気鋭のアーティストと作曲AIのコライトにみた“明るい未来” 『Eggs Presents FIMMIGRM - AI Music Lab. -』レポート

『FIMMIGRM』ワークショップレポ

制作された楽曲をお披露目 『FIMMIGRM™』を使用してみた感想は?

 1番手の灰かぶりは「AIってすごく難しくて身近に感じてなかった。実際に使ってみると、音楽制作を手助けするツールとして身近に感じた」とコメント。メロディを選んだ基準については「いろんなジャンルをとりあえずダウンロードしてみて、そこから自分の好みに合った音やコード感のものを選んだ」と語った。続けて「バンド形態のため、普段は弾き語りから制作してDAWで肉付けすることが多いが、今回はそのような作り方と違う」と、自身の活動形態を踏まえて話す。慣れない工程だったとは思うが、だからこそ面白さも感じたようだ。

 灰かぶりは実際のDAW画面を投影しながら「Simpleで作らせた単純なコードをまずはいじらずに使おうと思ったが、これだけだと足りないと思ったのでリバースさせたりして、ここからアイディアを広げていくことにした」と解説。Bメロ的なパートはAIが作った「Pop/Dark」などのものを切り貼りし、サビ前の急展開については「Simple」で作ったものを2つ重ねてコードを一つにしたそうだ。

 2番手のKangaroockは、採用した『FIMMIGRM™』の楽曲について「頭のメロディが気に入ったので部分的に使おうと思った」とコメント。生成したメロディを歌メロに使おうとしたが、規則性がないためアレンジして使い回すことを選択したという。コード進行はオリジナルで作っていったものの、そこまで手間を感じなかったようで、「メロディが最初から作られているので、イチから作らなくていいのが手軽だった。普段でも使ってみようと思った」と、導入に前向きな姿勢をみせた。

 3番手の米澤森人は「Singer」の「Simple」で生成したメロディを選択。理由については「シティっぽい方向に行く人が多いかなとおもったので、武蔵野っぽい感じを出してみようと思った」と個性的なコメント。「コード進行がなかなか帰り道っぽいものが生成できなかったので、自分で作ってみることにした」と自分でコードを付けていった点はKangaroockと同じだ。制作を終えた感想として「最初はAIが生成した楽曲には感情がないから、人工的なものが出てくるんじゃないかという不安があったが、自分でコードを付けていくことで自分の感情に引き込めると気づいた」と、AIによって作られた楽曲の活かし方を早くも見つけた様子だった。

 4番手のDADA GAUGUINは「Emotional/Bright」の「Simple」を2つ生成&使用。その音源を選んだ理由については「友達から『東京に引っ越して寂しくなって電車で号泣した』という話を聞いたのでそれをもとに作った」とコメント。基本的にはコードとメロディをA〜Bメロに使用し、そのうえで「制作途中でAとBができて、そこに引き出される形でサビはゼロから作った」と語るなど、AIの楽曲がサビを呼んだ形で制作したという。また、感想としては「自分の手ぐせが抜けた。いつもは2日くらいでここまで仕上げているものが3時間でできた。コード感がある程度あって自分がやるよりも曲っぽいものにすぐになったなと思った」と、作曲するうえでの大幅時短になったことを明かした。

 5番手のSuhmは、「Pops」や「Techno」の「Simple」を選択。「テーマが『TOKYO』だったので、それならYMOでしょ。ならBPMは128だなと思って作り始めた」と音楽偏差値の高さを見せつけ、続いて「作っていく中でUKガラージっぽいものにしようかと思ったけど、メロっぽいものをリフにしたり、リフっぽいものをメロにしたり、必ずしも出てくるものをそのまま使う訳ではなかった」と、自分のなかで用途を変えて使うこともAIが生成した楽曲の活かし方であることを、音楽をもって証明してくれた。

 6番手のkijinはサンプリングの元として「Pop/Dark」の「Simple」を選択。「最初にあるデータからコードだけを抜いてサンプラーに入れて、コードを2個ずつパッドに入れて音程も操作して音感もローファイっぽい感じに変えて、前半と後半でコードの順番を変えたり抑揚をつける形にした」と、HIPHOPならではの活かし方を選んだようだ。作ってみた感想としては「元々打ち込みとサンプリングを使うが、いつもクセの強いサンプルを使うことが多い。生成したサンプルの中にはいい意味で変な物が入っているので、そういう意味では使いやすいと思った」と話すなど、“著作権に引っかからない自分からは出てこないサンプリングのネタ”という活かし方があることを教えてくれた。

 ラストを飾ったNight to Lieは「Emotional/Dark」の「Simple」を選択。「とりあえずコード進行をほぼほぼ使ってみて、自分好みの雰囲気にアレンジしていった」と語るなど、こちらはコードを活かす形での活用を見出したようだ。『FIMMIGRM™』で楽曲を生成したことについては「無限に出せるという気楽さと、思った以上にクオリティの高い物が生成されるのだと感じた」と話したうえで、「最初は手助けになってくれれば良いなと思っていたが、予想以上に自分のためになった」と、想像以上のポテンシャルに良い意味で裏切られたようだ。

 彼らの発表を受け、最後に登壇者からコメントが寄せられた。

 柴崎氏は「今回はみなさんに学びがあったのなら嬉しいが、それ以上に我々がフィードバックをうけて勉強させていただいたと思います。AIで楽曲を作る未来が来たとしても、それを作り手のインスピレーションが超えていく、切磋琢磨していくというのが音楽カルチャーのすごいところだなと感じました。音楽家の地位を向上させるという『FIMMIGRM™』の見立ては正しいのだと改めて実感したし、我々もみなさんをサポートできるように今後も頑張っていきたいです」と熱く語った。

 梶原氏は「見ていると結構早めに仕上げている方も多かった。よく『AIは音楽家の仕事を奪う』なんて言われるんですが、音楽の進化って基本的にツールの進化に紐づいているので、ピアノができて楽譜ができて、レコードができてサンプラーができて、MIDIがあってシンセサイザーができてという歴史がある。ツールが制約を生んで、制約のなかで生まれた音楽が新たな時代を生むわけです。世の中の音楽が好きな人たちが、ピアノやギターを弾けなくてもよりかっこいいものを作れると楽しい世界になるし、弾ける人たちがもっとかっこいい音楽を作れる世界になると良いなと思う」と、興奮気味に話してくれた。

 また、吉田氏は「最近のAIのトレンドとして一番効率の良い使い方は“副操縦士的に使う”ということ。そういった意味で今回は楽曲制作をする側ーー機長としてのレベルの高さも感じた。チョップや逆再生など、確かにそういう使い方もあるのか」と、驚きを隠せない様子だった。

  3月15日にはOpen AIのChatGPTで、時代を変えるといわれるレベルの処理が可能となった最新バージョン「GPT-4」がリリースされた。AIに関するテクノロジーは、2023年に入って毎日毎週のように目まぐるしく進化し続けている。今後はジェネレーティブAIのみを使った作曲ワークショップなどが開催されたり、それらを使って極端に短い時間でクリエイトする競技性・ゲーム性の高いものがあっても面白そうだ。この分野はまだまだ作り手を進化させ、これまで埋もれていた才能が日の目を見る余地を残している。そんなことを、帰路につきながら考えるのだった。

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