『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』はポケモンとの「旅」を全力で楽しむゲームだった

『ポケモン S・V』はポケモンとの「旅」が楽しい

 2022年11月18日、『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』(以下、ポケモン S・V)が発売された。世界的に期待されるポケモンシリーズの新作とあって、発売直後からSNSやYouTubeでは盛況となるなど大きな話題となり、発売から3日で全世界で1000万本を売り上げたことが報告された。

 そんな『ポケモン S・V』最大の特徴は、シリーズ最大規模で展開されるシームレスなオープンワールドにおける「旅」だ。

 単にオープンワールドというだけであれば、今年だけでも『Horizon Forbidden West』や『Ghostwire Tokyo』、そして11月時点で1750万本売れた『エルデンリング』など、もはやオープンワールドはビデオゲーム文化におけるトレンドになっているし、これらも負けず劣らず評価が高い。

 そうしたオープンワールド作品とくらべても、『ポケモン S・V』は(残念ながらネット上での評判は、バグやパフォーマンスといった部分で賛否分かれているものの)オープンワールドでの体験は「旅」として、他の数あるオープンワールド作品とくらべても格別に優れている。では一体どのような点にが「旅」を印象付けているのか、『ポケモン S・V』における様々な工夫を今回は紹介したい。

完全に自由で、プレイヤーの意志に委ねられた構造

 『ポケモン S・V』の特筆すべき点は、まずオープンワールドがプレイヤーに対してどこまでも解放されている点である。

 本来、オープンワールドとはその名のとおりプレイヤーの行動に対して”開かれた”空間だ。ただし、その幅についてはゲームによって異なる。たとえば『ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド』のように、見える範囲ならすぐにどこまでも行けるというゲームもあれば、海や山といった障壁によって間接的にエリアを分断し、順序通りに進むという前提で作られていたり、実際に訪れることはできても、クエストが進まないなどのかたちで行動を制約している作品もある。これは今年1月に発売された『Pokémon LEGENDS アルセウス』も同様で、同作の場合は「オープンフィールド」として、いくつかの中規模の開かれたエリアをそれぞれ攻略していく形式を採用していた。

 対して、『ポケモン S・V』は数あるオープンワールド作品の中でも”開かれた”作品だ。冒頭こそ相棒を選び、ライバルと戦うといったお馴染みのチュートリアルを経て、本作が発売前から宣伝されていた「学校生活」を送るなど、リニアな進行が続く。しかし、学校に通うとすぐ「今から課外授業を始めます」と先生に告げられ、いきなり自由行動が始まるのだ。そこからは「大穴」と呼ばれるエリアを除けば、ほとんどにアクセスできてしまう。

 この開かれたオープンワールドこそ、『ポケモン S・V』で旅をしている感覚を味わう上で欠かせない舞台だ。オープンワールドと言っても、実はゲーム側で目的地が適宜指示され、それに沿って移動していくだけというゲームも少なくないなかで、まずほとんどのエリアを解放しておき、プレイヤーの五感と判断に任せ、どこにでも行けるように作っていることこそ、プレイヤーが自分の意志で旅をしている実感が得られる。

 本作では、序盤から伝説のポケモンであるコライドン・ミライドンと共に冒険できるのも気前がいい。彼らの背中に乗れば遠距離の移動もラクになるし、さらに各地の「ヌシ」と呼ばれる強力なポケモンを倒せば、コライドン・ミライドンをアップデートし、水上を移動したり、高所から滑空できるようになる。もともとほとんどのエリアにアクセスできるものの、ミライドン・コライドンのアップデートでさらに行ける範囲を拡張していくアイディアは、プレイヤーの冒険心を削がない程度にさりげなく方向性を誘導している。

個性豊かな自然と文明

 オープンワールドは構造もさることながら、その上にどんな世界観で彩られているかが大切だ。たとえどんなにおいしいピザ生地でも、その上に市販のスライスチーズしか載っていなかったらがっかりするだろう。いくら広大かつ自由なオープンワールドでも、それが全くの無人の荒野なら台無しだ。

 この点において、『ポケモン S・V』はパッと見の印象は、正直良くない。既に多くのレビュー等でも指摘されるように、テクスチャはかなりボケており、ライティングも感動的というほどではない。総じて『ポケモンSV』の世界は写実的とは言えず、ちまたでいう「グラフィックがよくない(※)」状態と言っていい(※この表現はビデオゲームの美術を批評する上で不適切なので筆者は好まないが)。

 しかし、『ポケモン S・V』をしばらくプレイしていると、表面的な印象よりも実際に体験した上での印象が勝っていった。まず、フィールド上に生きる多種多様なポケモンたちは言うまでもない。本作に登場するポケモンの数はなんと400体以上。新たなエリアは無論、既に滞在したエリアでさえ、常に新しいポケモン、新しい発見があり、全く飽きさせない。

 そこに加え、実は『ポケモン S・V』は街並みのバリエーションも素晴らしい。美しい漁港とマーケットが印象的なマリナードタウン。近代的な都市として発展したハッコウシティ。どの街にも、独自の住宅、職場、ランドマークが何かしらあり、訪れる度にちょっとした発見がある。そこに住む人々も、ジムリーダーたちのように個性溢れるカリスマから、何気ない一言がクスッと笑わせる住民まで、印象深さを残す中身が伴っている。

 かわいらしく、かっこよく、個性的なポケモンたちが次々にあふれる自然。興味深く、関心深い、人間たちと彼らが作ってきた街。表面的には美しさで劣るかもしれないが、長く旅を続けていく中で、「あの街はこれが美しかった」「この道ではこんなポケモンと出会った」と記憶に残るように、『ポケモン S・V』の世界観はとても魅力的だ。

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