ゲーム体験の「驚き」を求め続けた歴代メトロイドの「恐怖」と、最新作『メトロイド ドレッド』が見せたその極致

歴代メトロイドに宿る「恐怖」

 今回のメトロイドは「恐怖」がテーマである。

 はて? メトロイドに「恐怖」は付きものではなかったか?

 シリーズ最新作『メトロイド ドレッド』のテーマが紹介されたとき、筆者はそんな疑問を抱いた。

 1986年、任天堂よりファミリーコンピュータディスクシステム用ゲームソフトとして発売され、2021年には生誕35周年を迎えた探索型アクションゲームの『メトロイド』。そんな記念すべき年に最新作『メトロイド ドレッド』は発売された。

メトロイド ドレッド 紹介映像

 「ドレッド(Dread)」の名が表す通り、今回のテーマは恐怖。

 「E.M.M.I.(エミー)」と称された、主人公サムス・アラン(サムス)の命をいとも簡単に奪い去る最凶の敵の追撃を避けながら、舞台となる「惑星ZDR」地下に広がる巨大な地下迷宮を探索していく内容を最大の特色としている。

 こうしたことから、2021年9月下旬の「Nintendo Direct 2021.9.24」の放送では、「恐怖の探索アクション」というコピーも付けられた。しかし、古くからメトロイドシリーズを追い続けている人間からすると、何を今更な思いもあった。

 繰り返しになるが、メトロイドに恐怖は付きものだったからである。

 しかし、いままでのメトロイドの恐怖とは、どのようなものだったのか。

 そもそも、どの辺りの作品から恐怖が付きものになっていったのか。

 いざ振り返ってみると、そこには「驚き」のために恐怖を尊重し続ける歴史が隠されていた。

ゲーム体験の「驚き」のために『メトロイド』に「恐怖」は存在した

 元々、『メトロイド』は“任天堂らしくない”ゲームでもある。

 世界観は映画『エイリアン』のようなSFホラー調で暗め。敵として現れるキャラクターたちも浮遊生命体「メトロイド」を始め、総じて可愛さのかけらもない凶悪な容姿。そんな怪物たちの巣食う地下迷宮に、主人公のサムスがただひとり挑むという設定も孤独感を際立たせていて、プレイヤーに心細い気持ちを喚起させる。

 そうしたマリオやゼルダのような明るさ皆無な特徴もあり、数ある任天堂のゲームの中でも異質な存在感と、不気味な雰囲気をまとったゲームになっている。

 しかし、最初の『メトロイド』の頃から恐怖が付きものだったのかと言われれば際どい。確かにサムスにまとわりつく「メトロイド」の恐ろしさ、エレベーターで次のエリアへと降りる際に発生するロード時間及びその一瞬の静寂など、ゾクッとさせる要素は本編にいくつか存在した。ただ、初代は耳に残る音楽をバックに地下迷宮を進む、アクションゲームらしい勇ましさと臨場感を描いた場面も相応にあったため、まだ恐怖のゲームというには程遠かった印象だ。異様に入り組んだ迷宮内の構造、敵の凶悪な攻撃などから、難易度的に恐怖のゲームだったことは否定しないが。

 明確に恐怖が強調されるようになったのは、『メトロイドII RETURN OF SAMUS』(1992年、ゲームボーイ、以下メトロイドII)からだろう。

 この作品では「惑星SR388」の地下空間に生息する「メトロイド」たちを1匹残らず全滅させるという、前作とはやや趣の異なるゲームデザインが図られた内容になっている。

 この「メトロイド」との遭遇はまさに恐怖そのものだった。何の気なしにマップを歩んでいた最中、突如現れて戦闘が始まるのだ。

 とりわけゲーム開始早々に出会う最初の1匹はその傾向が強く、プレイ経験のある人の中には、ゲームボーイ本体を衝動的に手放してしまうほど驚いた思い出があるかもしれない。しかも、遭遇した時には「デデデーン!」という強烈なイントロ曲が流れるのだ。嫌でもドキッとさせられるし、マズいものに出会ったという焦りの気持ちが湧きあがる。

