Z世代が音声コンテンツを好む理由とは? 日本&世界の音声広告市場から考える

Z世代が音声コンテンツを好む理由とは?

Z世代には「電話型」のSNSが求められている?

――サントリーの『クラフトボス』もそういったキャンペーンを行なっていますね。

八木:そうなんです。さらに補足すると、Spotifyは音声広告において若年層にものすごく強いのですが、その理由の一つは「ユーザーに若い人が多い」といううえに「ターゲティングが13歳からできる」というものがあって。こんなプラットフォームは、ほかにないんですよ。Google広告やFacebook広告も全部18歳以上なので。若年層の方の多様性にちゃんとマッチさせられるというのはすごくいいですよね。自分たちに合った音楽に対して合った広告を流すとかができますから。

――成人未満の13歳から18歳は、有料プランじゃなくてフリーミアムのプランなど広告が出やすいプランを使うこともおそらく多いので、それも含めて相性のよさがありそうです。

八木:はい、広告と相性がいいのは圧倒的に若い人たちでしょう。先日、私たちと朝日新聞社でポッドキャストの国内利用実態調査を行ったのですが、ポッドキャスト全体の利用傾向として面白いことがあって。職業の調査をすると、ビジネス層がまず多いのですが、学生も平均よりも高い視聴取層だったんです。英語や英会話を勉強するのに使われているように、ポッドキャストは学生が勉強するフォーマットとしてすごい優秀なんだなとこの調査で思っていたので、そういう意味でもSpotifyは若い子たちと相性がいいんだろうなと。

――教材として使う以外にも、聞き流して勉強のBGMとして使っていることもあると思います。

八木:おっしゃる通り、BGMとして使っているというのもあると思います。人によっては『オールナイトニッポン』もポッドキャストだと思っている人がいるかもしれません。現に『霜降り明星のオールナイトニッポン』は、一時期はSpotifyで国内で一番聴取時間の長いポッドキャストでしたから。

――その価値観の変化はおもしろいですね。「電話ってLINEでしょ?」みたいな感じというか。

八木:時々そういうことがあるんですよね。若い方に「ラジオ聴いてる?」と訊くと、「聴いてる」と言っていて、なんのことを指しているか質問すると「YouTube」と答えられたりしますから。

――上の世代がきけばカルチャーショックを受けるような話ですけど、すごく面白いですね。Z世代のオーディオの、発信する側、聴く側の両方が持つの特徴とは?

八木:Z世代の専門家ではないのですが、『Yay!』や『Wacha』といった国産のSNSは、Z世代向けのものが生き残っているように思えます。

  私の知り合いでシリコンバレーで『Dabel(ダベル)』という音声SNSをやっていて、現在は音声メタバースという事業を手がけている井口尊仁さんという方がいるのですが、その方が「音声のサービスは基本的にラジオ型か電話型」と言っていて。「ラジオ型=コンテンツを聴く」「電話型=コミュニケーションを取る」だということです。『Clubhouse』や『Twitterスペース』といった音声SNSは電話型で、『ポッドキャスト』とかはラジオ型。それはわかりやすい分類だなと思いました。

 Z世代向けの音声SNSが残っているのも「電話型」だからだろうなと思うんです。若い子たちはコミュニケーションを求めているので、誰かと会話したいという欲求を満たすために音声SNSを使っているのかなと。

――たしかに様々な方に話を聞いていると、DiscordのボイスチャットやLINEのグループ通話など、話すことが特になくても繋ぎながら勉強やゲームをするというのは、割と当たり前になっていると思います。

八木:いまの10代後半〜20代前半の方は、3年ほど新型コロナウイルスの流行によって学校へ行く機会が減っていますが、このような形で生々しい繋がりを維持することで、精神的な安全を守っているのかなと思いました。

 電通が発表したradikoの調査データを見てみると、10代後半のradikoユーザーはコロナ禍に入った直後に激増しているんです。2019年終わりから2020年の頭にradikoを聴き始めている15歳から19歳の子がすごく多くなっていて、コロナ禍の影響が如実に表れているなと思いました。

――この2、3年でSpotifyが大きく飛躍していると感じられる部分はどこですか?

