「静かなる探求者」大嶋啓之の音楽世界と活動の軌跡

 発売されるやいなや、またたく間に「令和の米騒動」と称されるほどのブームを呼び、インディーズゲームとしては異例の爆発的ヒットを記録したことも記憶に新しい『天穂(てんすい)のサクナヒメ』(開発:えーでるわいす/発売:マーベラス)。本格的な田植えシミュレーションと和風アクションRPGを融合させたゲーム性や細やかな作り込みもさることながら、作編曲家/サウンドプロデューサーの大嶋啓之による和の風情と様々な創意工夫あふれる音楽も大きな魅力であり、大嶋自身の民謡に対するルーツや、幼少期から耳馴染んだお囃子などにも裏打ちされた楽曲が時に繊細に、時にダイナミックに世界観に彩りを与えている。えーでるわいす最大のヒットタイトルとなった本作は大嶋のキャリアにおいても大きな「収穫」をもたらし、今年2月19日には同作の楽曲を演奏するオンラインライヴも開催され、インディーズで活動するミュージシャンや、和楽器奏者、雅楽演奏家による華やかなパフォーマンスが披露された。

 1999年に自身のホームページ/音楽サークル〈Perfect Vanity〉を創設して以来、ゲーム、アニメ、イメージアルバム、コラボレーション作品など、インディーズを拠点として20年以上にわたり様々な活動を展開している大嶋が創造する音楽世界は、ジャズ、アンビエント、ニューエイジ、エレクトロニカ、ポストロック、ワールドミュージックが豊かに織り込まれ、聴く者を深く魅了し続けている。今回は「静かなる探求者」として音楽を紡ぎ続ける大嶋のこれまでの足跡をじっくりと辿っていきたい。

※本稿執筆にあたり、大嶋氏より制作当時のエピソードなどをご教示いただきました。御礼申し上げます。

作曲活動の始まり

 ドビュッシー、ショパン、ジョージ・ウィンストン、エンヤ、ディープ・フォレスト、シークレット・ガーデン、アディエマス、ロバート・マイルズ、坂本龍一、久石譲、スクウェアのRPGやタイトー(ZUNTATA)のゲーム音楽などを聴いていた大嶋が作曲に興味を持ったのは高校時代。ほどなくして専門学校でコンピュータ・ミュージックを学んだ大嶋は在学中に、株式会社Rolandと株式会社Edirol(※Roland子会社。2010年9月にRolandに統合された)の主催による、コンピュータ・ミュージック作品を競うユーザー参加型イベント『力作コンテスト』の第11回(募集期間:1998年6月1日~8月15日)に、打ち込みによる弦楽四重奏をフィーチャーした楽曲「虚空の楽園」を応募し《Cakewalk賞》を受賞。その後、エンターブレインの「デジタルファミ通ホームページ」(「ツクールWeb」の前身サイト)内で1999年から2000年末にかけて全11回にわたり開催された、オリジナルMIDI楽曲の募集企画コーナー「デジファミ音楽堂」(現在は閉鎖)においてたびたび楽曲が採用されている。《みんなで使う素材をみんなで作ろう》をモットーに掲げた「デジファミ音楽堂」は音楽素材サイトの役割も果たしており、採用された楽曲はサイトから無料でダウンロードでき、ゲーム制作で自由に使用することができた。大嶋は、募集テーマが初めて設定された第3回(「オープニングに使える曲」)で初登場。この時の応募曲「Song for Explorer」の人気はとりわけ高く、スパニッシュギターと5拍子のリズムをアクセントにした民族音楽調の壮麗なメロディは数々の『RPGツクール』製ゲームに採用されることとなる。大嶋の作風の叙情性を伝える最初期の名曲といえよう。