 また、ゲーム本編も地下深くに進むにつれ、音楽も電子音が微かに鳴り響くだけの静寂な楽曲へと変わっていく。それがまた地下空間の不気味さを際立たせると同時に、メトロイドと遭遇した時の衝撃性を3割増しに高めている。

 恐怖という名の「驚き」を通し、ゲーム体験を一層強烈なものにする。『メトロイドII』はそのような意図がメトロイドとの遭遇と戦闘に強く現れており、実際に様々な意味で記憶に深く刻み込まれる名作に完成されていた。トラウマにもなり得る側面があったことから、思い返すだけでもゾッとするゲームとの認識を持つ人も少なくはないはずである。

 これ以降のメトロイドも、そんな「驚き」のために恐怖の表現が強調されていくようになった。『メトロイドII』の続編、『スーパーメトロイド』(1994年、スーパーファミコン)であれば、オープニングの「スペースコロニー」最深部で突然始まる宿敵リドリーとの戦闘、あるアイテムを手に入れると同時にサムスに牙を剥く鳥人像、亡霊に支配された「難破船」がその象徴だろう。『メトロイドII』よりもドキッとする場面こそ減っているが、より美しくなった映像と音楽も相まって、元からある不気味な雰囲気は一層深みを増した。また、本編の終盤に巨大なメトロイドに襲撃されるイベントを経てのクライマックスは、恐怖と感動が入り混じるシリーズ屈指の名シーンになっている。

 そこから約9年の空白を経て発売された『メトロイド フュージョン』(国内では2003年、ゲームボーイアドバンス)では、『メトロイドII』に匹敵する「驚き」をもたらす恐怖として、最強状態のサムスに擬態した敵「SA-X」が登場した。彼の者に追いかけられたり、対峙する場面は「鬼ごっこ」に近いスリルがあり、経験者の中には血の気が引く思いをした人は少なくはないだろう。

 この「SA-X」を通して描かれた恐怖は、初代『メトロイド』のリメイク『メトロイド ゼロミッション』(2004年、ゲームボーイアドバンス)にも形を変えて引き継がれている。さらに同作では原作にはないボスが突然現れ、戦闘に突入するイベントも複数追加され、原作にはなかった驚きが味わえる作りへと進歩している。

 シリーズ全体の本編に当たる横スクロールばかりではない。3Dの1人称視点が特徴の『メトロイドプライム』でも、驚きのために恐怖の表現は用いられている。メトロイド(ターロンメトロイド)がこちらにガッツリとくっ付き、視界が阻まれる演出はその象徴だ。

 さらに横スクロールと3Dスクロールを融合させた作りと、ストーリー性の濃さが特徴の『METROID Other M(メトロイド アザーエム)』(2010年、Wii)でも、サムスとその仲間たちを見えない所から狙う謎の暗殺者という、ミステリーチックな恐怖が描かれた。突如、視点が変化し、音楽が流れなくなるという空気を制御する演出の数々が多用されているのもそのひとつだ。

 そして、初お披露目の時に物議を醸したシリーズきっての異色作『メトロイドプライム フェデレーションフォース』(2016年、ニンテンドー3DS)に至っては、非力な一兵士たちが危険な任務に挑むという設定そのものが恐怖になっている。

 限られた武装を駆使して凶悪かつ巨大なボスと戦う場面はその極致であり、主人公がサムスではないからこそ味わえる魅力と驚きが詰まっている。

 こうして振り返ると、メトロイドはゲーム体験の「驚き」を際立たせる意図で恐怖が用いられ、作品ごとの方向性に沿って表現されてきたことが分かる。常に手を変え、品を変える進化と発展を繰り返してきたこともまた然りだ。

 そのような「驚き」のための恐怖を主要なテーマに掲げた、今回の『メトロイド ドレッド』。なぜ今回は前面に出したのか、実際にゲームクリアまでプレイして分かったのは、シリーズ最大級の「驚き」が詰まったメトロイドを目指すという確固たるこだわりだった。

 同時に一連の歴史の集大成を感じさせられるものにもなっていたのである。

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