KDDI、なぜクリエイティブチームを発足? 水田修氏に聞く“未来へ向けた5つのテーマと社会貢献”

KDDI“クリエイティブチーム”発足の理由

 KDDI株式会社が3月10日、先端テクノロジーとアイデアによって、ユーザーに数年先の未来の体験を提供するクリエイティブチーム「au VISION STUDIO」を発足した。

 「au VISION STUDIO」では、5GやXRといった技術に加え、これまでの施策で得た知見をもとに、ものづくりのプロである社外のクリエイターともコラボレーション。新たな体験を企画・制作していく。第一弾として発表された、「5G MEC」(ユーザーに近いモバイルネットワーク内でデータ処理などをする技術)を活用したバーチャルヒューマン「coh(コウ)」が話題になったが、これはあくまで一部にすぎない。

 「au VISION STUDIO」が掲げるのは「アンリミテッドな鑑賞体験」「ゼロ・ディスタンスな世界」「五感を拡張するUX」「人と地球にやさしいショッピング」「バーチャルヒューマンの日常化」という5つのテーマ。これらを通してKDDIが伝えたいこと、描きたい未来とは? 同プロジェクトのキーパーソンであるKDDI株式会社の水田修氏に聞いた。(編集部)

「あったらいいなと思えるモノは、結局社会にとってニーズがあるもの」

KDDI株式会社の水田修氏
KDDI株式会社の水田修氏

ーー「au VISION STUDIO」は、水田さんを中心に発足したそうですね。まずは何を目的として立ち上げたプロジェクトなのか伺えますか。

水田:一言でいえば「今までKDDIが行なってきた5G・XRの取り組みの延長線上」にあるプロジェクトです。2019年の5Gプレサービスのタイミングで、KDDIとしてはその技術を広く知ってもらうこと、一般のお客様にそれをワクワクするものとして伝えることがミッションでした。

 5Gが導入されることで、われわれの生活にどんな変化があり、どんなことができるようになるのかということに興味を持ってくださるパートナーさんはおられたものの、具体的に「こういうことがしたい」という要望がすぐに出てきたわけではなかったんです。

 そのような背景から、例えば、渋谷区における取り組みの場合はまずは区が抱える都市課題をしっかりと把握した上で、一緒に「未来のインバウンドの在り方」というビジョンの着想から企画制作、PRまでチームの中で一気通貫でやってきたんです。

その結果、位置情報にあわせて音楽を配信したり、街の中にARのサインや情報を出すような施策を実現してきました。

 振り返ってみると、かなり沢山のことをやってきましたが、通信会社では珍しい“モノ作りまでやりきる”プロジェクトに取り組んできたことで、企画をするスキルを持った人が育つなど、人材育成面での成果も出始めています。このように、他社キャリアさんとは違うアプローチで培ってきたマインドを活かして、5Gを活用して具体的に自らがクリエイティブ制作をしたり、クリエイターの方たち向けのサポートを行なっていくーーそういう意志を組織として表明する意味も含めて「au VISION STUDIO」というチーム名を付けさせて頂きました。

ーーステイトメントには"テクノロジーとアイデアを駆使して3年後のあたりまえを創るクリエイティブチーム"とありますが、ここで"3年後"というワードを出した理由は?

水田:現在、KDDIでは2030年を見据えた次世代社会構想「KDDI Accelerate 5.0」を発表しており、これは「ICT(情報通信技術)による社会変革を進めるのに必要な技術と取組み」というものになります。またKDDIには「KDDI DIGITAL GATE」という法人企業の課題解決に取り組むための施設もあります。

 ただ、もうちょっと身近に、一般のお客様が5Gが広まった後の世界で「こんなことが常識になってたらいいな」と思えるようなものをこちらからお見せしたり体験頂くことで期待を持って頂けることが、これまでの取り組みの延長線上で重要なことだろうと。その意味で、「au VISION STUDIO」では、遠すぎることなく、近すぎることのないバランスもあり"3年後"としました。

ーー「au VISION STUDIO」では社会貢献に取り組むこともミッションに掲げていますね。

水田:あったらいいなと思えるモノを作ることは、結局、社会にとってニーズがあるものを作るということだと考えています。取り組みテーマを考えるにあたりSDGs(持続可能な開発目標)に関係する取り組みに自ずとなっていったこともあり、言葉として掲げた方が役割がはっきりするだろうという議論にもなったことから「社会貢献」という言葉を掲げています。

ーー 現在は、どんなメンバー構成でプロジェクトを進めているのでしょうか? 

