手書き文字をAIが代筆? 「こんなのは人間をダメにする!」と言われたサービスの開発秘話に迫る

手書き文字をAIが代筆するサービスが作られた理由

 様々な分野でAIが私達の生活に浸透してきているが、これまた斬新なAIを活用したサービスが新たに発表された。エスパリアール合同会社は9月15日、写真で撮った手書き文字をAIに学習させ、あたかもその人が文字を書いたように代筆し、送付まで行うAI手書きサービス“手書きくん”をリリースした。

 手書きの文字をAIが代筆するため、「ついに手書きというもっともに人間に近い営みもテクノロジーが担う時代になったのか」と驚きを隠せない。この新しい時代の到来を感じさせるサービスについて、エスパリアール代表の濵田純哉氏に話を聞いた。

手書き感を表現する難しさ

――手書きくんのサービス概要を教えてください。

濱田:手紙で送りたい文章を送ってもらい手書きくんが代筆し、入力された送付先にお送りする、というサービスです。代筆に加えて手紙の送付の代行まで行っています。

――手書きくんに書いてほしい文章は、どのように送られてくるのですか?

濱田:文章は実際に手書きで記入されたもの、Wordファイルのようにデータ上で記入されたものが送られてきて、その割合は大体半々です。手書きの文章の場合、送られた文章からその人の筆跡のクセを学習させ、実際に手書きしたような文章を再現できます。

――手書きくんをリリースするまで、どの辺りに苦労しましたか?

濱田:“不気味の谷”を超えることに苦労しました。不気味の谷とは、ロボットが人間に近過ぎる表現を示した際に人間側に違和感が生じる現象です。手書きくんの場合、文字の大きさ、文字と文字の間隔などが均一だと見た人が違和感を覚えます。また、「しんぶんし」と書いた際、最初の“し”と最後の“し”の同じ大きさやデザインが同じになることも避けなければいけません。

本画像が人が書いたもので、記事上部の画像が手書きくんで作成されたもの

――手書きっぽさを出すためには、細部にこだわる必要があるのですね。

濱田:はい。さらには、何行も書かれた文章がどれもビシッと平行になることも違和感を生みます。「あえてこの行は右肩上がりにしよう」など、綺麗な文章を残しつつも“手書き感”を演出できるように試行錯誤しました。

成果の出ている分野は“営業アポ”

――手書きくんの導入事例について教えてください。

濱田:特に営業面で大きな成果を上げています。やはりメールや電話などで連絡するよりも、手書きの手紙でアプローチした場合のアポ獲得率はとても高いです。加えて、手書きの文章は身体的に一日に書ける量は限りがありますが、手書きくんには上限がありません。アポ獲得率の高い手段を時間や身体の制約を気にせずに行えます。

――営業だけではなく手書きくんはどういったシーンでも活躍できそうですか?

濱田:まず、年賀状やお中元に添える手紙などに活躍できます。また、ディスグラフィアの方に喜んでもらえるサービスなのではないでしょうか。ディスグラフィアはざっくり言うと“文章が書けない障害”なのですが、文章は人間のアイデンティティの一つです。「自分の文章を残したい」という願望があると思いますので、手書きくんを利用すれば自分の文字を表現して残すことが可能です。

――ただ、SNSやメールなどが一般化したため、手書きという行為それ自体が廃れる可能性もあります。デジタル化が進む中、手書きというアナログな行為の需要についてどのように予想していますか?

濱田:アナログは見放されつつも、最終的にはその良さは見直されると思います。たとえば、トヨタのレクサスはボタンを押すとコンシェルジュと繋ぎ、道案内をしてくれる“レクサストータルケア”というサービスを展開しています。道案内はカーナビによって100%デジタルでやってくれるにもかかわらず、再び人間が担うようになりました。同様に手書きの需要は失われることはなく、アナログなものは残るのではないでしょうか。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる