szri×もちうつね、ボカロP歴わずか約1年のルーキーたちが語るVOCALOIDの魅力 「人間のネガティブな一面や尖った個性を大きな武器に」

szri×もちうつね『ボカコレ』対談

 8月4日~7日の3日間にわたって開催される、『The VOCALOID Collection ~2023 Summer~』(通称:ボカコレ2023夏)。シーン全土を巻き込む部門別のランキングが最たる目玉だが、中でも大きく注目を集めるのは、ボカロP歴2年以内のクリエイターのみが参加を許される「ルーキーランキング」だ。

 投稿作品の増加にあわせ、総合ランキングから独立したこのルーキーランキング。初の独立開催となった2022年秋にはボカコレ全体の投稿作品のうち三分の二がルーキーランキングでの参加となり、以後も開催回によっては通常の「TOP100ランキング」以上の激戦が繰り広げられている。(参考:ニコニコニュースオリジナル https://originalnews.nico/413969

 今回はそんな「ルーキー」と呼ばれる新人ボカロPたちの中でも、ボカコレ2023春を中心に直近で大きな存在感を発するクリエイター二名による対談を実施。

 「おくすり飲んで寝よう」「悶々ふぁんもおらん」を筆頭に電子サウンドと手描きMVで人気を博すもちうつね、そして前回開催時は途中までルーキーランキングを独走しつつも、諸般の事情により惜しくも参加辞退となった「アナフィラキシー」や、「ミミカ」などが話題のszri。両名共にボカロP歴は約1年と短いながらも、鮮烈な印象をシーンに与えた。

 今回の対談が初の邂逅となる二人の、制作に対する向き合い方や楽曲の製作秘話、あるいはシーン全体や「ボカコレ」というイベントへの印象まで、多彩な視点から、クリエイティブなエネルギーに満ち溢れる対談をおこなってもらった。

「バンド」と「ゲーム音楽」、それぞれのルーツとなった音楽

──ボカロPとしてデビューしてからはまだわずか1年前後のお二人ですが、まずはそれぞれの「VOCALOIDとの出会い」についてお聞かせください。

もちうつね:僕の場合、VOCALOID自体には小学生のころから触れていて。当時はニンテンドー3DSが全盛期のころで、ニコニコ動画が流行っていたので、「カゲロウデイズ」や「脳漿炸裂ガール」のような人気の曲をよく聴いてました。そのあとボカロシーンからすこし離れて、ゲーム音楽や同人音楽などのジャンルに傾倒するようになったんです。

【初音ミク&GUMI】脳漿炸裂ガール【オリジナル】

 ただ、当時「SoundCloud」という音楽共有サイトで楽曲をいろいろ漁っていたとき、Mameyudoufuさんという方の初音ミクを使用した曲に偶然出会って。それにものすごく強烈な感銘を受けたんです。そこからボカロへの愛が再燃して、それ以前からも好きだったsasakure.UKさんや、すでに活躍し始めていたいよわさん、そしてボカロPの中でも特にユニークな世界観を持っていらっしゃる電キ鯨さんなど、そういった方たちの楽曲を聴くうちに、気づいた頃には完全にボカロに染まってましたね。

YOAKELAND

──ボカロ楽曲にSoundCloudで出会う、というのはやや珍しい形のようにも思います。

もちうつね:元々僕が同人・ゲーム音楽にハマっていたからこそでしょうね。SoundCloudにアップされてる楽曲って、同人楽曲でも音作りの品質がめちゃくちゃ高いんです。なので、いまでもそういう面を参考にしたり、リファレンスとして頻繁に使ったりはしていますね。

──SoundCloudでのボカロとの再会から、ボカロPとしての活動開始まであまり時間は空いてない形ですか。

もちうつね:そもそも根本の話をすると、僕、実は元々ゲームを作ろうとしてたんですよ。そのために音楽制作を始めたんですが、それと同時に初音ミクに出会って、VOCALOIDを使っていろいろやってみようかな、と。

 本格的にボカロPとしての活動を始めたのは、去年の「下がるガール」からですね。それまでも音楽を作ってはいたんですけど、あくまで趣味のような感じで。自作ゲーム用のインスト音楽なんかを作りつつ、ネットにもちょっとアップする、みたいな形でした。

下がるガール / 歌愛ユキ - もちうつね

──同人音楽のほかに、ルーツとしてゲーム音楽の要素も色濃いという事ですが、どんなジャンルを好まれていたんですか。

もちうつね:任天堂のゲーム音楽にはかなり感化されています。特に「カービィ」シリーズの影響は大きいですね。

 せつなさと可愛さ、どちらも兼ね備えてる点に魅力を感じていて。ゲーム音楽ならではの構成や展開のさせ方、特にカービィの曲は全体的にキャッチーさと複雑さを両立させているところもすごいと思っていて。曲を作るうえでそういうところを意識するようになったきっかけだったりもします。音楽って、日記帳みたいに当時の記憶とも結びついているので、懐かしめる感じも自分は好きですね。

──ゲーム音楽を作るうえで、楽器の習得なんかもされましたか?

もちうつね:じつは僕、一切楽器を弾けないんですよ。それどころか、昔はパソコンも持っていなくて、原点になったのがWiiU版『Minecraft』の「音符ブロック」を使った耳コピの経験なんです。だから、本当に「ゲーム」が僕の基盤なんですよね。何気にその経験で、音感が鍛えられた部分もあるんじゃないかと思うんですけど(笑)。

──かなりユニークな原体験ですね! そうなると、音楽関連のクリエイターさんもそういったゲーム音楽に携わる方がお好きなんですか?

