3D版『牛乳を注ぐ女』やVRオフィスの開設……メディアアーティスト・坪倉輝明が気鋭の作品を発表し続ける理由とは

メディアアーティスト・坪倉輝明が気鋭の作品を発表し続ける理由

SNSのバズは狙いを定めて作品を手がけている

 そして、2017年にはメディアアーティストとして独立することになる。

 独り立ちしたきっかけについては「個人で続けてきた作品制作の展示による収入が増えてきて、もっと自分自身のものづくりに専念したかったから」と振り返る。

 「会社員と両立していたときは、夜遅くまでクライアントワークの制作をやり、帰宅してからは朝まで個人の作品制作をしていました。ただ、この生活が続くと、やはり正直厳しいなと思いまして。実は大学を卒業して半年後くらいに展覧会の企画やキュレーションを行う会社に見出され、デジタルアートの作品を企画展で展示することでお金をもらう経験をさせてもらったんです。それ以来、メディアアーティストを名乗って個人活動を続けてきましたが、それが軌道に乗ってきて。『もっと自分の作品をたくさん制作したい』と感じるようになったのが独立した経緯になっています」

 しかし、フリーランスになったことで「クライアントワークと個人ワークとのせめぎ合い」も感じているそうだ。

 「自分の作品を作り続けても、収入を得る効率としては悪く、自分の作品づくりに費やす時間を確保するために、クライアントワークを行っているような感覚です。もちろん、自分の作品に集中したい際は案件をお断りしますが、自分の場合は割り切ってクライアントワークに取り組んでいます」

 こうしたなか、坪倉氏はたびたびTwitterでバズを起こす斬新な作品を発表している。

 VRの技術を応用し、懐中電灯の光を展示台に照らすことで作品の影が現れる「不可視彫像」や、UnityやBlenderなどを駆使してフェルメールの名画「牛乳を注ぐ女」を3D空間で表現するなど、気鋭の作品を生み出しているのだ。

 「SNSの特性を理解しているので、最初からバズを狙いにいって作品づくりをしている」と語る坪倉氏だが、このようなアイデアの着想はどこから生まれるのだろうか。

 「僕自身、オタク気質というか厨二病というか、魔法を現実世界でやりたいと思っちゃうタイプなんですよ(笑)。そういった妄想が渦巻くなか、なにか閃いたときは忘れないうちにすぐにメモを取るようにしています。だいたい寝る前にアイデアが降ってくることが多いかもしれません。

 また、ブレインストーミングをしながらアイデアを考える時間を作る場合もありますね。こうしてアイデアを書き留めたストックは、700個以上あるんですよ。デジタルとアナログ問わず、アート展示を見に行った際には、作品の技術に着目して使い方や引き出しの仕方も見るようにしています」

メタバースが発展しても体験型のアートはなくならない

 今後、リアルとバーチャルの境目がなくなり、将来的にはメタバースの世界も日常に入り込んでくるだろう。

 こうした未来が予想されるわけだが、坪倉氏はメディアアーティストとしてどのような技術や演出を駆使し、作品を発表していく予定なのか。

 「現時点ではVRChat内に自分の美術館を持っていて、そこではリアルで展示していた作品を、バーチャル上で再現して展示しています。メタバースの世界が日常に染み出してくれば、展示する作品を増やしていければと思っています。それでいうと、ここ2、3年はVRを中心に活動していて、というのもコロナ禍でリアル展示の機会が平常時の1/10まで減ってしまったからなんです。

 そこで、バーチャル空間VRChat上にVRオフィス『坪倉仮想事務所』を立ち上げ、クライアントと会議をしたり仲間とコミュニケーションしたりしています」

『坪倉仮想事務所』

 一方で、メタバースの世界が台頭してきたとしても、「体験型のアートは現実からなくなることはないのでは」という見解を示す。

 「バーチャル空間のメリットは、ものすごく重い物を片手で持ち上げたり、アバターからビームを出せたりと、現実世界ではありえない演出やギミックが作れること。それでも、リアルでは触覚があるぶん、体験を通して得られる情報量が格段に違うので、バーチャルはリアルに勝ることはないのではと考えています。逆を言えば、メタバース空間でどのようなクリエイティブを創れば、体験価値を向上できるか意識していくことが、これからさらに重要になってくると言えるかもしれません」

 どんなに時代が変わろうが、テクノロジーやクリエイティブに対する飽くなき挑戦を続けていく坪倉氏。

 それこそが、デジタルアーティストたる振る舞いであり、既定概念を覆す作品を世に提示していくのにつながるのではないだろうか。

 最後に坪倉氏へ今後の展望について聞いた。

 「将来的には、クライアントワークに頼らずに、自分の作品をいつでも作れるようにしたいと思っています。ふとした瞬間に“ビビッときたアイデア”が浮かんだとしても、自分の時間がなければ機会を逸してしまう。そうならないためにも、3Dモデルの販売やYouTubeチャンネルの収益化などを行って、収入源もさらに増やしていきたいですね」

 加えて、ネクストカミングが期待される若手アーティストに向けてのアドバイスも伺った。

 「僕自身も、国立新美術館で展示したのが契機になって今があるように、自分の作品を多くの人の目に触れる機会を作るのが大切だと思います。あとは、SNSでテクノロジーバズを起こし、自分の名前を売っていくことも大事になるでしょう。一つひとつの実績を積み重ねていき、仕事が受けきれないほどくるようになれば、稼働単価も上げられる。自分の強みは何か。どうブランディングしていけば知名度が上がって、仕事がくるようになるか考えていくことが大事になってくるでしょう」

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「インタビュー」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる