呼び出しに応えて向かったはずの廃墟マンションで、異変に巻き込まれてしまう。

友人のマヤが描いたと思しきグラフィティ
友人のマヤが描いたと思しきグラフィティ

 ここからは基本的なゲーム性について紹介したい。アニタはスマートフォンの明かりを頼りに、薄暗いマンションを探索し、散りばめられたさまざまなヒントを頼りに、街やマンションの過去を知り、自分と友人たちに起こったことを振り返っていく。

 罵詈雑言が書かれた付箋だらけの空間が存在し、明らかに次元の歪んでいるマンションを、プレイヤーはアニタとして探索。新聞や雑誌から過去の出来事を確認したり、特定アイテムによってその場所での過去を見たりすることができる。

罵詈雑言が書かれた無数のメモ
罵詈雑言が書かれた無数のメモ

 細かな部分は実際にプレイして確認してほしいため割愛するが、プレイヤー視点では多くの謎が残った状態で進む……というよりは進行とともにどんどん謎が増えていく。アニタやマヤ、そして友人のアメリらが感じている息苦しさ、その正体に近付いては離れていくような感覚だ。

さまざまな資料を集めながらゲームを進めていく
さまざまな資料を集めながらゲームを進めていく

 複雑な謎解きが用意されているわけではないが、ゲーム内で集める資料と回想シーンをもとに過去の記憶を掘り起こしていく流れは、短編ながら充実した探索要素を提供してくれる。終盤に解き明かされる過去の記憶は、プレイヤーごとにさまざまな受け止め方があるのではないだろうか。

シンプルな逃走パートは“ホラゲ苦手勢”でも対応可能

 「サイレントヒル」シリーズといえば、探索のなかで発生するクリーチャーからの逃走が印象的だが、本作は探索パートと逃走パートがほぼ完全に分かれている。

 あえて大ざっぱな言い方をすると、探索→逃走を数回繰り返すことによってストーリーは進んでいく。探索パートですべてのアイテムおよびヒントを取得し、特定の場所に到達すると画面にノイズが走り、ドアを開けた先には“桜のクリーチャー”がいて、アニタを狙う……という形になる。

クリーチャーが出現する瞬間。反撃手段はなく、逃走が始まる
クリーチャーが出現する瞬間。反撃手段はなく、逃走が始まる

 逃走パートは至ってシンプル。もちろんこれは良い意味で、基本的に行き止まりはなく、不気味なビジュアルが際立つ通路も、曲がり角はほぼすべて直角なためわかりやすいマップ構成になっている。背後を振り返る機能もついているため、臨場感も抜群だ。

 正直に言って、筆者はホラーゲーム自体がそこまで得意ではなく(好きではあるのだが)、ましてやクリーチャーからの逃走はかなり苦手意識があった。同じような方も多いのではないかと思うのだが、恐怖によって判断力と操作精度が極端に低下するため、無限に捕まり続けるという経験を過去に何度もしてきた。

クリーチャーに捕まると、逃走パートの最初からやり直しとなる
クリーチャーに捕まると、逃走パートの最初からやり直しとなる

 その点、『The Short Message』では前述のシンプルな仕組みにくわえて、何度かある逃走パートが少しずつ難しくなっていくことにも、個人的にはプレイしやすさを感じた。逃走経路はほぼ一本道から徐々に複雑になっていくが、“桜のクリーチャー”の動きや傾向を1回ごとに学びながら進めていけるため、逃走が苦手な筆者でも対応することができたのだと思う。

 それでも終盤の逃走パートはかなり難しく、何度もクリアをあきらめかけたものの、マップやギミックへの理解を深めることによって一歩ずつ前進。なんとかエンディングにたどり着くことができた。さまざまな層が楽しめる、絶妙なゲームバランスになっていると感じた。

短編とは思えない濃密なストーリーが待っている

 アニタは世界への絶望、自身の行いへの悔恨など、さまざまな理由から各逃走パート後に自ら死を選ぶものの、何度繰り返してもマンションのスタート地点に戻ってしまう。逃走パートをクリアした報酬のように新たなヒントが提示され、またひとつアニタは前へと進んでいく。複雑に絡み合った物語が交差していくストーリーは、短編とは思えない濃密さだ。

思い悩むアニタ。廃墟マンションでさまざまな過去に向き合う
思い悩むアニタ。廃墟マンションでさまざまな過去に向き合う

 ちなみに……本稿を執筆する際に自分のプレイ動画の録画を見ていたのだが、実際にプレイしていたときよりも怖く感じる。動画だと“桜のクリーチャー”との距離感がつかみにくく、ゲーム性とは別のところで「捕まってしまうのでは!?」という感覚が生まれているようだ。というわけで、ぜひ自身の手で本作をプレイして、現代を生きるキャラクターたちの物語を見届けてほしい。

慣れるまではクリーチャーと鉢合わせすることも
慣れるまではクリーチャーと鉢合わせすることも

 サイコロジカルホラー『SILENT HILL: The Short Message』は、2月1日からPlayStation®5向けにダウンロード版のみ無料配信中。ゲームのダウンロードは下記リンクから。

『SILENT HILL: The Short Message』(PlayStation Store)

©Konami Digital Entertainment

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