メタバースやWeb3の定着に向けた大きな一歩となるか 『αU』の挑戦に感じる「日常的であたらしい経済圏」の可能性

『αU』は「日常的であたらしい経済圏」に?

 コロナ禍であらゆるエンターテインメントがオンライン上で代替され、新たな熱狂を起こしたことは記憶に新しい。

 そんななか、2022年は規制緩和にともない、リアルの場に適したものは元の場所へと帰り、オンラインには“メタバースならでは”の体験が残った。さらに、誰もがクリエイターになれる時代に個人クリエイターや個々の権利を最大化するWeb3のトレンドも相まって、企業や個人クリエイターが主導する新しいエンターテインメントが、“リアル×メタバース”を最適な形として、いよいよ定着しつつあるように感じる。

 そして2023年、企業主導のメタバース・Web3プロジェクトのなかでは圧倒的な規模感・クオリティといえるメタバース・Web3サービスプラットフォームがスタートした。それが『αU(アルファユー)』だ。

 『αU』は、現実と仮想を軽やかに行き来する新しい世代に寄り添い、誰もがクリエイターになりうる世界に向けたメタバース・Web3サービス。都市連動型メタバース「バーチャル渋谷」やリアルとバーチャル空間が連動する「デジタルツイン渋谷」など、5G通信とAR・MR技術を活用した都市体験の拡張に取り組んできたKDDIが、これまでの知見や技術力を活かして実現させたもの。サービスはメタバースでエンタメ体験や友人との会話を楽しめる「αU metaverse」、360度自由視点の高精細な音楽ライブを楽しめる「αU live」、デジタルアート作品などの購入ができる「αU market」、暗号資産を管理できる「αU wallet」、実店舗と連動したバーチャル店舗でショッピングができる「αU place」と多岐にわたる。

 筆者もプロジェクトの発表時には「いよいよか……!」と興奮を覚えたものの、あまりに大きな構想のため“絵に描いた餅”にならないかという不安が頭をよぎっていた。しかし、3月中旬に開催された『αU spring week 2023』を見たことで、その心配は杞憂だったと思わされた。

 同イベントでは、東京渋谷にあるHz-Shibuyaを拠点に、特別展示「αU apartment」を開催。会場内ではいま注目のアーティスト・クリエイター・インフルエンサーがコラボレーションした「マイルーム」を公開し、イベント期間中には5日間連続でパーティが開催された。毎日、異なる世界観が楽しめるこのパーティでは、トークや音楽ライブに加え、生配信やミート&グリートなども実施。バーチャルでも同様に、アーティストやクリエイターたちの展示やイベントを開催するなど、参加したファンたちが「リアルでしか体験できないこと」と「バーチャルでしか体験できないこと」をそれぞれ楽しむことができた。

 参加したアーティスト・クリエイター・インフルエンサーも、リアル会場ではとうあ・吉田凜音・ロイ・Miyu・bala、バーチャル会場では獅子神レオナ・bala・水曜日のカンパネラがそれぞれパフォーマンス。イベントスペースのBE:FIRST、花譜、水曜日のカンパネラ、とうあ、balaのクリエイティブにちなんだ展示も盛況だったし、Z世代が注目するイラストレーター、雪下まゆ・ヨシフクホノカ・バウエルジゼル愛華がαUのコンセプトである「もう、ひとつの世界。」をテーマに描き下ろした作品が展示されるなど、カルチャーへの向き合い方は良い意味で“企業主導”っぽさがなく、むしろ新たなカルチャーの担い手をフックアップする意気さえ感じたことで、プロジェクト全体への期待は高まるばかりだった。

 イベントの場では、各サービスについてその一端を体験できる場も用意されていた。そこでの体験なども踏まえ、ここからは一つひとつのサービスについて分析していきたいと思う。

 まずは360度自由視点の高精細な音楽ライブを楽しめる「αU live」について。こちらは高精細なバーチャル空間に再現されたライブ会場内で、自分の好きな角度や距離でアーティストのパフォーマンスを鑑賞することができるというもの。サービスは今夏から提供開始予定だが、今回のイベントでは正式提供に先駆けて「BE:FIRST」「花譜」「bala」とのコラボが行われた。いわゆる“タテ型”のライブ配信サービスなのだが、アーティストを正面から見るだけでなく、周囲の空間を楽しんだり、グループのパフォーマンスでは一人に焦点を当てて見ることもできる。アーティスト側の演出に拠るところもあるが、演出次第ではこれまでにない体験をユーザーにもっと提供することが可能だろう。

 メタバースでエンタメ体験や友人との会話を楽しめる「αU metaverse」は、このプロジェクトの目玉ともいえるだろう。先述した「バーチャル渋谷」はどちらかといえばイベントを楽しむための“ハレの場”としての要素が強かったが、「αU metaverse」はアバターのカスタマイズ幅のバリエーションや日常的な使い心地を重視したと思われる部屋や家具に関する自由度の高さなど、日常的な使用を想定した設計のように感じた。没入度の高いHMDを使う前提のVRメタバースよりも、スマホをメインとして使うメタバースとして考えると、こうした“ライトなメタバース”の普及はカルチャーの定着において重要だと考えているし、アーティストコラボのアイテムなども展開されるなど、あたらしい経済圏の普及にも一役買いそうだ。

