脱サラして月売上100万円超えの配信者も輩出 音声配信サービス『Radiotalk』が目指す“話すエンターテイナー”が活躍する未来

『Radiotalk』が目指す“未来”

 コロナ禍の影響もあり、Podcastやインターネットラジオ、音声SNSなど“音声”を軸としたサービスが増加し、ユーザー数を増やしている。そんな広がりを見せ始めた音声メディアや音声SNSについて、有識者に未来を予想し考察してもらう連載企画「声とテクノロジーで変革する“メディアの未来”」。

 音声配信アプリ『Radiotalk(ラジオトーク)』は誰でも簡単に音声コンテンツの収録・配信ができるアプリだ。一般ユーザーから芸能人まで、「話すこと」を楽しむ“talker(トーカー)”が日夜その話芸を巧みに活かしてリスナーを楽しませている。そんな『Radiotalk』は、今や“Radiotalker(ラジオトーカー)”として話すことを専業にしているトーカーも。今回リアルサウンドテックでは、CEOの井上佳央里から『Radiotalk』が目指す場所、そして独自の収益化モデルなどについて話を聞いた。(Nana Numoto)

月売上100万円を超えて脱サラしている「ラジオトーカー」も

――音声コンテンツが流行し、市場が広がっていることは顕著だと思います。そんな中でRadiotalkが目指している場所を教えてください。

井上佳央里

井上佳央里(以下、井上):“話すことで楽しませる人”が収益の面で報われるような場所にしたいと思っています。楽しませる職業といえば、文章だったらライターさんや作家さん、漫画なら漫画家さんなど、それぞれの領域にプロフェッショナルの人がいますが、話すことで人を楽しませる人は昔からいたはずなのに、そこに肩書きがついていなかった。しいて言えばラジオパーソナリティがありますが、現状ラジオパーソナリティ1本で食べている人はほとんどおらず、職業とは言い難い状況です。こうしたことを考えたときに、仕組みさえあれば話すことを生業とするエンターテイナーを創出できるのではないかと思いました。それを「ラジオトーカー」と呼ぶような形で生み出していきたいんです。

――Radiotalkの配信者さんには、すでに脱サラした方もいらっしゃいますね。

井上:そうなんです。実際の売り上げで言うと、月100万円を超えている人も何人も生まれています。Radiotalkでは、貢献度に応じて収益を分配しているので、Radiotalkで売り上げが立って、そこから報酬が入っている方々ということになりますね。それこそ専業で、Radiotalkをはじめとした音声配信の収入で生活していけている人が既に何人か生まれているので、この「何人か」というところを、ゆくゆくは何百、何千人にして広げていくことが目指すところです。

――ニュアンス的にはTikTokerやYouTuberの中にラジオトーカーも入るといった感じでしょうか。

井上:そうですね。クリエイターエコノミーの象徴としてTikTokerやYouTuberと同じようにラジオトーカーがちゃんと並べるようになりたいなと思っています。

――そのようななかで、Radiotalkは今後も音声コンテンツのみに注力していくのでしょうか?

井上:そこの答えはまだイエスともノーとも言えないところです。ただ、“お喋り”がコンテンツになることが面白いと考えているので、話すことを得意としたクリエイターが報われるかたちにするというところは変わらないですね。いま、最適な手段がたまたま音声配信だったという感じです。動画でもよかったのですが、動画にするとどうしても持って生まれたものが有利になってしまいがちな面もあると思っていて。配信者のちょっとした表情や、部屋がおしゃれであるとか、見る側が話の内容よりも「今日の服かわいいね」と反応してしまうと、お喋りと関係ないところに気を取られたコンテンツになってしまう。そういう意味では先天的な容姿や年齢などにとらわれず、誰でも参加できて、話すことに集中できるプラットホームにしたほうがいいだろうということで、音声配信に特化しています。

――Radiotalkの強みを教えてください。

井上:いま、収益化できるプラットフォームは、いろいろあると思います。でも「楽しませながら収益化したい人だったら、一番Radiotalkが売れるはず」という自信が強みだと思っていますね。たとえば最近はGemeFi(ゲームファイ:ブロックチェーンゲームやNFTゲームを通して資産を手に入れること)の盛り上がりを受けて、ゲームで稼げる「Play to Earn(プレイトゥアーン)」、歩いたらその距離の分だけ稼げる「Move to Earn(ムーヴトゥアーン)」といった、さまざまな場面に合わせた稼げるアプリを指す言葉が登場しています。インターネットでは以前から、いわゆるポイ活(ポイント活動:ポイントを貯めてお得に使うこと)みたいな小遣い稼ぎの収益モデルもたくさん出ています。

 ですがRadiotalkはあくまで、話すことで楽しませる人を「クリエイター」「職業」にしていくということを目指しています。Radiotalkには、話すことに対してストイックな方や本気度が高い方、クオリティにまでこだわりたい方が集まりやすいというところがあるので、「商業性と創造性のバランスをどちらも兼ね備えている人が一番報われる仕組みになっている」、それこそが強みですね。

――たくさんの「喋ることが好きな面白い人」をどのように集められたのかが気になります。プラットフォームの空気作りで意識していることがあれば教えてください。

井上:ユーザーをあまりラジオ好きに絞らないようにしたことです。いまRadiotalkで人気の配信者には、Z世代など、ラジオを聞いたことのない世代の方もいるんですよ。例えば学校で一つの教室を見渡せば、喋りが面白い子は必ず見つかると思うのですが、ラジオが好きな人がクラスに1人いたかというと、そこはちょっとわからないですよね。そんなこともあり、名前はRadiotalkだけれどラジオ好きだけの集まりにはしなかったことが、ラジオという市場を超えてお喋りという市場にまで広げられたきっかけだと思っています。

