カルト教団を運営する異色のローグライク『Cult of the Lamb』 改めて感じた「ローグ」系の面白さとは
教団運営とダンジョン攻略をつなぐ時間の要素
さて、そんな本作は教団運営シミュレーションとしても、ローグライトとしても単体では面白さを感じることは難しい。どちらもシンプルで、簡易的すぎるのだ。シミュレーションゲームとしては管理するリソースの種類は少なく、信者の離反もそこまで重大ではないので、「自宗教の崩壊」というプレッシャーに晒されるタイミングは皆無と言っていい。
一方、ローグライトとしては操作こそ直感的なものの難易度は高くなく、死んでロストするのはその場限りの武器とタロットカード、入手した資源の一部とすぐに回復できる信仰心程度なので、「ローグ」と名の付くジャンル特有の死への恐怖は存在しない。
もちろん、本作の各要素のシンプルさは本作の欠点とはいえず、寧ろ長所として捉えることができる。やはり本作の特徴は教団の運営とダンジョン攻略がリンクしていることであり、どちらか、あるいは両方が複雑だと、途端に本作の魅力は失われてしまう。教団運営で武器が強くなればダンジョンを攻略したくなるし、ダンジョンで得た資材を使って拠点を強化したくなるという止めどころのないサイクルは、双方がテキパキ進むからこそだ。
そんな2つのパートのリンクをより強くしているのが時間の概念だ。本作では、教団を運営しているときにも、ダンジョンに潜っているときにも同じように時間が進んでいく。そのため、ダンジョンを攻略している最中でも拠点で待つ信者は空腹となるし、衛生面も悪くなる。また、信仰心のためにも一日一回の説教は行っておきたい。かといって、教団運営ばかりしているとダンジョン攻略が全く進まない。そのため、教団運営は手早く効率的に行い、ダンジョン攻略は無駄足を踏まないように進めたくなる。結果、ゲームの進行は自然と早くなり、集中が解けずらくゲームに没頭することができるというわけだ。
一方、教団の強化がある程度まで進んでしまうと、教団運営・ダンジョン攻略ともに非常に簡単になってしまうのは本作の欠点といっていいだろう。筆者が終盤に差し掛かる頃には、教団運営は信者に任せておけば大抵のことは自動的に進むし、ダンジョンでは全ての武器と呪いを解禁しているので簡単にボスも撃破できてしまった。最初は教団運営に時間を割きがちで、武器の強化度合いが解禁されているダンジョンにいる敵の強さを追い越しやすいのも拍車をかけている。この点に関してはゲームの難易度を上げることで解消はできるが、それ以外の解決策が欲しいところだ。
改めて「ローグ」のポテンシャルを感じさせられる
ここまで本作について簡単に紹介したが、本作のプレイを通して、「ローグ」の名を関するジャンルのポテンシャルの高さを再認識できた。本作のローグ要素は、他のローグライクゲームよりも簡素で乏しい。ゲームのプレイ内容も教団運営に軸足を置いている。それでも、ローグの要素が本作の中毒性をあげていることは間違いないし、だからこそ本作のプレイを通じてそのポテンシャルを改めて感じることができたのだ。
元々、何度もダンジョンに挑むこととなる「ローグライク」の要素は中毒性が高い一方で、ランダム生成されるダンジョンやアイテム・装備の不確定さ等から高難易度になりやすい。だからこそコアなゲーマーを中心に今尚人気を博しているジャンルだ。
そんなローグライクの要素を一部持ち込む「ローグライト」と呼ばれるジャンルは、「ローグ」要素の中毒性と、幅広いユーザーへのアプローチを同時に達成しやすいジャンルとなっており、毎年多くのヒット作を生み出している。ここでは詳しく語らないが、音ゲーとローグ要素が組み合わさった『Crypt of the NecroDancer』やアクション面を重視した『Hades』といったローグライトのヒット作も、ローグの要素をゲームの中にうまく取り入れ、成功したゲームといえるだろう。
とはいえ、ローグ要素の取り入れ方は一歩間違えればユーザーにとって煩わしい要素になりかねない。『Cult of the Lamb』を例に挙げれば、教団運営パートが忙しすぎるとダンジョンに潜れず、ダンジョンが難しすぎると教団運営に意義を見出せなくなり、「別々のゲームに分けた方が面白かった」という事態に陥りかねないだろう。だからこそ、各要素のバランス調整や、別々のジャンルを組み合わせる「つなぎ」の要素が重要になる。そういう意味でも、本作の軽めのプレイ感や、時間の概念は上手く機能していると言えるだろう。
また、そうしたゲーム性とマッチしたテーマも、ユーザーに受け入れられるかを決める重要な要素だ。そう考えてみると、本作のカルト教団というインパクトのあるテーマ設定や、それを覆い隠すような可愛らしいキャラクターも世界的なヒットの背景にあるのではないだろうか。
長々と語ってしまったが、筆者はローグライク/ローグライトともに好物であり、今後も両ジャンルの新タイトルには注目していきたい。読者の方でまだ未プレイの方は、『Cult of the Lamb』をぜひプレイして欲しい(ただし、グロ要素や下品な表現が苦手な方はご注意を)。
(※)ローグライク/ローグライトといった「ローグ」を取り巻くジャンルの定義は、ファンの間では今尚論争が続いている。特に様々なジャンルと結びつくローグライトの明確な定義は困難だ。本稿ではジャンルの区分けについて考察することはしないので、気になる方は各自で検索していただければと思う。あくまで本稿で使用する「ローグライト」は、ダンジョンの自動生成等の「ローグライクの要素を一部取り入れたゲーム」程度の意味合いである点に留意していただきたい。