新章『悪魔城ドラキュラ』ーー『宿命の魔鏡』から発売10年を迎えて認識させられた『メトロイド』に受け継がれしアクションゲームを貫く姿勢
2021年にNintendo Switch向けに発売され、国内外から高い評価を獲得した探索型アクションゲーム『メトロイド ドレッド』。その開発を担ったのが、スペイン・マドリードに拠点を置くゲーム開発スタジオ〈MercurySteam(マーキュリースチーム)〉だ。
マーキュリースチームは、2017年にニンテンドー3DS向けに発売された『メトロイド サムスリターンズ』で初めて『メトロイド』シリーズの開発に参加。すると、その手腕が任天堂からも高く評価され、『メトロイド ドレッド』への開発に繋がったという経緯がある。
そんなマーキュリースチームは2023年現在、世界的にも非常に珍しい経歴を持つゲーム開発スタジオとなった。探索型アクションゲームの代名詞たる『メトロイド』、『悪魔城ドラキュラ(キャッスルヴァニア)』双方のシリーズ新作開発に携わったという実績を残したからだ。さらには『悪魔城ドラキュラ』でも、彼らは成功を収めている。
マーキュリースチームの手がけた『悪魔城ドラキュラ』は、『Castlevania -Lords of Shadow-(キャッスルヴァニア ロード オブ シャドウ)』(以下、ロード オブ シャドウ)の名で2010年に発売。その後、『ロード オブ シャドウ』はシリーズ展開を見せ、続編となる『Castlevania - Lords of Shadow(キャッスルヴァニア ロード オブ シャドウ) - 宿命の魔鏡(さだめのまきょう)』(以下、宿命の魔鏡)がニンテンドー3DS向けに発売された。
最初の『ロード オブ シャドウ』は3Dのアクションアドベンチャーゲームで、続く『宿命の魔鏡』は横スクロールの探索型アクションゲームとして登場した。
2023年現在で『宿命の魔鏡』は、後の『メトロイド サムスリターンズ』、『メトロイド ドレッド』の原型とも言える作品になっている。『悪魔城ドラキュラ』シリーズ全体から見ても、『宿命の魔鏡』は久方ぶりとなる横スクロールアクションの新作。しかし、こと日本においてはさほど話題にもならず、静かに埋もれていってしまった。
そもそも、『宿命の魔鏡』も含め、日本ではマーキュリースチーム開発の『悪魔城ドラキュラ』はあまり受け入れられないまま、フェードアウトしていった印象がある。逆に、海外ではシリーズ最大の成功を収めた作品として高い評価を受けた。
なぜ『ロード オブ シャドウ』は『メトロイド』の2作品と評価が異なるのか、あるいはなぜ日本と海外とで温度差が生まれたのか。その理由を紐解くためにも、ちょうど『宿命の魔鏡』の発売から10年が経ったいま、マーキュリースチームの開発した『悪魔城ドラキュラ』こと『ロード オブ シャドウ』の“異端さ”を振り返ってみたい。同時に同スタジオが『メトロイド』2作品を手がけたいま、その原型たる『宿命の魔鏡』を見るとなにが見えてくるのかもお伝えしていこう。
日本人受けしにくい作風だった新章『悪魔城ドラキュラ』
前述の通り、最初の『ロード オブ シャドウ』は2010年にPlayStation 3、Xbox 360向けのゲームソフトとして誕生した。発売は北米先行で、日本では約2ヶ月遅れの12月16日にお目見えしている。
ストーリーは「燈光教団(とうこうきょうだん)」の戦士ガブリエル・ベルモンドが、邪悪な呪いで闇に覆われた世界を旅していくというもの。世界観と設定はそれまでの『悪魔城ドラキュラ』からリセットされており、過去のどのシリーズとも関連を持たない新作になっている、いわゆる“リブート作品”である。
日本語版は『メタルギア』シリーズなどで知られた小島秀夫氏率いる「小島プロダクション」が監修として参加。そのため、12月16日の発売前には積極的なプロモーションが展開されたほか、ローカライズにも並々ならぬ力が注がれた。
とりわけボイスキャスティングは印象的で、主人公のガブリエル・ベルモンド役にいまは亡き声優の藤原啓治氏を起用。脇を固めるキャラクターたちにも麦人、井上喜久子、大塚明夫、銀河万丈(敬称略)といった『メタルギア』シリーズでお馴染みのベテラン勢を多数起用し、セールスポイントのひとつとしてもクローズアップされた。ちなみに、小島プロダクションを率いた小島氏(現:コジマプロダクション代表)も端役で出演している。
