『プロセカ』3周年ソング「NEO」のMVを手がけたstudio matomoに聞く“制作秘話” 「画面の向こうにいる私たちにコンテを切った」

『プロセカ』3周年MVを手がけたstudio matomoの”プロセカ愛”

 9月30日に3周年を迎えたスマホ向けリズム&アドベンチャー『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク(以下、プロセカ)』が、9月16日、9月17日で全4公演開催した『プロジェクトセカイ 3rd Anniversary 感謝祭』。

 各ユニットのキャラクターを演じる総勢12名のキャストにより、生朗読劇や『プロセカ』の思い出を振り返るトークショー、ミニライブが届けられた。

 17日の公演の客席には、3周年アニバーサリーソング「NEO」(作詞・作曲:じん)のMVを手がけたアニメーション制作チーム『studio matomo』のメンバーであり、アニメ作家のniL、常温、津田の姿が。キャラクターとバーチャル・シンガーに対するプロセカファンの愛がほとばしったイベント終了後、3人の心に生まれた想いから、MVの制作秘話まで存分に語ってもらった。

3周年アニバーサリーソング『NEO』

――『プロジェクトセカイ 3rd Anniversary 感謝祭』のラストに、みなさんが制作された3周年記念楽曲「NEO」のMVが先行公開されました。1カットごとにファンの方が歓声を上げていて、ファンの方のキャラクターに対する熱量の大きさを実感しました。

niL:すべてのカットに意味がある素晴らしい作品になっているので、見せ場のところでみなさんに喜んでもらえているのを噛みしめることができて本当に嬉しかったですね。

常温:私もすごく嬉しかったです。

津田:あの時、3人とも人生で一番のドヤ顔をしていたと思います(笑)。あと、ミクちゃん(バーチャル・シンガー:初音ミク)が出てきた時に「キャー、可愛い!」って歓声も上がっていて。キャストさんが演じているオリジナルキャラクターもバーチャル・シンガーも分け隔てなく愛されているのは、本当にすごいなと思いました。

津田

 ――みなさんは今回のMV制作のお仕事をする前から『プロセカ』をプレイされたことはあったのでしょうか?

津田:私は、2021年2月にすりぃさんが書き下ろした『プロセカ』のユニット・25時、ナイトコードで。への楽曲「限りなく灰色へ」のMVのご依頼をいただいた時から『プロセカ』を始めて、それ以来ずっと“プロセカオタク”です。

niL:私は今回、ご依頼いただいた時に津田さんから魅力をいっぱい語ってもらいながらプレイしました。

常温:私も今回のご依頼をきっかけに膨大なストーリーを読み進めていく中で、プレイしました。 津田さんは『プロセカ』のどんなところが好きなの?

津田:リズムゲームも楽しいけど、ストーリーの面で惹かれていると思います。お話を読むごとに関係性が深まったり、ちょっと離れたりして、人間の心の動きみたいなのがすごくリアルに感じられるんです。本当に人間くさいし、キャラたちがそれぞれ可愛くて愛が深まりますね。

niL

――いまでは、ボカロカルチャーを語る上では外せない『プロセカ』ですが、3周年記念楽曲「NEO」のMVを手掛けるにあたっては、プレッシャーもあったのでは?

niL:うちには熱いオタクがいるから大丈夫だろうと思っていました(笑)。

常温:まったく同感。津田さんが話を聞いて、すごく喜んでいる姿を見たので、出来る限りお力添えできたらいいなという気持ちでしたね。

津田:私は2周年アニバーサリーソング「Journey」(作詞・作曲:DECO* 27)のMVが公開された時に、3周年でもMVが制作されるとしたら、誰が作るんだろうって楽しみにしていたんですよ。実際、声を掛けていただいたときは、嬉しいよりも「ヤバい!」と思いました。公式から認知されてしまったオタクの気持ちだったんです。ひとりでテンパっていたところ、2人が冷静に今後のスケジュールなども聞いてくれていたので、心強かったです。

常温

――今回の制作で再認識したそれぞれの尊敬しているところを教えてください。

常温:今回、作画監督をniLさんと私で担当したんですけど、niLさんは特に手と目を描くのが上手い。私はあそこまで上手に描けません。あと今回は制作進行もniLさんがひとりでやってくれたんです。

津田:各アニメーターさんに連絡を取ったり、「背景を何日までに上げてください」と促したり、全体を取り仕切る役も担いつつ作画も担当するのは、普通、時間的にも体力的にも無理なことなんです。今回、私は監督という立ち位置を務めたんですが、作画を含めた制作進行をひとりでやっているniLさんに頭が上がりませんでした。

niL:多少、津田さんにも手伝ってもらったことはあって。ときにはアニメーターさん側に「早くカット素材を上げてください」と促してくれたりしていました。津田さんは人をまとめる力もあるし、人の良いところを見つける眼力もある。だからこそ安心して、私も自分の考えていることを実行できるというか。

