「耳が聞こえない夫」と「聞こえる妻」の夫婦YouTuberが感じた『silent』への"共感と違和感" 「実際には割と冷たい人もいる」

当事者夫婦YouTuberが語る『silent』への"共感と違和感"

 健聴者の妻と聴覚障害者の夫が発信するファミリーYouTuber「みゆみゆチャンネル」。家族のありのままの暮らしを投稿し続け、現在ではチャンネル登録者数が16万人を超えた。最近は、人気ドラマ『silent』(フジテレビ系)について、「リアルsilent夫婦」を称する2人の目線から語る動画も話題を呼ぶ。そんな「みゆみゆチャンネル」の、妻・ゆうこさんと夫・ととさんにインタビューを実施。『silent』を毎週楽しみにしていた2人がドラマに感じた共感から違和感まで、また三女・かいちゃん(小学生)のYouTube出演に思うことなどを詳しく話してもらった。

――まず、YouTubeを始めようと思ったきっかけを聞かせてください。

ゆうこ:最初にYouTubeを始めようと思ったのは私です。私と長女(みゆかさん)が2人でなにか一つのことをやりたいと思い、2020年6月にスタートしました。その後、長女が家を出てあまり帰ってこなくなり、私1人で頑張っていましたが限界を感じるように。そこで夫に出演してもらえないか相談したところOKをもらえたので、2020年10月から2人でやるようになりました。

――ととさんは、出演の話をされたときにどう感じましたか。

とと:毎週妻が頑張っている様子だったので、それを助けたいという気持ちで「いいよ」と言いました。

――「耳が聞こえない夫と聞こえる妻」というところをサムネイルやタイトルでも大きく打ち出していますが、そうすることに迷いはありましたか。

ゆうこ:やはり最初の内は耳が聴こえないことを売り物にしているような気持ちになって抵抗がありました。でも視聴者の方から「ありのままの姿を発信してくれることが私の希望に繋がっている」といったコメントをたくさんもらうようになり、もっと発信していきたいという方向に気持ちが変わっていきました。実は「登録者を集めるために書いていい?」と夫に確認してから出しているんです。

――ととさんは、ゆうこさんに「書いていい?」と聞かれたときにはどう思いましたか?

とと:とくに何とも思わなかったですね。それで視聴者が増えるんだったらいいなと思いました。

――実際に配信を始めてみて、壁に当たったことはありますか。

ゆうこ:次女が大学進学を控えていたので、大学にいくらお金がかかるんだろうと怯えていました。YouTubeをやっている間はなかなか仕事に集中ができないので、こんなことを親がやっていて良いのだろうかという悩みはありましたね。そのときはまだ収益化といっても、お小遣い程度しか入らなかったので、そこに不安を感じていました。しばらくの間は、とにかく大学のことを心配しながら過ごしていました。

――動画では、家の中の様子はもちろんライフスタイルまでしっかり見せてくれている印象があります。そこは意図的にリアルを届けようという気持ちでやっているのでしょうか。

とと:ありのままを出したいと妻が言っていたので、その方が皆さんに見てもらえるのであればいいかなと思いました。

――動画配信を始めたからこそ感じられる家族の絆を聞かせてください。

とと:YouTubeを始めてから一緒に何かをすることが増えて、前より仲良くなったというのは感じています。

ゆうこさん(左)、かいちゃん(中)、ととさん(右)

――特にドラマ『silent』の感想動画では、夫婦の仲の良さを感じるものもありましたね。絆が深まるきっかけにはなりましたか?

とと:毎週一緒にドラマを見ることを楽しみにしていました。ドラマも楽しんで、その後の撮影も楽しかった。だから、いまは『silent』ロスみたいな感じですよ。

――この『silent』の感想動画で、みゆみゆチャンネルの注目がさらに高まったと思いますが、反響はいかがでしたか。

ゆうこ:本当にすごかったです。新しい視聴者さんが増えているという実感がありました。『silent』の私達の動画をきっかけに過去の動画も見てくれて、追ってコメントを残してくれているのがわかったときには嬉しかったです。

とと:僕はYouTubeのコメントはほとんど見ていないのでよくわかりませんが、反響があったと聞いています。

――『silent』について聴覚障害者の方の目線で感じることがありましたら教えてください。

とと:想(目黒蓮)くんは中途失聴で、僕とは立場がちょっと違うんですけれど、共感できるところもあれば、「そうなんだ」と学ぶところもありました。想くんはドラマの中では元々耳が聴こえていたわけで、音楽も好きだったのに、それを失ってしまった。その心の動きが表されていましたよね。自分とは立場が違うので、共感ではないけれど理解できるなと思いました。

――他にも共感したシーンはありましたか。

とと:想と紬が一緒にいたときに、想が「大丈夫?」と言っていたシーンは気持ちがわかりました。やはり自分も、手話が全くできない健常者と一緒にいると「大丈夫?」って心配になることがある。手話を知らない健聴者だと手話自体に慣れていないので、まわりの人の視線が気になってしまうかなと心配になってしまいます。

――ゆうこさんはいかがですか。

ゆうこ:「ただ一緒にいたいから」と紬(川口春奈)ちゃんが言っていたのは、私はすごく理解ができて号泣しました。ただドラマの中の健常者がみなさん優し過ぎて、そこにちょっと違和感がありましたね。ドラマでは家族も友達も全員理解があったけれど、実際には割と冷たい人もいるし、以前と違うと離れていく人も多いんじゃないかなと思いました。

――やはり実際には嫌な思いをしてしまうこともあるのでしょうか。

とと:絶対あると思います。言い方がちょっと悪いかもしれないけれど、“ドラマにできる部分”だけを切り取っているなという感じはありましたね。

――今回ドラマを見てみて、ととさん、ゆうこさんが互いに「そう思っていたんだ」とびっくりしたことはありますか?

とと:最後のほうの「音楽」に関するところです。そこで妻が、自分に合わせて音楽に触れないようにしていたと話してくれたのですが、それまでそのことは知りませんでした。そういえば、確かに音楽を聴いていたことがないなと思いました。

――ゆうこさんが音楽に触れないというのは、普段から音楽を聴かなかったり、音楽の話題を出さなかったり、音楽番組を見なかったりするということですか。

ゆうこ:そうです。夫と出会う以前は車の中でも音楽をかけていたと思いますが、いまはレンタカーを借りて勝手に音楽が流れている場合には止めたくなっちゃいます。

――それは、ととさんに寄り添う気持ちから?

ゆうこ:そうですね。私だけに聴こえるものは、いらないなって。未だにそれは思います。

――いま、「みゆみゆチャンネル」やドラマ『silent』を見て、それをきっかけに手話をやってみたいという方もいると思います。それについてはどう感じていますか。

とと:私自身の話ですが、親も聴こえないし自分も聴こえないので小さいときから手話で育ってきたんですね。それで中学生くらいのときに『星の金貨』とか『愛してると言ってくれ』というドラマが放送されて手話が出てきましたけれど、それが“いますぐ覚えたて”のような手話だったんですよ。それに比べると『silent』はとても頑張っていて、きちんと「言語としての手話」になっていました。個人的にはこれをきっかけにもっと手話が広まってくれたら嬉しいですね。

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