“手段”を作る設計から感じた、ゲームとアクセシビリティが持つ可能性 PS5・Accessコントローラー先行体験会レポート
3. Access コントローラーの試遊インプレッション
「開封」から始まるアクセシビリティの取り組み
Access コントローラーにおけるアクセシビリティの取り組みは、ハードウェアやソフトウェアだけではなく、そのパッケージにおいても徹底されている。池ノ谷氏(SIE)は、その設計にあたって、「片手で開けられる」ことを最も大事にしたポイントであると語っていた。具体的には、パッケージの各所に輪っかの形状をしたタブがついており、基本的にはそれを軽い力で引っ張るだけで一通りの開封を進めることができるようになっているのである。
試遊では実際にこのパッケージを開封するところから体験できたのだが、(筆者の場合は)確かに、片手のみでそれほど力を入れることなく、本体やパーツを取り出すことができた。パッケージ内のレイアウトについても、コントローラー本体と同梱物が明確に分かれていたり、取り出しやすくなっているといった工夫が込められている。
このパッケージについては、田代氏(日本支援技術協会)も「開封からわくわくさせてくれる配慮が素晴らしい。全部片手で梱包を解いていくことができる。これは、諦めていたことが自分にもできるんじゃないかという未来への期待が膨らむと感じました」と語っていた。ユーザーのもとに商品が届いた瞬間から、ゲームの体験は始まっているのである。
筆者も、開発者の説明や実際に体験することによって深く感心していたのだが、同時に強く感じていたのは「これはゲーム以外の分野や、あるいは自分が荷物を送る時にも心がけるべきことなのではないか」ということだ。以前から、ビデオゲームにおけるアクセシビリティの取り組みは、そのほとんどが何かしらの形で別の分野や普段の生活にも応用できると感じているのだが、このパッケージの取り組みは、その中でも象徴的な例なのではないだろうか。
さまざまな種類のパーツを選びながら作り上げる、自分に合ったコントローラー
ここからは実際にAccess コントローラーを体験して感じた内容をまとめていきたい。まずはコントローラー自体のインプレッションについてだが、テーブルに置いたAccess コントローラーはコンパクト(ボタン部分の直径はDualSenseと同じくらい)でありながらしっかりとした安定感があり、少なくとも筆者の場合は試遊全体を通して、スティックやボタンを触っていてコントローラー自体が動いてしまうといった事態が起こることはなかった。円形に配置されたボタンは、手を広げたときにそれぞれの位置に届くようになっており、少し指先や手首のあたりに力を入れることで、そのまま自然に押すことができるようになっている。
交換可能な各ボタン、スティックキャップについてもいろいろと試してみたのだが、個人的に最も驚かされたのは、交換時のスムーズさだ。それぞれのパーツは磁石によって接着されており、引っかかりや詰まりを感じることなく、軽い力で取り外しすることができるようになっている。これについては畠山氏も「ボタンの取り外しが非常に簡単にできており、開封しながら、細部にまでこだわったアクセシビリティに感動を覚えました」と語っていた。
ボタンの種類については、中央に膨らみのあるもの、外側に出っ張りのあるもの(カーブボタン)、フラットなもの、コントローラーの内側に伸びているもの、2箇所のボタンを同時にカバーできるものが用意されている。それぞれボタンを入力する際に力を入れる位置が異なっており、たとえば、テーブルの上にコントローラーを置き、上から指で操作する場合であれば、中央に膨らみのあるボタンだと指の腹で、カーブボタンは指先で押すような感じになる。スティックについては、DualSenseと同様のものと、その先端部分がもう少し広くなったもの、そしてアーケードスティックのようなボールがついたものの3種類のキャップが用意されており、筆者の印象としては、大きくなるにつれてより軽い力で操作できるように感じた。
干場氏も畠山氏も、それぞれに自分に合ったパーツや配置を見つけることができたという。