ゲーム本編の内容も、それまでの横スクロールとは異なる、『ゴッド・オブ・ウォー』や『デビル・メイ・クライ』を想起させる3Dアクションアドベンチャーでありながら、鎖の鞭が仕込まれた「バトルクロス」と副装備の「サブウェポン」を駆使する戦闘スタイルは『悪魔城ドラキュラ』の伝統を踏襲。ゲームの進行も、シリーズの原点であるステージクリア型に回帰しており、そこに謎解き、成長といった探索型由来の要素などシステムにアレンジを加えたゲームデザインが図られている。
発売前の積極的な宣伝、『メタルギア』シリーズでお馴染みの声優陣起用など、話題性に富んだ日本語版『ロード オブ シャドウ』。しかし、発売から一定期間が経つころには国内における新品の市場価格が1000円以下にまで値崩れ。売上も地味で、100万本を達成した海外市場とは温度差の大きい結果になった。
これが響いたためか、海外で展開された、追加ストーリーが楽しめるダウンロードコンテンツは国内では未配信。続く『宿命の魔鏡』、直系の続編『悪魔城ドラキュラ ロード オブ シャドウ2』(以下、ロード オブ シャドウ2)の2作では小島プロダクションが監修から外れ、日本語版のローカライズはテキスト周りの翻訳に留められる小規模なものになった。
こうしてみると、日本では『ロード オブ シャドウ』がまるで受け入れられなかったことを物語る変遷である。作品の名誉のためにも伝えておくが、『ロード オブ シャドウ』自体の出来は決して悪くはない。25時間を超える大ボリューム、『悪魔城ドラキュラ』の原点ともいえる鞭の長さと敵との位置関係を意識しながら立ち回る戦闘、それまでのシリーズにはないファンタジー色の濃い世界観は異彩を放っている。豪華声優陣による演技も素晴らしく、とりわけ「ゾべック」を演じる麦人氏による膨大なモノローグは一見の価値ありだ。
ただ、『悪魔城ドラキュラ』の新作としては“異端”だった。
そもそもリブート作品ゆえ、過去作との違いが出るのは必然だ。だが、いかにも洋ゲーらしいキャラクターデザイン、鮮烈な暴力・出血描写とそれに伴う血なまぐささなど、全体的にこれまでの『悪魔場ドラキュラ』にも増して日本人受けしにくい作風になっていた。また、こうした作風に改められたのに伴い、『悪魔城ドラキュラ』の代名詞ともいえる音楽、俗に言う“ドラキュラサウンド”も雰囲気重視の楽曲に路線を変更。これにより、キャッチーな音楽をバックにアクションを楽しむ魅力は薄れ、曲も印象に残りにくくなっている。
作風の変化を踏まえれば、楽曲の路線を変えるのは妥当で、逆にこれまで通りではミスマッチを起こしていた可能性も考えられた。ただ、その反動で“洋ゲー”感が強まり、それまでの“ドラキュラサウンド”を楽しんできたプレイヤーにも、大きな違和感を与えるものになってしまっている。“ドラキュラサウンド”はシリーズの始祖たるステージクリア型、人気の探索型から3Dアクション、対戦型といった異色系でも変わることなく継承されてきた特徴である。それを無くせば、“ドラキュラらしさ”が薄まってしまうのは避けられない。
元々、『悪魔城ドラキュラ』のシリーズとしての存続、新しい流れを作るためには『ロード オブ シャドウ』における“変える試み”自体は良かったと、探索型の『悪魔城ドラキュラ』シリーズに携わってきた「IGA」こと五十嵐孝司氏は後年、インタビューで回答している。
しかし、「さすがに変えすぎでは?」というのが、最初の『ロード オブ シャドウ』を遊んだ時に感じた筆者の率直な感想だ。特に“ドラキュラサウンド”にまでメスを入れたのは、後年も作品が語り継がれていくことを考えると、マイナスだったようにも思う。“ドラキュラサウンド”は、『悪魔城ドラキュラ』を遊んだことがない人にも高い関心を誘うことができる、作品屈指のサブウェポンだ。そこが多少なりとも残っていれば、日本人受けしやすさが出て、作品が再び注目される可能性も出たのでは……と思うのである。
とはいえ、それでも最初の『ロード オブ シャドウ』には、豪華声優陣の出演という日本人受けしやすい魅力があったことは確かだ。2023年現在では、故・藤原啓治氏が主演を務めたゲームとしての価値も高まっている。