八木:Spotifyに関しては全方位的にやることを徹底していて、ブランディングも展開もすごいなと感じます。“音”にまつわるあらゆることをやろうとしていますし、Spotifyを使っているユーザーにそれを気付かせてくれるような設計になっているなと。音楽を聴いてたらポッドキャストというものがあることを知れるし、これからはオーディオブックを聴くためのきっかけとしても機能するのではないでしょうか。そういった意味で、総じて音の可能性を広げる企業になっていくのだと思います。

 もう1点は、既存のフォーマットを進化させようとしているなと。たとえば、音楽とポッドキャストを混ぜた「Music+Talk」や、Anchorを使ったQ&Aの機能など、これまでのポッドキャストの形を変えるようなアドバンスドなものに進化させようとしているなと感じていて、すごいなと感じました。日本市場には未実装なのですが、ポッドキャスト広告に関してもSpotifyのものだとある程度までターゲティングできたり、これまでの課題を埋めるようなものだったりするんです。ほかにも「Sound Up」などでクリエイターの育成もしていて、市場自体を盛り上げようとしているように思えます。

――ありがとうございます。先ほどは2021年からの動きを伺いましたが、2022年前半の動きについてはどうでしょう?

八木:まず、アメリカでは「成熟期」を過ぎて形が少しずつ変わってきているように感じます。先程のアメリカ市場のレポートは2種類あって、ひとつは音声広告全体、もうひとつはその中のポッドキャストを切り出したものなのですが、ポッドキャストを切り出したものの中に面白いことが書かれていて。アメリカは段々アドサーバーなどから配信する挿入型広告が増えていっているのですが、2年前のポッドキャスト市場は、挿入型広告とホストが喋る広告が50:50の比率だったんです。それがここ2年で挿入型広告が増えていて、プログラマティックのような挿入型広告が70%くらいになっている。市場自体が伸びているので、ホスト枠がへっているわけではなく、挿入型が増えていると思われます。

 日本市場は挿入型で自動化されるところまでは発展していませんが、逆にいまはホストリード型の広告が売れやすい国なのではないかと最近思っていて。弊社でも日本のポッドキャスト配信者の方たちに広告を喋ってもらう「ポッドキャスタープロモーション」というサービスを販売しているのですが、結構な数が売れるんです。だから、人間が喋ることには価値があるなと改めて感じていて。ちなみに、ホストリード広告の方がブランド認知度が高くて広告性能は高いという調査結果は2年前くらいに出ていて、性能で言うとホストリードのほうが上なのですが、効率を求める動きになっていっているのが、先行するアメリカ市場の状況なのだなと思います。

 あとは企業によるポッドキャスト配信……「ブランデッドポッドキャスト」が増えているようにも感じますし、ラジオ局もデジタル広告に本腰を入れ始めているなと。これまで地上波がメインだったのですが、デジタルの広告枠を提供しはじめたラジオ局も増えてきました。

――2022年以降で注目している今後の動きを教えていただけると嬉しいです。

八木:これが難しいのですが、今年が踊り場なのかもしれないと考えていて……少なくとも、昨年ほどの“イケイケ”モードではないのかなと。アメリカ市場の動きを見ていても、市場自体はようやくいちフォーマットとして確立されつつあるので、マーケティングに取り入れられ始めているようには思えます・ただ、日本市場は数十億規模でニッチなものなので、発展を期待したいところです。

――それはどういった理由で?

八木:ラジオ市場はずっと「市場規模が1200億円」と言われていた横這いの市場だったんですが、それって競合がいなかったからだと僕は思っていて。テレビもずっとメディアの王様として伸び続けていたのですが、2016年に市場規模が下がってるんです。つまり、マス広告がウェブの広告に食われていっているので、ラジオ市場が削られてデジタルにシフトしていくだろうというのは、今年以降にあるのではないかと思っています。

――たしかに質を上げて地盤固めをしておかないと、来年以降のさらなる成長は厳しくなってくる。そういう意味では今年は結構試される年ですね。

八木:そうですね。あとは配信者は増えていくと思うので、どれだけリスナーが増えるかっていうところですね。コンテンツの多様化はより進んでいると思っていて。ポッドキャストにも大手新聞社各社が参入しつつありますし。そういった、ラジオではない活字メディアが音声に段々入ってきているので、さらにリスナーが増加することを期待しています。

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