「カーブボタンが本当に使いやすかったです。指が触れる部分と、実際に動作のある作用点の部分に距離があることによって、自分の身体に無理のない範囲でボタンを押すことができました。スティックについては、ボールがついたものを使うと一般的にあるアーケードコントローラーのような形になり、少ない力で大きな動きが可能になるので、腕の力が弱い僕のような人間にとっても、かなり疲労感を抑えてゲームをプレイすることが可能になると思いました」(干場氏)
「あまり指の力が強くないので、ボタンをうまく押せるかどうかを非常に危惧していました。ただ、押す力ではなく、手を握る、指を縮めるという動作であれば結構できるので、指を引っ掛けてボタンを引くことができるカーブボタンが自分に合っていることが分かりました。(中略)顎でスティックを操作するため、コントローラーの位置を顔の前に固定する必要があり、そのぶん押せるボタンが少なくなってしまうことを危惧していたのですが、位置や向きを細かく調整することで、顎でスティック操作をしながら口の横でボタンを押すことができました」(畠山氏)
これらのカスタマイズについては、まさにユーザーごとにまったくニーズの異なる部分であり、実際にAccess コントローラーを試してみることで初めて実感できるものだろう。若井氏(SIE)に、今後の一般のユーザーへの試遊体験や病院などの施設への貸し出しといった予定があるかどうかを伺ったところ「どうすれば当事者の方々にもっと使っていただけるのか、広報とも連携しながら現在検討を進めている」とのことだったので、まずはAccess コントローラーという存在自体が多くの人々に広まること、そして当事者の方々が実際に試すことのできる機会が増えていくことを期待したい。
Access コントローラーでゲームをプレイすることで感じた、新たなゲーム体験の可能性
ここからは実際のゲームプレイを通してAccess コントローラーの機能を体験していく。今回、試遊に使用したタイトルは『グランツーリスモ7』と『Horizon Forbidden West』だ。
まずはレースゲームの『グランツーリスモ7』から。今回の試遊では、初期状態のAccess コントローラーにプロファイルを設定するところからスタートした。同作では、少なくともアクセルとブレーキとハンドル操作さえできれば、レースを楽しむことができるようになっているため、最初はいただいたプロファイル例を元に、左側にスティックが位置するように配置し、奥側のボタンをブレーキ、中央のボタンをアクセルに設定するような形式でプレイしたのだが、筆者個人としても、DualSenseでプレイするより遥かに軽い力で、指先や手の負担を軽減した状態でレースを楽しむことができることを実感することができた。DualSenseを使用する場合、ボタン操作の場合は親指の、トリガー操作の場合は人差し指の位置を頻繁に切り替えながら操作することになるのだが、Access コントローラーで操作する場合は手の平を置いて指先に力を入れるだけで入力することができるため、そうした忙しない動作が不要になるのである。
とはいえ、Access コントローラーの真価はカスタマイズ性の高さにある。ここからは自分でどのように使うことができるのかを考えながら、プロファイルの調整を進めていくことにした。
『グランツーリスモ7』にはさまざまなアシスト機能が用意されており、そのうちの一つであるオートドライブ(コーナーに合わせて自動で減速とステアリング操作を実施)があれば、ブレーキのボタン入力自体が不要となる。そこでスティックとボタンの距離を近付け、スティックを動かせる状態で指先が届く位置のボタンにアクセル(✕ボタン)を割り当てたところ、予想通り片手のみの操作でレースを楽しむことができるようになった。また、アクセルとなるボタンに長押し機能を設定することで、今度はオートドライブに頼ることなく片手での操作(自動でアクセルを入力、自力でブレーキ+ステアリング)を実現することができたのである。さらに、同席いただいた方にお願いして、2台のAccess コントローラーを連携し「一人がメインで操作し、もう一人がブレーキなどのサポートを担当する」ように設定することで、一人ではなく二人でレースを楽しむことにも成功した。プロファイルの設定画面は、多くのボタンを扱うにも関わらず極めて直感的に操作できるようなUIになっており、プロファイルを調整し、実際のゲームで試すというトライ&エラーの過程においてストレスを感じる場面が(筆者個人としては)ほとんどなかったのも印象的である。