もちうつね:確かにその傾向は強いですね。ただ、ゲーム音楽に留まらず様々な音楽を聴いていたりもしました。トラックメイカーのYunomiさんや、バンドだと相対性理論とか。その人にしか作れないような、唯一無二の個性がある音楽に心を掴まれる傾向がありますね。

──ありがとうございます。先ほどからお話の中で、szriさんが度々反応されている瞬間がありますね(笑)。

szri:(笑)。いや、お話聞きながら「すごいな」って思ってて。もちうつねさんの楽曲は、僕自身も普段からよく聴いているんですけど、「SoundCloud出身の人っぽいな」っていうのは薄々思っていて。

──どういうところから感じられたんですか?

szri:楽曲のMIXや音作りがめちゃくちゃうまいなって、そういう部分からですね。あと、もちうつねさんはご自身でMVも作っていらっしゃるじゃないですか。そのイラストも「SoundCloudのサムネイルっぽいな」って常々感じていたんです。キャッチーさがあるというか。

悶々ふぁんもおらん / 初音ミク - もちうつね

──たしかに、もちうつねさんの作品からはVOCALOIDやニコニコ動画に留まらない、様々なルーツを多々感じますね。

もちうつね:そうですね。自分のルーツは大事にしつつ、それ以外のジャンルや、いろんな方面の方に受け入れてもらえるような音楽をこれからも作っていきたいと思っています。

──ありがとうございます。そうしましたら続いては、szriさんにもお話を伺えたらと。

szri:僕は中学生のころ、Eveさんやヨルシカさんのメジャーシーンでの活躍をきっかけにVOCALOIDというジャンルを知ったんです。そこから数年間はリスナーとして楽しんでいたんですが、それこそ2020年に始まったボカコレの存在を知って、ルーキーランキングが盛り上がってるっていう話も聞いて。

あの娘シークレット / 初音ミク

 元々バンドで音楽をしていて、自分もボカロ曲を作ってみたいとは思っていたので、大学進学を機にボカロPとしての活動も始めました。生活環境が変わったのもありますし、やっぱりバイトを始めて自由に使えるお金が増えたのが大きかったですね。自分で稼いだお金での初めての大きな買い物が「可不(KAFU)」だったので。

──思い入れのあるお買い物になりましたね。音楽のルーツという意味では、先ほどのEveさん、ヨルシカさんが最初ですか?

szri:初めて触れた音楽は、先ほど挙げた方々を入口にしたボカロシーンの音楽ですね。高校生のころは周囲におすすめしてもらった音楽もいろいろ聴いていて、とくにRADWIMPSやBUMP OF CHICKEN、ONE OK ROCKなどの邦楽ロックを中心に聴くことが多かったです。

──楽器の演奏経験もそのころからのものなんでしょうか。

szri:楽器は中学生のころに始めました。これもニコニコ動画つながりなんですが、「弾いてみた」動画の影響で、独学でピアノを始めて。安い電子ピアノを買って、一人で耳コピして遊んでいたんです。高校に入学してからは吹奏楽部に入部してパーカッションを始めて、今大学では軽音サークルでキーボードとドラムを担当してます。

──いまもリアルのステージで楽器演奏をされていらっしゃるんですね。

szri:それが、最近はエレクトロの音作りにすっかり興味が向いちゃって。それこそ「アナフィラキシー」以降はずっとDTMばっかりやってますね。いまは『SERUM』を主に使ってるんですけど、シンセやリリースカットピアノの音作りはやっぱりパソコンでやるのが自分には合っていると感じていますね。実機でも出来るんですけど設定がそもそも難しくて、そういったパソコンの中でしかできない音楽もいいなって思って。自分が聴いてきた音楽もそういう音作りが多いですし、いろいろとやりたいことを考えた結果、パソコンの中でしかできない音楽に行きつくことが多かったんですよ。

──『SERUM』はボカロPさんも大勢使われていますね。それから、リリースカットピアノを用いた表現などはやはりYOASOBIのブレイク以降に使われる頻度が増えた印象です。szriさんにとっても、そういった影響は大きいですか。

szri:そうですね。『SERUM』はそれこそ周囲の知り合いに勧めてもらいましたし、リリースカットピアノの音作りは、YOASOBIに影響を受けたというより、YOASOBIよりもピアノの音を激しく加工して鳴らすボカロPの方々、たとえばツミキさんやハイノミさんなどから受けた影響が大きいかもしれません。

リコレクションエンドロウル - miku [オリジナル]

──ありがとうございます。音楽以外のルーツはいかがでしょう。なにか影響を受けたものはありますか。

szri:アニメや映画、マンガは好んでよく見てました。ジャンプ系作品を特に見ることが多いですね。今まで作った曲の中には、そういった作品のキャラクターをモチーフに歌詞を書いたものも結構ありますよ。「アナフィラキシー」なんかもそうなんですけど。

──最近だと、どんな作品が印象に残っていますか。

szri:いろんなボカロPさんのED提供の話題きっかけで見た『チェンソーマン』は、アニメもマンガも面白かったです。あと、作品自体は少し前のものなんですけど、『約束のネバーランド』も良かったです。物語の世界観や、絵柄のタッチも好きで。

──ジャンプ系作品の中でも、ややダークめな傾向の作品が多いですね。

szri:いわゆるジャンプのメジャーな作品よりは、少し王道を外れたものの方が好きで。主人公が“いわゆる主人公然としていない”というか……僕みたいな“陰の者”にも共感できるポイントが多いというか。そういう作品の方が好きかもしれません。

──「アナフィラキシー」を始め、szriさんの曲にはダークな一面の印象も確かにあったので。そのルーツはここからなのかもしれませんね。

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