水田:実態としては、プロジェクトベースでクリエイティビティを発揮できる人、その分野に対する課題に造詣が深い人、XRや5Gのテクノロジーに長けたスペシャリストをその都度アサインする形で進めています。また、まずは自部門にはおよそ30名のポテンシャルを持ったスタッフがいますが、最終的には部門をまたがった形で取り組みができるようにしていきたいと考えています。

ーー「au VISION STUDIO」では5つの大きなテーマを掲げられています。その中のひとつの「五感を拡張するUX」とはどういったものを指すのでしょうか? 

水田:現在、実施していることで言えば、スマートグラスを用いた体験が"視覚を拡張するもの"にあたります。何か環境音を聴きながら、そこに音を足してしていく「音のAR」と言われてるような発想に関しては、”聴覚を拡張するもの”として、以前、渋谷で「Audio Scape」施策で展開させていただきました。

 これは街の中に溶け込む音の在り方を考えるような形での取り組みだったので、デバイス自体に特にこだわりを持つというよりも、「五感を拡張する」こと自体が体験価値の向上に直結していくというものでした。他にも渋谷の街をARのコンテンツで彩るものは、街の景観を守りながら新しい価値を提供するということにも効果を発揮します。

 本質的には、新しくサイネージやサインを作ることより、今の景観を守ることが長期的には大事なことだったりすると思います。そういったサスティナブルな取り組みとして、本来は“フィジカルで作る必要がないが、情報としては必要なもの”は、デジタルのレイヤーに乗せていくような取り組みに繋げていくことがこのテーマの中での“3年後のイメージ”だったりします。

ーー2つ目のテーマ「バーチャルヒューマンの日常化」については、KDDIでは、先日の日本科学未来館での展示「HYPER LANDSCAPE」でもバーチャルヒューマン「coh」をナビゲーターとして活用されていましたね。 

水田:KDDIは携帯電話や固定回線など通信を使って、人と人のコミュニケーションを繋いでいく役割を担う“コミュニケーションカンパニー”だと思っています。スマートフォンは万人に向けたコミュニケーションツールとして普及している一方で、シニアになってからスマートフォンを使い始める方の中には、今から使い方を勉強して使いこなすのはなかなか難しい部分もあると感じています。でも、本来はそういった人たちこそ、テクノロジーが使えた方が生活がより豊かになるはずなんです。

 そう考えると1番簡単で学習コストがかからないコミュニケーション方法は、やっぱり人とのやりとりそのものではないかと考えています。バーチャルヒューマンのように人間の姿をしていて、生身の人間と同じようにリアクションしてくれる方が話しかけやすく、物事も伝わりやすいはずですではないかと。だから、今は技術的に写実的な人間をCGで描き出すことができるので、そこに人間の脳にあたるAIを搭載して、その進化を進めていくことができれば、万人に対して相対することができる新しいインターフェイスとしてバーチャルヒューマンが立ち振る舞うことができるはずだと考えました。

ーー日本も今後は超高齢化社会を迎えると言われているので、デジタルデバイドを解消するためのツールとしてのバーチャルヒューマンを求める声は今後さらに高まっていきそうですね。

水田:生身の人間には表情で相手の感情を読み取るような、言葉じゃなくても伝わるコミュケーションがありますが、将来、感情を理解したトータルでのコミュニケーションをとれるようになることを考えた場合、相手が人間の姿をしているほうがより感情を伝えやすいはずです。

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