津田:今回、常温さんはキャラクターデザイン(以下、キャラデ)担当で、服は黒、手は茶色の実線に分けたり、1枚1枚が手塗りになっていたり、とにかくディテールがとても凝っていて。私は効率主義なところがあるので、そのキャラデで動かすのは納期に間に合わないかもしれないと少し焦ったんですよ。でも、常温さんから「どうしてもこの見栄えでいきたい」という気持ちが伝わってきたので、信頼してお任せしました。常温さんがいなかったら、きっと映像に対する視聴者のみなさんの心の高まり具合も全然違っただろうなと思います。

――それぞれがないものを補っている関係性であることが伝わってきました。そもそも、みなさんはなぜ2022年にアニメーション制作チーム『studio matomo』を立ち上げたのでしょうか?

津田:もともとniLと私はインディーアニメを作る作家としては知り合いで、お互いに絵とは関係のない別の仕事をしていたので仲良くなっていったんです。どこかのタイミングで本気ではないトーンで「コラボしようね」なんて話したりしていて(笑)。

niL:そうそう(笑)。

津田:そんななかで私が副業としてアニメーションを制作しているのを常温さんが聞きつけて、私も同じ状態で本業と両立するのがすごく難しいことだと感じているから、どうやっているか知りたいと連絡をくれて、そこでお話が広がっていきました。

常温:相互フォローになったとき、先に挨拶してくれたのはたしか津田さんだったと思うよ。

津田:そうだったか。コラボの話はniLさんも本気にしていないだろうから誰かを誘えば本気になるだろうと思って、常温さんに「コラボやりたいと思っているんだよね」と話をしたんです。そうしたら、予想通りniLさんも乗ってきてくれて、3人で一緒に制作することになりました。それぞれが副業としてアニメーションを制作しているので作業時間も3人いてやっと1人前くらいになれるんです。本業が終わった21時半からDiscordの通話作業部屋に入って打ち合わせを開始するという、まさに“21時半、ナイトコードで。”な3人で(笑)。今回参加してくれた『プロセカ』好きのアニメーターさんたちも、それを聞いて「ニーゴ(25時、ナイトコードで。)じゃん!」と言ってくれたりしました。

――懐かしさと新しさを感じるストーリーの中身は、どう作っていったんですか?

津田:すでに配信されているストーリーに加えて、まだ配信されていないストーリーをMVに入れなければいけなかったんです。それぞれのユニットの3周年前の最後のストーリーについては、まだ執筆されていないストーリーのプロットをいただいて、それに合わせて6カットほどをMVに落とし込みました。それとは別に、プロセカオタクがご依頼をいただいたからには、オタクにしかできないこととして、もう一つのストーリーを絶対に入れようと思ったんです。以前、『プロセカ』の生放送で今井(文也/東雲 彰人役)さんが「俺のスマホにまだ『Untitled(アンタイトル)』来てないんだけど」って発言していたんですけど、私もその気持ちが理解できたんですよ。音楽のアプリを開くと「Untitled(アンタイトル)」がないか探しちゃう、みたいな(※1)。

ーーわかります。

(※1:ストーリーが進行するアドベンチャーパートで現実世界と相反した「セカイ」に行くことができるのは、強い想いを持ち、目の前に現れた無音の楽曲「Untitled(アンタイトル)」を再生した人だけ)

津田:そこから着想を得て、MVでは、スマホの画面を横にスライドして表示された曲名「群青讃歌」「Journey」に続いて「Untitled(アンタイトル)」が出る。その後、これまでの各キャラの成長だったり、いろんな想いを見てきた視聴者が想いを見つけたことで、初めて「Untitled(アンタイトル)」が「NEO」に変わるというギミックを取り入れています。私自身がメタい表現が好きで、最後のキャラクターたちによる寄せ書きも含めて、画面の向こうにいる私たちに向けてコンテを切ってみました。

――niLさんと常温さんがこだわったところは?

niL:私はまだ『プロセカ』の全部を知り得ていない状態で制作に立ち会わせていただいたんですけど、MVも『プロセカ』のファンの方が愛を持って観てくれると思うので、それに応えられるように、作画監督としては、画面に映るキャラクターを観るだけで、ストーリーを読んだ時の最初の感情とかが思い出せるところまで持っていけるように意識していました。

常温:普段から二次創作の世界において愛に勝るものはないと思っています。今回、監督が愛を持って作っていることは百も承知。アニメーターさんもすごく愛を込めて作ってくれていたので、その想いを壊さないよう、なるべく拾うように心掛けましたね。

津田:常温さんはいつも「愛を持っている人が作るべきなんだよ」って言っているよね。

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