Adobe主導の画像”真贋性”検証システムが目指すのは「制作物の透明性を維持する」未来 ニコンとのパートナーシップも締結

アドビが取り組む画像の真贋性検証システム

 10月19日、Adobeが主導する「コンテンツ認証イニシアチブ(Content Authenticity Initiative )」と、光学機器大手メーカーとして知られるNikonのパートナーシップ締結が発表された。コンテンツ認証イニシアチブは2019年にAdobeが立ち上げたデジタルコンテンツの捏造に対抗するネットワークであり、ニューヨーク・タイムズやTwitterも参画する。フェイク画像や作品の盗用といった悪影響からクリエイターを守り、コンテンツ業界の健全性と、制作物の透明性を維持することがCAIの基本理念だ。

 2021年にはAdobeだけでなく、「arm」「BBC」「Intel」「Microsoft」「Truepic」など複数の企業が参画したコンテンツ来歴および信頼性のための標準化団体「Coalition for Content Provenance and Authenticity(以下、C2PA)」が発足される。CAIの理念をベースに、より大きな枠組みとして発展したのがC2PAだ。

 このネットワークはデジタルコンテンツに改ざん不可能な来歴情報を付与する仕組みの普及を目指して活動しており、Adobeは2021年にはPhotoshopにコンテンツ認証機能を追加、自社ソフトにおいていち早くこの仕組みに対応していた。

 C2PA規格に対応したファイルは、例えば画像ファイルであれば撮影者や編集者の情報はもちろん、その画像がどのように編集されたのかといった編集履歴までもが、改ざん不可能な形で画像に付与される。

 2022年には、C2PAの仕様に基づいたコンテンツ認証情報を実装するためのオープンソースツールやSDKを発表するなど、業界を主導するメーカーとして積極的な普及活動を進めている。今回のニコンとのパートナーシップも、こうした普及活動の結果の一つであるといえるだろう。

 10月18日~19日に行われた『Adobe MAX 2022』の日本会場では、C2PAの規格に基づく「来歴記録機能」を搭載したNikon Z9が参考展示された。このZ9で撮影した画像はC2PA規格に準拠したファイルとなっており、撮影者の情報、編集者の情報といったファイルの来歴記録が画像に記録される。

『Adobe MAX 2022』日本会場で参考展示されていたNikon Z9

 付加された情報は、CAIが提供するWEBサイト「Verify」で確認可能だ。会場では実際にこのカメラで撮影した画像をVerifyで確認するデモンストレーションが行われており、「撮影した瞬間の画像」「その後合成編集された画像」のそれぞれのメタデータを確認できた。

 今やコンテンツの編集や制作は誰でも簡単に、かつ手軽に行えるものとなった。動画から不要な被写体を削除したり、複数の写真を合成することで、制作者が望む構図を再現したりすることは、専門的な技術を持つプロでなくとも可能なのだ。また、近年はAI技術を活用した画像生成サービスが注目を浴びている。単語の組み合わせや、機械学習によって生成されるイメージは、デザインに明るくない人間がアイデアや構図の参考とするのには非常に便利なサービスだろう。Adobeもまた『Adobe Sensei』を発表するなどAIの活用には力を入れており、今後もクリエイターの手間を減らしたり、技術を補うためのツールとして活躍していくだろう。

 一方で、そうしたクリエイティブツールの進化によって作品の「コピー」や、「フェイク」が作りやすくなってしまうという状況も生まれている。便利なツールが生まれると同時に、作品の「唯一性」を担保することや、目にした画像の「真正性」を一目で確認することが難しくなっているのだ。

 Adobeがこうした状況を正しく認識し、率先してCAIやC2PAといった取り組みの音頭をとることは業界にとって非常に重要なことだ。真贋性を担保することはクリエイターの権利を守ることであり、そしてそうしたクリエイターに制作を発注するクライアントの安心にもつながる。クリエイターエコノミー全体を守る取り組みとして非常に意義深いものであり、多くの企業が参画することにもうなずける。

 Nikonもまた、2006年に「画像真正性検証ソフトウェア」をリリースするなど、デジタルコンテンツの世界で早くからこの問題に取り組んできた企業であり、、今回のパートナーシップ締結もそうした理念が合致した結果だろう。似たような取り組みでいえば、Googleはクリエイターの利益を守るための機能「コンテンツID」をYouTubeで運用している。コンテンツIDは権利者の許可を得ずに楽曲が使用されている映像をAIが自動判定し、楽曲の権利者が「動画をブロック」「動画を収益化」「視聴データの閲覧」から選択できる仕組みだ。Googleによれば、大半の権利者が動画の収益化を選択するとのことで、「その結果、権利者は数十億ドルもの収益を得られてきた」と発表している。

 CAIやC2PAといった取り組みに賛同し、より多くの企業・団体が参入することで「クリエイティブ業界の常識」として広まれば、クリエイターが作る作品の「唯一性」は担保され、ユーザーは誰でも目にする情報の「真正性」を確認することができるようになるだろう。Adobeを中心に、今後もこうした取り組みが広まっていくことに期待したい。

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以前の記事で、筆者はメタバースにおけるクリエイティブの需要は高まるため、クリエイターは3Dでのものづくりに対応していくべきだと書…

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