『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』はポケモンとの「旅」を全力で楽しむゲームだった

『ポケモン S・V』はポケモンとの「旅」が楽しい

 広大で自由な空間に、個性に溢れた世界観。ここまでで十分に理想的なオープンワールドなのだが、『ポケモン S・V』の素晴らしい点は、ただこうした舞台を用意するだけでなく、この舞台を主人公がどのように歩み、生活していくかをゲームプレイ上に落とし込むことで「旅」の体験を完成させている点だ。

 印象的な要素は、「食事」である。筆者はかねてより「ゲームをうまそうに描くゲームは大体名作」と考えているが、『ポケモン S・V』の食事要素はすばらしい。『ポケモン S・V』ではゲーム内で食事をすることで「食事パワー」という名目で、「特定のポケモンの経験値が増える」「特定のポケモンを捕まえやすくなる」といった恩恵を受けられるのだが、この食事のバリエーションが尋常ではない。

 まず、食事をするには2つ手段があり、そのうちの1つが、手作りのサンドイッチだ。しかもサンドイッチと言っても、数十種類も存在するレシピをオープンワールドの各地で集め、チーズだとかトマトだとか、レシピに対応した材料も購入し、その上で、実際に自分で材料を組み合わせて作ることでようやく完成するのである。もはやサンドイッチを作るだけのゲームとして販売しても成立するほど充実している。

 元々『ポケモン』シリーズには『ダイヤモンド・パール』の「ポフィン」や、『ソード・シールド』のカレーライスなど、主人公がポケモンに料理をふるまう要素は存在した。ただ本作『SV』のサンドイッチは、広大なオープンワールドを冒険している間にサンドイッチを作るという点が良い。普段のゲームプレイが移動と戦闘なのだとしたら、サンドイッチはつかの間の休息であり、意図した停滞であるからだ。移動に対して休憩があるからこそ、オープンワールドの「旅」感が増している。

 もう1つ、本作では街のレストランなどに赴いて、お金を払って食事をとることもできる。このレストランの種類も大変多く、ジェラートの屋台からファストフード店、中華料理屋のようなもの、またご当地グルメのような限定のお店まで幅広くそろっており、プレイヤー目線では思わぬ飯テロになってしまうことだろう。

 ここで興味深いのは、お金の使い道として、正直レストランはあまり割に合わない点だ。後半に色違い厳選をする時のようにやり込みプレイをするならともかく、序中盤でのお金の使い道は主にモンスターボールから、キズぐすりのような回復アイテムなど、戦闘に役立つ消耗品が優先されるだろう。だからこそ合理性の外れたロールプレイの一貫として外食をしたくなる。例えば、数十キロの旅路を経てポケモン共々満身創痍の状態でファストフード店で休憩してみたり、強敵のジムリーダーをやっとの思いで倒した祝賀会として高級レストランで豪遊してみたり。割に合わない選択肢だからこそ、感慨深いシーンであえてレストランで外食をしたくなる、これもまた「旅」の醍醐味といえるのではないだろうか。

 ところで、オープンワールドに食事を、それも自炊と外食に分けてゲームプレイに落とし込むことで、「旅」らしさを演出した作品といえば『ファイナルファンタジー15』を思い出す。作風は大いに違うが、結果的に受けた印象は似ている。

オープンワールドで歩む新たな「旅」の形を描いた『ポケモン S・V』

 オープンワールドの構造を採用したゲームはここ10年で増え続けており、ただ広く、自由なオープンワールドだけでなく、そのオープンワールドで一体何を表現し、体験させるのかが重要になってきた。

 『ポケモン S・V』のオープンワールドは、プレイヤーの好奇心の赴くまま冒険できるよう広く開かれた設計に、ユニークなポケモンたちや美しい街並みを載せ、その上で食事を楽しむような生活感を演出することで、ポケモンたちと「旅」を送っているような体験が得られるよう構築されている。

 思えば『ポケモン』の醍醐味は「旅」だった。ポケモンと出会い、捕まえ、共に成長し、様々な困難を乗り越え、また新たな未知を探しに行く。これまで描かれてきた『ポケモン』的な「旅」の解釈として、『ポケモン S・V』は理想の『ポケモン』だと言える。

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