晴いちばん×皆川溺、10代ボカロPたちに聞く“シーンの現在” 大事なのは「どんな形でもいいから曲を作ること」

晴いちばん×皆川溺”10代ボカロP”対談

 ボカロ文化の祭典『The VOCALOID Collection ~2022 Spring~』(『ボカコレ2022 春』)が、2022年4月22日〜2022年4月25日の4日間にわたって開催される。

 過去3回のボカコレでは中学生や高校生のボカロPの投稿が多く見られたが、晴いちばんは15歳、皆川溺は16歳と、まさに中高生世代の中で頭角を現しつつある二人のクリエイターによる対談が実現した。

 小学校6年生のときにパソコンを用いた楽曲制作を開始し、中学校1年生でオリジナル曲を投稿。ボカロ曲だけでなく田中秀和などアニソン作曲家にも影響を受けたという晴いちばん。小学校5年生の時に聴いた星野源とRADWIMPSが音楽との出会いで、13歳のときにボカロ曲を初投稿、その後も椎名林檎や向井秀徳や米津玄師などに憧れ、ロックを愛好してきたという皆川溺。共に“中学生ボカロP”として音楽活動をはじめ、現在はソニーミュージックのPuzzle Projectに参加して活躍の場を広げている。

 二人には、お互いの作品やボカロシーンのいまについて、そして10代のクリエイターが続々と登場し「新世代の才能の登竜門」として注目を集めているボカコレについて、語り合ってもらった。(柴 那典)

初投稿は中学時代。2人が楽曲作りで重視するのは“おしゃれさ”?

——お二人の初投稿はいつごろでしょうか?

皆川:初投稿は2019年の9月ですね。

晴:自分は2019年の12月下旬なので、ほぼ2020年ですね。

——そこからスキルや音楽性もかなり成長してきたと思いますが、いまの自分から最初に投稿した頃を振り返るとどうでしょう?

晴:自分はそれまでボカロ曲をずっと聴いてきたんですけど、投稿する側にまわると右も左もわからない状態で。最初の曲はイラストじゃなくて、なにもわからず実写の写真を貼り付けて簡単な編集で投稿していたんです。でも音楽としては、自分がやりたいことや、好きな感じのメロディーを作れていた。自分がときめく作品を作っているというのは、初投稿からいまでも全然変わらないなと思ってます。

皆川:初投稿した当時は、作る側の気持ちとか全くわからないし、正直、自分は投稿したらすぐにいわゆる大手のボカロPの方々みたいになれるんじゃないかと漠然と思っていて。でも、そんなわけないじゃないですか。いまだに自分はめちゃくちゃ有名なわけではないので、初投稿のころの自分を振り返ると、「ボカロはそんなに甘くないぞ」みたいな気持ちがあります(笑)。もちろん昔よりは音楽力もめちゃくちゃアップしてると思いますし、そういう意味では「楽しくやれてるよ」と言いたいですけど、「でもボカロPって大変だな」って。やっぱり、みんな数字って気になるじゃないですか。そういう葛藤もあったり、自分のなかなか上がらない音楽力との向き合い方も含めて、「ボカロはそんなに甘くないんだぞ」って、調子に乗ってた自分に言いたいですね(笑)。

——皆川さんがそう感じたきっかけは?

皆川:第1回のボカコレに「蘭亂ごっこ」という曲を出した時に、自分の曲はルーキーランキングで26位だったんですよね。もちろんその数字は客観的に見たらすごいことだと思うし、自分でも嬉しかったですけど、その反面、もっと行けたんじゃないかという気持ちもあって。周りにもっとすごい人がいると思ったのは、ボカコレがひとつのきっかけではありますね。

蘭亂ごっこ|GUMI+flower+結月ゆかり

——晴さんはどうでしょうか?

晴:最初のボカコレの時は自分もルーキーランキングに出したんですけれど、そもそもランキングにすら載らなかったんです。製作期間が短かったのもあったんですけど、それがすごく悔しくて第2回も投稿しようと思って。第2回も投稿したんですけど、一瞬ランキングに入っても、最終ランキングには残れなかった。ランキングがすべてじゃないっていうことはわかっていても、せっかくならランキングに入りたいという気持ちがあったので、第3回にはいままでと違うかっこいい系の曲調で攻めてみようと思って「アブセンティー」という曲を出して。それがみなさんに聴いていただけるきっかけになったのかなと感じています。

魔法の星がくれたもの / 初音ミク
やきもちをやこうね!! / 初音ミク×音街ウナ
アブセンティー / flower

——「アブセンティー」はルーキーランキング6位、TOP8位という目覚ましい結果を得たわけですが、振り返ってどんなふうに感じてますか。

晴:「アブセンティー」は過去に参加してきた中でも群を抜いて最初から再生数の伸びが凄かったので、実感が追いつかないくらいみなさんに聴いていただいた感じでした。

——「アブセンティー」で曲調や方向性を変えたときに、指針になったり影響を受けたりしたものはありますか?

