成功したらMCUを超える巨大ユニバースになるかも……DCコミックス映画のゲームを含んだユニバース化に考える「アメコミとゲームの関係性」
2023年2月1日、DCコミックスの映像制作を専門に行う会社「DC Studio」が、今後のDC作品の映像化計画を発表した。2016年から続いてきた映画ユニバース「DCエクステンデッドユニバース(以下、DCEU)」はリセットされ、映画監督であり「DC Studio」の共同CEOであるジェームズ・ガンが牽引する新たなユニバース、通称「DCU」を2025年からスタート、手始めにチャプター1「神々と怪物たち(原題: Gods and Monsters)」として『スーパーマン』、『バットマン』をはじめとする映画とドラマ、合計10作品をリリースすると予告した。
さらにジェームズ・ガンはTwitterにて「DCUは映画とテレビ(とアニメーション)にまたがって繋がる」と発言、その後ファンから送られた「DCUはゲームとも繋がる予定はありますか?」というリプライに対して「はい」と答えた。
Yes.
— James Gunn (@JamesGunn) November 27, 2022
このことから、DCUは映画だけのユニバースであったDCEUから一転、映画、ドラマを展開した後、その物語が、アニメーション、ゲームにまで繋がっていくという構想を計画していることがわかっている。もしこれが実現できたのならば、「Marvel Studios」が展開するユニバース「マーベル・シネマティック・ユニバース(以下、MCU)」を超えるのではないか?と予測される。
ゲームを含んだユニバース化への懸念と、MCUとゲームの関係性
だが、映像作品だけでなく、ゲームまで含んだ作品のユニバース化は可能なのだろうか?もし、映画の内容やキャストをゲームに持っていくとなると、予算、開発期間の面でも大きな負担がかかることは間違いないだろう。『Marvel's Midnight Suns』を手掛けたFiraxis Gamesのデザイナー、ジェイク・ソロモンはこの計画に対して「そのような考えがもし『Midnight Suns』に来ていたら、悪夢のような展開になったはずだ。その願望は理解できるが、映画とゲームはまったく異なると思う。それに、ゲーム業界の素晴らしい声優たちにプレッシャーを与えることとなる。映画とゲーム、両者は違うユニバースであるべきだし、あり続けるべきだ」と発言している。
This would have been a nightmare for us on Midnight Suns. I understand the desire (I think) but movies and games are so, so different. And the pressure this puts on the amazing voice actors in the games space? Different universes. And that’s how they should/will stay. https://t.co/grKQGkhCsl
— Jake Solomon (@SolomonJake) February 1, 2023
現にMARVELは2009年に自社コンテンツのゲームを取り扱う子会社「MARVEL Games」を設立し、Insomniac Gamesや、Firaxis Gamesなどと協力したゲーム開発を行い、成功を収めているが、MCUとの繋がりはなく、完全にオリジナルの世界観を描いている。だが筆者は、MARVELが必ずしも映画とゲームを完全に分離させているわけではないと考える。
「MARVEL Games」が近年リリースした作品で最も代表的なのが『Marvel’s Spider-Man』だが、本作が制作されていることが世間に初お披露目されたのが、2016年。2016年のMCUといえば、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』にて、MCU版スパイダーマンが初めて登場した年となる。スパイダーマンといえばマーベル作品の中で最も認知度が高いヒーローの1人で、もちろんMCUへのスパイダーマンの登場は世間でも大きく注目を集めた出来事だ。MARVELはそれに合わせて本作の制作発表をし、世間の注目を一気に集めることに成功したのだ。
その2年後である2018年に、『Marvel’s Spider-Man』は発売され、前年である2017年には、MCUでスパイダーマンの単独映画『スパイダーマン:ホームカミング』公開されており、世間の期待度を高く維持したまま、本作が遊ばれることとなった。結果、その期待に応えた本作は大成功し、過去15年間に発売されたスーパーヒーローゲームの中で最も売れたゲームになった。(米市場調査会社NPD調べ)
It's time for #ComicCon2019!
Video Games are a huge part of the Comic landscape.
Below are the lifetime sales leaders for Superhero Video Games from The NPD Group.
Congratulations to Marvel's Spider-Man, the best-selling Superhero Video Game of all-time in the U.S.! pic.twitter.com/2MF3jObYpH
— Mat Piscatella (@MatPiscatella) July 18, 2019
『Marvel’s Spider-Man』と映画のリンクはそれだけではない。本作に登場するマイルズ・モラレスは、コミックファンの間では初のアフリカ系アメリカ人スパイダーマンとして有名なキャラクターであったが、一般的な認知はあまり高くはなかった。だが、2019年公開のアニメ映画『スパイダーマン:スパイダーバース』の主人公として登場すると、一躍世間の認知を上げることとなる。本作は公開以前から、マイルズを登場させ、準主人公のような立ち位置にすることで、重要なキャラクターとしてゲームで活躍させることに成功させたのだ。続く2020年にはマイルズを主人公としたスピンオフ『Spider-Man Miles Morales』を発売し、その知名度を更に上げていった。
2022年には『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』が大ヒットし、2023年には『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』が公開されるという、いま最も映画界でスパイダーマンが盛り上がっているタイミングで、2023年に『Marvel’s Spider-Man2』が発売されることとなった。このように一連の流れを振り返ってみると、映画とゲーム作品に直接的な関わりはないものの、映画で注目を浴びたタイミングにリリースをあわせ、「スパイダーマン」というコンテンツを両側から一緒に盛り上げていることがわかる。
現在、“マルチバース”をテーマにし、とてつもなく大きい世界観を表現しているMCUは、ゲームでも幅広いキャラクターを利用したゲームづくりを行っている。たとえば前述した『Marvel’s MidNight Suns』では、主人公と行動を共にする2つのヒーローチーム、「アベンジャーズ」と「ミッドナイト・サンズ」が登場する。しかし、「アベンジャーズ」はアイアンマン、キャプテン・アメリカ、ドクター・ストレンジ、など主要なメンバー全員がMCU作品に登場している反面、「ミッドナイト・サンズ」は、マジック、ニコ・ミノル、ゴーストライダー(ロビー・レイエス)など、マーベルに携わるドラマには登場しているものの、MCU作品との強い結びつきはないメンバーで構成されている。
だが、チームでリーダーのような役割を果たしている「ブレイド」は、MCUにて映画化が決定し、マハーシャラ・アリがブレイド役を務めることも決まっている。このような事例を見ると、ほかの「ミッドナイト・サンズ」メンバーも、『スパイダーマンノーウェイ・ホーム』、『シー・ハルク:ザ・アトーニー』に登場したドラマ版デアデビルのように、MCU直系の作品で再登場する可能性は高いだろう。実際、ニコ・ミノルの英語版声優は、ドラマ「ランナウェイズ」で演じた岡野りりか本人が務めていることから、MCUとの関連性も意識していると思われる。
マルチバースというテーマは、幅広いキャラクターを登場させられる。しかし、『Marvel’s MidNight Suns』はすでに映像作品に出ているキャラクターや今後映画が作られるキャラクターを丁寧にピックアップしており、MCUのおかげで本作の世界観が理解しやすいのと同時に、「スパイダーマン」の事例のように今後の映像作品に本作で広げた認知を還元されやすい状態を作っている。