 あたらしい経済圏を支えるサービスも盤石だ。“クリエイターファースト”を掲げ、クリエイターやアーティスト、そして彼らのファンに還元することを目的にNFT商品を多数取り揃えている「αU market」は、3月7日から3月31日まで、国内最大級のファッションとデザインの祭典『東京クリエイティブサロン2023』とコラボレーションを実施中。「アキコアオキ(AKIKOAOKI)」、「ヘヴン タヌディレージャ アントワープ(HEAVEN TANUDIREDJA ANTWERP)」、「ケイスケ ヨシダ(KEISUKEYOSHIDA)」、「ミューラル(MURRAL)」、「スリー トレジャーズ(THREETREASURES)」「ヨウヘイオオノ(YOHEI OHNO)」など、昨今国内外で注目を集める新進気鋭のデザイナーが名を連ねる「Designer's NFT」を販売しており、対象のNFT購入者には、NFTが証明となるファッションショーへの招待権を受け取ることができる。

 それらを活用するのに欠かせないのは、ブロックチェーンやNFTなどを管理するための暗号資産ウォレット「αU Wallet」だ。購入したNFTは自動的にPolygonブロックチェーンに対応し管理され、MATIC(マティック※polygonブロックチェーンで流通する暗号資産の呼称)の送金・入金も可能となる。さらに今年上半期中にはイーサリアムなど、複数のブロックチェーンへ対応予定だという。

 ここ数年間、多くの国内事業者が「Web3」に参入してきたが、いわゆる「プライベートチェーン」と呼ばれるクローズド(≒自社内で管理可能な)な参画など、一部の技術提供にとどまってきた印象がある。しかし、今回の「αU Wallet」は先述したようにオープンチェーンとの接続を前提にローンチされており、いち通信事業者のサービスにとどまらない広がりを期待させる。広がりといえば、法定通貨である日本円でNFTを購入できる点も画期的であり、バックアップ機能やフィルタリング機能で暗号資産のハッキングを防止するなど、ハードルの低さも魅力的だ。

 また、「αU market」もPolygonブロックチェーンに対応しており、今回のイベントでは渋谷エリアの飲食店と国内有数のNFTプロジェクト「SoudanNFT」がコラボしたNFTが販売された。このNFTを渋谷の対象店舗に持っていくと、NFTの購入額分の割引を受けることができるなど、リアルな空間との相互連携も魅力的かつ、メリットを受けやすい施策だといえるだろう。

 リアル店舗とバーチャルなマーケットの連動でいえば、実店舗と連動したバーチャル店舗でショッピングができる「αU place」とのシナジーも抜群だ。「デジタルツイン渋谷」で培ったノウハウを活かし、アパレル店舗をバーチャル空間に再現したうえで、実際のアパレルショップ店員とビデオ通話などで双方向にコミュニケーションすることが可能に。今回のイベントでは、渋谷パルコ5Fのアパレル店舗「Lui‘s/EX/store(ルイスイーエックスストア)」をバーチャル空間に再現し、実際の店舗スタッフが遠隔で接客を行った。リアル・バーチャルのハイブリッド接客については、他サービスやイベントなどでも徐々に浸透してきている実感があり、この領域は2023年以降もますます規模を拡大していきそうだ。

 メタバースやWeb3が一般層に定着するには、どれだけそれらのサービスが“生活の一部”になれるかにかかっているといえるだろう。つまり、特別なイベントがなくても日常的に訪れたり、ふとした買い物ができたりするかどうか、ということ。筆者が『αU』を高く評価しているのは、その点を見据えたサービスの設計がなされているからである。今後もそのベクトル上でさまざまな機能追加がなされていくであろう、同プラットフォームとその周辺のカルチャーが生み出す新たなエンタメ・経済圏が楽しみだ。

■関連情報
au Design project発のNFTストア「αU dotadp」オープン

ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久収蔵品にもなっているINFOBAR(デザイン:深澤直人)や前衛芸術家・草間彌生氏とコラボした携帯電話など数々の名作を生み出してきたau Design project。2023年10月に初代INFOBAR発売から20周年を迎えるメモリアルイヤーにau Design project発のNFTストア「αU dotadp(アルファユー ドットエーディピー)」をオープンした。デザイン、アート分野に特化したNFTを取り扱い、Web3 / AI/ メタバース時代にふさわしい新たなデザイン・アートシーンの創造を目指す。第1弾として、初代INFOBARのプロトタイプ「info.bar」を3DCGで蘇らせたNFTコレクションや、初代INFOBARが可愛いピクセルアートになった「インフォバーフレンズ」を発売。また、Z世代から支持されるアーティスト雪下まゆ氏、ヨシフクホノカ氏、バウエルジゼル愛華氏初となるNFTコレクションをリリースした。

αU dotadp:https://dotadp.alpha-u.io

■関連リンク
『αU』:https://alpha-u.io/
「αU Market(アルファユーマーケット)」:https://market.alpha-u.io/
「αU Wallet(アルファユーウォレット)」:https://web.wallet.alpha-u.io/static/guide/beginner.html

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