晴:もともとの自分の方向性としては、明るくて優しい曲調が好きで作っていたんですけど、かっこいい曲を作ってみたいと思うようになってからは、ボカロのそういうタイプの曲のインプットが助けになった感じです。「アブセンティー」はエレクトロスウィングというジャンルの曲を作りたいと漠然と思っていたので、たとえばぬゆりさんや蜂屋ななしさんのようなエレクトロスウィングでボカロ曲を作っている人の曲を聴いてインプットを得たりしました。

——皆川さんはどうでしょうか? 「蘭亂ごっこ」、「ラディカリズム」、「マルベリー」と、ボカコレに出してきた曲のクオリティがどんどん上がっていると感じているんですが、振り返って、どんな風に思いますか?

皆川:自分は2回目からのボカコレに関しては、正直、結果はあまり気にしてなかった感じです。1回目は思ったより順位が伸びなくて悔しい気持ちはあったんですけど、2回目からはボカコレというイベントに参加すること自体が楽しいと思っていたので、ボカコレに向けて曲を制作すること自体が制作意欲のアップに繋がっていて。それが自分のクオリティーのアップにもつながっているんじゃないかなと思います。

——皆川さんの音楽性の変化に影響を与えたものというと、どうでしょうか?

皆川:前回のボカコレの時に出した「マルベリー」に影響を与えたという視点で考えると、実はここ半年くらいボカロの曲をあまり聴かなくなっていて。別にボカロを嫌いになったというわけじゃなくて、ボカロ以外の曲、80年代とか90年代の邦楽の曲とかを聴いていたので。あとは、ジブリ映画を金曜ロードショーで見て、それで感銘を受けたのもありました。「マルベリー」みたいな優しい歌詞を書けたのは、そういうボカロ以外から摂取した成分が集約されたからだと思います。

マルベリー|初音ミク

——ここ最近の曲だと「東雲メイズ」や「祝祭」のように、ジャズファンクっぽい要素があったり、ボサノヴァっぽいコード感があったり、いろんなジャンルの要素を自分の曲に入れ込む作風が続いていると思うんですけど、その辺りはどうでしょうか?

皆川:「祝祭」と「東雲メイズ」は去年12月に出したEP『yellow.drowning』に入ってるんですけど、特にそのEP自体がボカロから離れてた時期に好きだったものに影響を受けた曲を詰め込んだEPなんです。たとえばトム・ミッシュという海外アーティストがいるんですけど、そういう方のギターに影響を受けました。「祝祭」は椎名林檎さんや東京事変のアルバムを聴いてた時期があって、そういうところに影響を受けています。

東雲メイズ|歌愛ユキ

 ほかにもローファイ・ヒップホップのようなちょっと脱力した音楽ジャンルを摂取したり、おしゃれな音楽をたくさん聴いていて。それが「東雲メイズ」には顕著に出ていると思います。

祝祭|v_flower,歌愛ユキ,初音ミク,結月ゆかり

——晴さんはどうでしょう? ボカロ曲以外もいろんな音楽を幅広く聴いて影響を受けているということはありますか?

晴:ボカロだけにとらわれずに、いろんなアーティストの曲を聴いて影響を受けているというのはあります。たとえば「アブセンティー」は全体としてエレクトロスイングで構成されてるんですけど、2番で急にジャズっぽいピアノソロが入ったり、グリッチホップみたいなEDM要素が入ってきたり、一曲の中で飽きないような展開を作りたいというのがあって。その中でもコードが重要になってくるので、おしゃれなコード感を出したくてジャズを聴き漁ったり、奇抜なコード進行を使いたかったので田中秀和さんのようにコード進行がすごいアーティスト方の曲を聴いたりしてました。あとは東京事変の曲を聴いたりもして、そういうのを作ってみようとチャレンジしてみました。

——お二人とも「おしゃれ」というのがキーワードになっているんですね。感覚的な質問ですけれど、ボカロ曲を作っていて「おしゃれなもの」と「おしゃれじゃないもの」の違いってどういうところに出てくると思いますか?

晴:自分の中で基準としているのは、理論的になっちゃうんですけど、コードのテンション感というか、テンションが積まれているコード進行がおしゃれだなという認識があります。ダイアトニックコード、3和音でしか構成されてないようなコードだけでは得られないような成分、おしゃれ成分がテンションに詰まってるなと思って、勉強しています。

——皆川さんはどうでしょうか?

皆川:ファッションとかもそうだと思うんですけど、教科書通りにやるのってつまんないじゃないですか。本当におしゃれなものって、どこか崩れてたりすると思う。それは曲にも共通すると思います。どこか引っかかりがある、1回再生を巻き戻したくなっちゃうような、ちょっと変な部分がある曲の方が、おしゃれだなと思う回数は多いなと思います。

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