また、別のブースで試遊をしていた干場氏の様子を見に行ったところ、大きなクリップのような形をしたトリガーボタン(別途用意)を腕と太ももの間に挟み、右手でスティックを操作することで、腕の押し具合でアクセルの量を調整しながらレースをプレイしており、周りからも「すごい!」という声が上がるなど、ちょっとした盛り上がりを見せていた(何より、干場氏自身の楽しそうな表情や、「これヤバいですよ」という素の感想が印象的だった)。畠山氏が(押すのではなく)引くことでボタンを操作していたように、本体の位置とボタンやスティックのレイアウト、さらには外部入力装置や他のコントローラーとの連携が生み出す可能性は非常に大きく、発売後はさまざまなアイディアに満ちた使用方法が出てくるのではないかという期待を強く感じさせる光景がそこにはあった。
試遊全体を通して印象に残っているのは、他の参加者も交えながら「こんなこともできるのでは」、「こうすればもっと楽になるのでは」とさまざまなカスタマイズやプロファイルを試行錯誤していくうちに、ある種、それ自体が一つの「ゲーム的な面白さ」を持っているのではないかと感じるようになっていったことである。これはあくまで筆者個人の感想だが、畠山氏も同じような感覚を抱いていたようだ。
「(アシスト機能を使うことで)支援者と一緒に、自分に最適化したプロファイルを考えることができます。この機能を使って誰かと操作を分けてプレイすることで、私がゲームをプレイするときに一番苦戦する部分である操作の最適化をより効率的に解決することができて非常に良いなと思いました。操作を分けてゲームを楽しむ、それがコントローラーの設定をしながらできるというのは、Access コントローラーだからこそできる新しいゲームの楽しみ方であるように思います。誰かと一緒に冒険の準備をしているようで、とても楽しく感動しました」(畠山氏)
操作の最適化を経て、改めて実感する「ゲーム側のアクセシビリティ」の重要性
続いて『Horizon Forbidden West』を試してみる。シンプルな操作だった『グランツーリスモ7』と比較して、多くのボタンを使用する同作をAccess コントローラーに落とし込むのは、なかなかに難しいのではないかと懸念していたが、もともとの操作方法を踏まえつつ、基本的には一通りの機能を1台に落とし込むことができた。
ただ、ひとつネックになったのは(標準では)右スティックによる視点移動の存在だ。Access コントローラーに付属するスティックは一つだけであるため、キャラクターの移動を割り当てる以上、どうしてもコントローラー1台だけではスティックが足りなくなってしまう。実際、単体で完全に解決することは難しく、他のコントローラーと連携することで最終的な実現に至ったのだが、特筆するべきは同作のアクセシビリティ設定の一つに「自動カメラ」というプレイヤーの移動に合わせて自動で視点が追従してくれる機能があったことだ。これを活用することで、基本的にはAccess コントローラーで探索を行い、必要な時だけ他のコントローラーを使うという、(ある程度)負担を軽減する操作方法を実現することができた。
このように、Access コントローラーへと操作を落とし込む過程では、ゲーム側のアクセシビリティ機能も重要な役割を持つ。『グランツーリスモ7』や『Horizon Forbidden West』は作品自体がさまざまなサポート/アクセシビリティ機能を搭載しており、カスタマイズやプロファイルを検討するにあたって、それらの機能を使うことで操作の最適化をよりスムーズに進めることができた。もちろん、そうした機能の少ない作品であってもAccess コントローラーの導入には大きな意味がある。だが、あくまで操作のベースはゲーム側にあり、操作が複雑であればあるほどにプロファイルやカスタマイズの検討の難易度は大きく上がっていくことだろう。「Access コントローラーがあるから大丈夫」と考えるのではなく、むしろその存在を認識する、どのように使われているのかを把握するということが、今後のゲーム業界では重要になっていくのではないだろうか。