“アメコミ映画の伝道師”が綴る『BATMAN 葬られた真実』の注目ポイント 音声ならではの体験と、ファン必聴の仕掛けとは……?

アメコミ識者が紐解く『BATMAN 葬られた真実』

 『BATMAN 葬られた真実』は、世界9言語で同時制作のSpotifyオリジナルオーディオシリーズ。Spotifyが独占配信する音声ドラマです。

 今後SpotifyはDCコミック(『バットマン』、『スーパーマン』、『ワンダーウーマン』陣営)と組んで、DCヒーローのオーディオドラマをグローバル展開で発表していくようです。『BATMAN 葬られた真実』はその第一弾。

 なお、この日本語版はニッポン放送さんが手掛けており、声をあてる俳優陣も豪華!

 コミックというのはもともと視覚的なエンタテインメントですが、実はアメコミ・ヒーロー物はラジオでドラマ化されたり、音声ドラマを収録したレコードが発売されたりと、聴いて楽しむコンテンツとしても歴史はあるのです。今回はSpotifyという人気の音声メディアが“バットマン伝説”にチャレンジしました。

 結論から言うと大変見ごたえ、いや聴きごたえのあるドラマで、5月3日からの配信開始の際は、毎週の配信がとても楽しみでした。まさに連続ドラマの醍醐味です。現在はすでに全10話が配信済みなので、まとめて聴くこともできます。

 というのも、僕らの知っているブルース・ウェインが、検死の解剖医として登場。しかも彼の両親トーマスとマーサも生きている!そしてブルースは検死医としてハーベスターという猟奇殺人鬼を追っているなど、『バットマン』の常識がいきなり崩れていくストーリー。そして事件を解決するのはリドラーだって!?

 オーソドックスな、いわゆる“普通の”バットマンの冒険を楽しもうと思っていたら見事に裏切られました。この先、僕らの知っている『バットマン』の物語とつながってくるのか、それとも?(最初に言っておきますが“マルチバースオチ”ではありません)……個人的にはここがすごく快感でした。

 ちなみにこのドラマの製作総指揮はデヴィッド・S・ゴイヤー。アメコミ好き、アメコミ映画好きには有名なクリエイター。映画『バットマン・ビギンズ』をはじめ『ダークナイト』3部作にも関わっています。『バットマン』を知っている彼だからこそ、ちょっと気をてらって「いままでにない『バットマン』」の導入を仕掛けたのかもしれません。物語が進むにつれ『バットマン』ファンにはうれしいマニアックなネタも出てきます。視覚に頼らない分、いろいろなことを想像してしまうし、音の使い方というかサウンドの演出もすごく臨場感があって、事件現場にいるような気持ちになる。さらに意表をついた設定ゆえ、物語についていくために一つひとつのセリフをキチンと吟味する必要があるので、どっぷりSpotifyバースにハマってしまいました。

 このドラマのもう一つのポイントは、映画『ザ・バットマン』同様、ミステリー要素が強いということです。映画やTVドラマなら派手なアクション・シーンとなりますが、それがない分、予想のつかないストーリーで勝負しているのです。(ちなみに猟奇シーンは確かにビジュアルで見せられたらR指定ものなので、音声ドラマで正解かも)くりかえしになりますが声の出演が豪華。どのキャストも素晴らしいですが、岩田剛典さんのリドラーがスマートでかっこいい。この日本語版ではリドラーのことをわざとナゾラーと呼ぶ場面があります。ナゾラーというのは1960年代のTVドラマ版『バットマン』が日本で放送された時の、リドラーの呼称。『BATMAN葬られた真実』は全世界で配信されているわけですが、こういう風にその国ごとのアレンジがされているのかもしれませんね。中島美嘉さんはこのドラマの鍵を握る重要な役どころ、バーバラ・ゴードン。正しいことをするために、かなり危ないことをするキャラですが、そんな彼女の活きのよさを好演しています。松井玲奈さんの愛らしい声も魅力的ですが、彼女の正体はなんと……(聴いてのお楽しみです。笑)。もちろん、大谷亮平さんの主人公のブルース・ウェイン役もハマっています。僕の中で『バットマン』というと“大人の男”のイメージがあって、それにピッタリ。映画『ザ・バットマン』が若者バットマンの話だっただけに、こういう形で、渋いイケオジのバットマンと再会できたこともまた嬉しいのです。

 なお、米国オリジナル版ではブルース・ウェインの声を演じているのはウィンストン・デューク。この人はアフリカ系アメリカ人。つまり黒人俳優が演じるバットマンというわけです。アメコミ映画ファンには『ブラックパンサー』で主人公のライバル、のちに友人となるエムバク役と言えばおわかりでしょうか? Spotifyの場合、ほかの国の言語でも楽しめるので英語版にもトライしてみてください。

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