 話すことをエンタメとして仕事にするという方向性を目指しつつも、ラジオの進化版みたいなことではなくて、「お喋りの市場をエンタメ化する」というように市場を再構築/再定義していくことがユーザーを集める上で大切だと思っています。

配信者とユーザーの距離を開けたにも関わらず収益化できたわけ

――リリース当初は収録という形にこだわっていましたが、今は生配信もするようになりましたね。生配信の特性としてリスナーの熱量が高くなり、それが課金欲となって還元される反面、場合によって不健全な繋がりが生まれることもあると思います。Radiotalkは入退室が通知されない、匿名で配信が聞けるなど、あえて配信者とユーザーの距離を開けるスタイルを取っているのが特徴的だと思いました。多くの生配信のモデルと逆のアプローチをしたきっかけはなんだったのでしょうか。

井上:そこがまさに挑戦でした。Radiotalkは、元々はエキサイトの社内ベンチャー制度からリリースされたのですが、単純に大手企業で「ライブ配信サービスを作って月商1億を達成させろ」のような目標だけを与えられていたら、投げ銭が飛びかうようなシステムを構築してサービスの収益化をすると思います。でも私たちが目指していたものは、「話すことのエンターテイメントを作る」ということ。つまりは“人を楽しませる人”が職業として収益化できるようになることだったんですよね。

 ただこの「話すことで人を楽しませる人」に肩書きと収益をくっつけることと、トークで楽しませる体験が収益化されていくことは別で考えないといけない。そうなったときにライブ配信は正直収益化しやすいとは感じていました。ところがここで難しいのが、ライブ配信は肝心の「話すこと」を邪魔してしまうんですよね。話すことのエンターテインメントを作ろうとすると、配信者は基本的にコンテンツの中で喋り続けていないといけないのに、「誰々さんが入室しました」という通知にすべて対応していたらそれで枠が終わってしまう。そこを両立させるためのバランスを決めていった結果が、いまのRadiotalkの配信があるという感じなんです。

 では、なぜ収益化ができたかというと、収録から来ている文脈もあるのですが、配信者がこれまで話してきた文脈があり、その文脈に沿ったものがリスナーから送られるシステムを作ったことだと思います。

――たとえばどういったものでしょうか?

井上:少し内輪ネタのようにはなってしまうのですが、リスナーが文脈を理解しているからこそウケるものを用意しました。ライブ配信アプリの多くは共通のアイテムをプレゼントすることが主流かと思いますが、Radiotalkではそれが配信者を模したギフトを作ることができる企画を用意しています。地上波のラジオ番組で例えると、パーソナリティにお便りを送ってそれが読まれると、そのパーソナリティさんのステッカーが届くことと似ていますね。配信者としての実績が上がると、社内のイラストレーターさんがその配信者だけの特別のギフトを作ることができるようになります。もちろん自分で作ってもいいですし、Radiotalkに任せてもらうこともできる。

――すごいです。

井上:たとえば、自分の声で「たしかに」という音が鳴るギフトを作った配信者と、「ええやん」と鳴るギフトを作った配信者がいて、2人で「たしかにええやんの会」という企画が行われました。「たしかに」「ええやん」と共感を呼ぶエピソードをリスナーから募集し、リスナーと一緒になって「たしかに」「ええやん」と、ときには「たしかにじゃな〜い!」という声が飛び交う、といった趣旨です。配信者としてのスコアを規定値まで達成した人は、何月何日なら企画を出していいという期間があって、そこに応募してくれた方の企画を出す形になっています。こうしてギフトだけでなく、配信者主体の企画をバックアップすることもあります。他のライブ配信サービスの投げ銭は、ライバーへのダイレクトな応援に繋がるものとなりますが、Radiotalkの人気企画では、投票システムや優勝者を決めるなど、ゲーム感覚で参加できる状況をトーク中に作り、そこにギフトが付随する形を取っています。

――なるほど、それは実際にトークイベントに参加したような気持ちになれますね。

井上:そうなんですよ。これはゲームセンターに近い感覚かなと思っています。皆さんがゲームセンターに行ったら、まずプリクラで400円使って、それから音楽ゲームで300円使って……というように小さい金額をいろいろなものに使いながら楽しんでいきますよね。そのトーク版として、喋ることを遊びにする場所にしたいと思いました。

――収益化についてさらにお伺いしたいのですが、これから実装されていく予定の収益モデルがあれば教えてください。

井上:ユーザーが収益化できるという意味でいうと、二つ検証したことがあります。一つは、PR投稿のようなもの。これはよくあるモデルですね。もう一つはライブコマースに近いのですが、配信者がプロデュースしたグッズの販売です。これまでも配信者自身がクッション、タオル、ステッカーなどのグッズを作って、有料ギフトをくれたリスナーに配布するということをやってくれていました。でも個人間でこれをやろうとすると、お互いに住所を伝えあわないといけないなど、どうしても一定のリスクがつきまとってしまう。そこは企業側が参入した方がいいなと思い、実際に年末に配信者からリスナーへの年賀状をRadiotalk経由で発送することを行ってみました。

 配信者のファンには、個人のファンだけでなく、いわゆる「箱推し」のようなグループのファンもいます。そういう方はグループの人たちを全制覇したいという感情があるので、年賀状がたくさん売れていきました。配送の仕組みが整っていないので、まだ事業としてはやっていないのですが、ここは前向きに検討しています。

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