新時代の乗車券はQRコードに? JR東日本がQRコード乗車サービスを導入するワケ

JRが「QR乗車サービス」を導入するワケ

 東日本旅客鉄道株式会社(JR東日本)は11月8日、QRコードを使用した新たな乗車サービスの導入を発表した。2024年度下期以降に東北エリアへ導入することを皮切りに、順次エリアを拡大するという。これは従来の紙製の切符を置き換える、チケットレス化のための新しい手段だということだ。JR東日本が展開するチケットレスの決済サービスといえば真っ先に思い浮かぶのは「Suica」だが、Suicaのサービスは変わらずに継続するという。今回はJR東日本がQRコードを導入するに至った背景とその利点、そして今後の展開について解説する。

SuicaとQRコードは併用、紙の切符の置き換えが主題

 QRコードを利用した乗車サービスはJR東日本エリアの在来線・新幹線で2024年以降に順次開始する予定で、具体的にはJR東日本が運営するWEBサービス「えきねっと」で乗車券を購入する際に「QR乗車」を選べるようになり、チケット購入後に「えきねっと」のアプリでQRコードを表示して改札にかざすと入場できる、というようなサービスになる予定だ。スマートフォンで切符を買い、そのままかざして入場するというイメージだ。

画像出典:JR東日本プレスリリース(https://www.jreast.co.jp/press/2022/20221108_ho03.pdf)

 ただ、首都圏ではすでに95%の乗客が交通系ICカードを利用しているのに加えて、新幹線についても「スマートEX」のようなWEBサービスがあり、実は「スマホだけで電車・新幹線に乗る」ということは技術的にもサービスとしてもすでに実現できている。今回発表されたQRコードの導入には乗客の利便性向上とは別の目的があり、それが、前述した「切符の置き換え」だ。サステナビリティの重要性があちこちで語られる昨今、さらに"ウィズコロナ"を契機としてタッチレス・非接触型サービスの需要が急速に拡大した。こうした状況を背景に今回、紙の切符を置き換えるアプローチとしてQRコードが選ばれた。

 えきねっとで購入したQRチケットの情報はクラウド上で管理され、「えきねっとで購入したチケットの予約情報」と「改札機が読み取ったQRチケットの情報」がサーバ上で照会されるようなシステムになるという。ICカードで電車を乗り降りする際には改札機がICカード上の情報を読み書きすることで乗客の乗車情報を判定しているわけだが、こうしたICカード対応の自動改札機は機構が複雑で単価が高く、対してQRリーダーはハードウェア自体の機構が単純で安価に導入できるというメリットもありそうだ。

 加えて筆者としては「枯れた技術」であることも重要なポイントだと感じる。生成されたQRコードは単なる画像であり、極端な話、スクリーンショットを印刷すればそのQRコードで改札を通れるはずだ。詳細な仕様はまだ不明なのでこうした運用が可能かはわからないが、「中央のサーバさえ稼働していれば使える、データでも紙でも保持できるチケット」というのは単純で堅牢だ。ICカードと切符、いずれもを補いうる技術だと感じた。

さらに発展するSuica QRコードの発展にも期待

 同社がグループの経営ビジョンとして発表している「変革2027」では、その目指す姿として「移動・購入・決済等のサービスをシームレスに利用」できるような未来を掲げており、方針として「JR東日本グループ主導による『シームレスな移動』の実現」を盛り込んでいる。こうした取り組みによって都市を快適な場所にすることが同社の目標であり、この中心にあるのが「Suica」のサービスだ。

画像出典:JR東日本プレスリリース(https://www.jreast.co.jp/press/2022/20221108_ho03.pdf)

 JR東日本はこうしたペイメントにおける連携施策に積極的だ。JR東日本グループのクレジットカードである「ビューカード」にはSuicaの機能が付与できるほか、スマートフォンで使える「モバイルSuica」のオートチャージ機能は支払い用のクレジットカードにビューカードを指定しないと使えない。今回のQRコード導入が、将来的なQR決済サービスへの対応、あるいは自社参入を前提としている可能性もあるだろう。

 特に中国でQR決済は圧倒的なシェアを持っており、こうした需要に対応するような動きも考えられる。私鉄の事例だが、2018年には沖縄のゆいれーる(沖縄都市モノレール)が中国のQR決済サービス「アリペイ(支付宝)」との連携実験を行った事例があり、QR決済と鉄道事業の親和性の高さは以前より明らかだ。今回のJR東日本の発表をきっかけとして、他社でもQRコードの導入が加速するかもしれない。

 余談だが、Suicaに代表される交通系ICカードにはNFC(近距離無線通信)という通信技術が採用されている。NFCは世界標準の規格で「Type-A」「Type-B」「Type-F(Felica)」とバリエーションがあり、Suicaに採用されているNFCは「Type-F(Felica)」だ。この規格はほかの2種よりも通信速度が速く、自動改札機とは非常に相性が良い。Suicaがサービスを開始した2001年より日本ではこの「NFC Type-F(Felica)」が長らく普及しているものの、世界的にはメジャーな規格ではないため、2016年にiPhone 7のApple PayがSuicaに対応する際には大きな話題となった。

2016年Apple基調講演より(https://www.youtube.com/watch?v=NS0txu_Kzl8)

 このように、Suicaは非常に便利なカードではあるものの、グローバルな技術ではないことは事実だ。その点で、QRコードのように他国の人々も親しみのある技術がインフラに採用されることにもまた、意義があるように思う。

■出典
Thumbnail Photo by 電車(新幹線)でゴー!(CC BY-SA 4.0)

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