黄昏に沈むパラダイスの裏側 ―― 『パラダイスキラー』を彩るバリー“エポック”トッピングの音楽

『パラダイスキラー』を彩る音楽

 デザイナーのオリヴァー・クラーク・スミスと、プログラマーのフィル・クラブツリーが2018年に立ちあげたイギリスの独立系ゲームスタジオ・Kaizen Game Worksが開発を手がけ、2020年9月4日にリリースされた『パラダイスキラー』は、“フーダニット(だれがやったのか)”を主軸に据えたオープンワールド形式のミステリーアドベンチャーゲーム。2021年8月20日にはSteam/PC版、Nintendo Switch版の日本語版が配信され、2022年3月16日にはPlaystation 4、Playstation 5版、Xbox series X/S、Xbox One版が配信(&日本語化)。同時に全プラットフォームで新キャラクターや新曲などを追加したアップデートが実施された。

 舞台は、オーバーテクノロジーや神・悪魔・エイリアンの存在が影を落とす超現実的な「パラダイス島」。数多の庶民を生贄に捧げながら数千年ごとに廃棄と新生を繰り返し、現在の島は24番目にあたる。そして25番目のフェーズ(パーフェクト25)を迎える前夜、何重もの封印が施された密室状況下で複数の議員が殺害されるという前代未聞の惨事が起こる。事件を受け、島から追放されていた捜査オタクのレディ・ラブ・ダイが300万日ぶりに呼び出され、アシスタントコンピューターのスターライトとともに捜査にあたることとなる。一見すると風光明媚だが不穏なムードとカオスな造形に満ちた島、風変わりでアクが強い容疑者たち――誰がパラダイスを殺したのか? レディ・ラブ・ダイは証言を聞き、あちこちに点在する証拠や謎めいた遺物を集めながら、事件や島の秘密に迫ってゆく。

 本作では任意のタイミングで法廷で証拠を提示して意中のキャラクターを告発できる。有罪に持ち込むには十分な証拠が必要だが、仮に証拠不十分であったとしても、裁判後に問答無用で手を下すこともできてしまう。プレイヤーが解釈し、見出した真実がそのまま「答え」となり、エンディングを迎えるのだ。たとえそれが間違っていたとしても、ゲームはプレイヤーに正しい答えを求めたり、下した判断を咎めたりすることはない(Kaizen Game Worksは、プレイヤーの自由に多くをゆだねることをデザイン哲学の中核としている)。事実と真実は違う――これが『パラダイスキラー』の肝である。そして、「謎解きの正しさ」ではなく「謎解きの過程」に意識を向けさせる本作は、真実に向かおうとする意志を試すゲームであるともいえよう。

 芥川龍之介「藪の中」や、スタニスワフ・レム『捜査』などに通じる真実の不分明を織り込んだテーマや、ヴェイパーウェイヴの意匠を汲んだヴィジュアル、コズミックホラー的な要素も垣間見せる世界観が好評をもって迎えられ、バリー“エポック”トッピングによる音楽面の評価も高い。本作のサントラについて語る前に、バリーのプロフィールを紹介しよう。

 スコットランド出身のコンポーザー/プロデューサーであり、キャリアの初期にはパワー・ポップ・バンド Amid Concrete & Callousness(2007年から2012年にかけて活動し、2009年と2010年に2枚のEPをリリース)、エレクトロ・ポップ・デュオ Choir of Robots(2012年にEP『Clementine Star』をリリース)、メロディック・ハードコア・バンド Teenage China(2013年にEP『Forth』をリリース)での活動歴がある。2014年にゲームボーイ風ヴィジュアルの横スクロールアクションゲーム『Jack B. Nimble』(開発:Sean Noonan)の音楽を担当し、2016年から2018年にかけてショートアニメーション「The Heist」「Drifter」「Define Intervention」に劇伴を提供。2019年にはEpoch名義でアルバム『Encounters』をアメリカのシンセウェイヴコミュニティ/レーベルRetro Promnadeからリリースし、ソロアーティストとしてデビューした。同作は「機動戦士ガンダム」シリーズや、映画『トロン: レガシー』、『F-ZERO』『スターフォックス』『パロディウス』などのゲームから得たインスピレーションをふんだんに盛り込んだ、聴き応えのあるアルバムである。

 

 

 1980~90年代のムードにあふれる『パラダイスキラー』の音楽は、シティ・ポップ、シンセウェイヴ、AOR、ファンク、フュージョンのエッセンスがふんだんに散りばめられており、多様な音楽遍歴を持つバリーの面目躍如だ。メインテーマ「Paradise (Stay Forever)」は、山下達郎「Sparkle」を彷彿とさせる爽やかなポップチューンで、フィオナ・リンチの伸びやかなヴォーカルが意味深長な歌詞と響き合い、本作のイメージを見事に伝える。ゴーゴー/ファンク調の「GO!GO!STYLE」や、ニュージャックスウィング調の「The Lemegeton Bop」「House of Bliss」のキメキメでゴキゲンな仕上がりも耳を惹く。サックスプレイヤーのファビアン・ヘルナンデスとギタリストのトーマス・テンプルのプレイが随所でアクセントを与えており、「To The Heart」での両者のソロパートは特に聴きものだ。

 ソロといえば、「Last Dance XX」中盤の鍵盤ハーモニカソロも忘れ難いものがある。ルーサー・ヴァンドロスを思わせるR&Bチューン「Midori Eyes」や、ほどよい浮遊感が心地よい「Breeze With U」「Leaving」、カッティングギターとメロウなシンセがコントラストを成す「Knife & Crystal」、バックビートに乗せて一抹のメランコリーを運ぶ「End of the World」は、パラダイス島の黄昏時の情景と溶け合い、プレイヤーに淡い感慨をもたらしてくれる。

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