システムで人々を魅了したゲームたち:『デス・ストランディング』の“ソーシャル・ストランド・システム”が広げる助け合いの絆
棒を使って戦う“FOB”。核は根絶できるか
余談ではあるが、『デス・ストランディング』で実装されたソーシャル・ストランド・システムは縄のつながりが意識されていたのに対し、小島監督が過去に手がけた『メタルギア ソリッド V ファントムペイン』(以下、MGSV TPP)の“FOB”では、棒を使って叩く、威嚇し合うことが基本になっていた。
FOBは対人戦に特化したモード。プレイヤーは資源とそれを守る人員を配置したFOBをオンライン上に建設し、自分の基地を守りながらほかのプレイヤーのFOBに潜入。資源や人員を奪う。助け合うことを軸に構成されていたソーシャル・ストランド・システムに対し、こちらは奪い合うのが基本なので、自ずとプレイヤー同士で争うことになる。
このモードでは核兵器が出てくる。膨大な資源を使う代わりに、FOBモードを遊んでいる誰もが核兵器を製造し、自分の前線基地に配備できる。起爆はできないが、代わりに抑止力となってほかのプレイヤーからの潜入を防ぐことが可能だ(特定の条件をクリアしたプレイヤーには効かない)。
一方、潜入したプレイヤーは相手のFOBに配備された核兵器を奪える。自前の核兵器も、奪ってきた核兵器も解体できるので、FOB上から核を根絶させるのも不可能ではない。調べた限りでは、廃絶を目指して核兵器を奪い続けるプレイヤーもいるようだ。ではFOBで実際に核がなくなったかというと、少なくとも記事の執筆時点では一度もなかった。
上で書いたように、核があればほかのプレイヤーから潜入される可能性を大きく減らせる。核抑止の是非を扱った『メタルギアソリッド ピースウォーカー』(以下、MGS PW)を遊んだ身としては、自分で核兵器を持つのは気が引けたが、当時はトロフィーを手に入れるためにも作ってはみた。実際にゲーム中で持ってみると、潜入されるリスクが減るのは確かに安心感がある。資源はともかく、時間をかけて育てた兵士を奪われるのは辛いし、彼らを少しでも守れるのなら、核保有にもメリットはあるかもしれない。とはいえ持ち続ける気はなかったので、トロフィーを取った後は数日の後に自分で解体した。
シリーズを通して反核を訴えてきた『メタルギア』で、主人公側が核を持てるのは『MGS PW』と『MGSV TPP』くらいだ。ただ、『MGS PW』では核保有までの展開はストーリーありきで、実際に保有を決めたのはスネークたち“MSF”でもある。プレイヤーの判断に委ねるという点では、『MGSV TPP』のほうがその意味はより重い。
人道に則るなら核兵器は不要だが、自分の前線基地に降りかかるリスクを少しでも減らすなら話は変わってくる。そうしたせめぎあいのなかで、それでも人は核を絶てるのか。FOBにおける核兵器の存在からは、抑止力のための棒に対し、核なき世界という良い空間を手繰り寄せるための縄は勝てるのかという社会への問いかけのようなものを感じた。
題材や環境は違っても、棒を使うFOBと縄でつながるソーシャル・ストランド・システムには、どこか通じる部分があるのかもしれない。