クリエティブとAIの交差路にそびえる『Adobe Sensei』 その歴史と先進性に迫る
クリエイティブ領域におけるAIの活用が大きな話題になる昨今。入力したテキストをもとにイラストやフォトジェニックな画像を生成する「画像生成AI」のサービスが相次いで誕生、少し例を挙げるだけでもOpenAIが開発した「DALL-E」やstability.ai開発の「Stable Diffusion」、Leap Motion社の設立者であるデビッド・ホルツが率いる「Midjourney」など数多くのプログラムがリリースされ、世界中で話題になっている。
個人ユーザの導入ハードルが低く、目をみはるクオリティの画像が簡単に生成できるためまたたく間に流布し、著作権や商用利用におけるガイドラインの整備などが追いつかないような状況がある。技術の革新に対して社会が追いつけていないという形だが、画像生成AIはそれほどまでの速度で多くのユーザに浸透し、楽しまれている。
画像生成AIの発達はクリエイティブとAIの交差路における象徴的な出来事だといえるが、Adobeはそのはるか以前からクリエイティブ領域におけるAIの活用に注力してきた。人工知能フレームワーク『Adobe Sensei』が2016年の『Adobe MAX』で発表された際、CEOのシャンタヌ・ナラヤンは「これからのCreative Cloudのコアとして使われる重要な機能だ」と紹介した。「Adobe Stockにおける類似画像の検索」などのデモと合わせて語られた「AI技術の導入」だったが、2016年当時こうした人工知能の技術がここまでクリエイティブ領域と接近することを予見していたユーザは少なかったはずだ。筆者も、「機械学習する人工知能にCreative Cloudの活用状況を学習させる」というアプローチも含めて、このAIがもたらす恩恵に正直にいえば「ピンときていなかった」。
2010年代といえば、カメラの世界で「瞳にピントを合わせる機能」が話題になったり、車の自動運転実験が行われ始めたような時代。「AI」という古くから聞く言葉が、実用性に基づく形で実態を持って語られ始めたーーしかし未だ具体的にその恩恵に預かっている自覚を得にくいーー時期だったように思う。
2016年以降、マーケティング領域におけるユーザエクスペリエンスの最適化にAdobe Senseiが使われたり、「アウトライン化された文字をフォントに復元するデモ」や「動画における被写体の輪郭を認識するデモ」など、先端研究における『Adobe Sensei』の導入が『Sneaks』で発表されるなど、バックグラウンドでの積極的な活用が語られるようになった。そして2018年、『Adobe Sensei』の画像補完能力がいかんなく発揮された新機能として、Photoshopに「コンテンツに応じた塗りつぶし」が実装されると、そのクオリティの高さにユーザは湧いた。今となっては『Adobe Sensei』の能力を疑うユーザはいないだろう。
『Adobe Sensei』は現在も進化を続けており、Adobeが研究のユニークな機能を発表する場、『Sneaks』の常連となっている。今年の『Sneaks』でもデモンストレーションにおいて幾度もその名前が語られた。
道具は人を助けるためにある。人の「表現したい」という気持ちを加速させる、創造性を高めるためのパートナーとして、Adobeは数々のツールを作り続けてきた。「クリエイティブとAI」の交差する地点に先んじて投資し、『Adobe Sensei』を発展させてきたその先進性に改めて感嘆するばかりだ。