Perfect Vanity

『Vanity Fair』
『Vanity Fair』

 1999年12月に自身のホームページ「Perfect Vanity」を開設した大嶋は、ニューエイジ/アンビエント、テクノ/エレクトロニカ、民族音楽を中心としたオリジナル曲を次々と発表してゆく。またこの頃、BEMANIシリーズの楽曲や、MONDO GROSSO、Monday満ちる、KYOTO JAZZ MASSIVE、Jazztronikなどのクラブジャズ/アシッド・ジャズに傾倒。ベースラインなどに大きな影響を受けたという。2001年には音楽配信サービスmuzieでも楽曲の配信を開始。同年7月、既発曲のリメイクや書き下ろしの新曲も含む、ヒーリング/クラブミュージックに特化した1stフルアルバム『Vanity Fair』をリリース。純粋なアンビエントミュージックとして制作されたオリジナル版に細やかなビートを加え、浮遊感はそのままに別方向にアプローチした「PALE BLUE [club mix] 」、地中海風+エスニックな味付けのイージーリスニング「Silent Squall」、開設して間もない頃にホームページのBGMとして流れていたグルーヴィーなアシッド・ジャズ「Stake me on the Roulette」、アコースティック主体の穏やかでトロピカルな風合いに満ちた「Slept bone in the Island of the Blessed」、チルアウト色強めの書き下ろしクラブジャズチューン「Vision cube」「Perfect Vanity’s Theme」など全11曲を収録。本CDの販売は終了して久しく、入手は極めて困難となっているが、楽曲のほとんどは大嶋のブログで無料公開されている。

初期のゲーム音楽作品

 大嶋が最初期に音楽を手がけたゲームが、2001年10月に最初のバージョンが公開されたフリーソフト『Apoptlis(アポトリス)』だ。最大6人のオンライン対戦が可能な落ちものパズルゲームである同作に、大嶋はワルツ調のゆったりとしたメインテーマと各種サウンドエフェクトを提供した。また、後のバージョンでは新たなテーマ「Necrosis」を書き下ろしており、こちらはシャッフルビートや変拍子を交えたアップテンポな楽曲で、ワンランク上のプレイヤーをイメージしたトリッキーな雰囲気を醸し出している。

『Lost Memory Original Sound Track』
『Lost Memory Original Sound Track』

 もうひとつは、ゲームデザイナー/シナリオライターの宮下英尚率いるChild-Dreamが1997年に『RPGツクール95』で制作したデビュー作『Lost Memory』を『RPGツクール2000』で大幅にリメイクした『21世紀版「Lost Memory」』である。亡き父が遺したピアノ譜や主人公の出自の謎をめぐってドラマティックなストーリーが展開される同作は、2001年10月に第1章の配布を開始。その後、2002年2月に第2章、8月に第3章、11月に第4~6章が配信され、2003年12月に第7~9章の配信をもって完結。実に足掛け2年にわたる大作となった。

 音楽が重要なキーとなる作品だけに音楽面にも相当な力が入っており、ストーリーを象徴する哀切のピアノテーマ「ONE DAY」を手がけたAI(藤島裕之)を筆頭に9人のコンポーザーが名を連ねた。大嶋は、ゲーム冒頭のイベントシーンなどに使用された風雲急を告げるシリアスなテーマ「Intrusion」や、典雅なバロック/クラシカル「Castle of Glory」、メロディアスなデジタルフュージョン「The Moon is a Harsh Mistress」、ギターソロをフィーチャーしたバンドスタイルのシンセロック「Knife Edge」などを提供し、ストーリーを印象づけた。ゲームの好評を受けてサウンドトラックの制作企画も立ち上がり、主要な楽曲をCD音質で収録した『Lost Memory Original Sound Track』が2004年5月末にリリースされた。大嶋はサウンドプロデューサーとしてCDの制作作業にじっくりと携わり、ゲーム中ではMIDI音源で再生された楽曲を全面リニューアルするにあたって、音色・音源の選定などで細やかな気配りを行き届かせている。

BMSにおける足跡

 2000年代初頭から中盤にかけて、BMS(音楽演奏シミュレータ『BM98』用のデータファイル)での音楽・映像制作がインターネット上を中心に盛り上がりをみせた。当時、大嶋は界隈で名の知られたクリエイターの一人であり、2001年に発表したアイリッシュミュージック調の「虚無への黙祷」はBMS史上に残る名曲のひとつに挙げられる。イーリアンパイプとロー・ホイッスルの響きをフィーチャーし、湧き上がるような盛り上がりをみせるこの5拍子の楽曲は多くのリスナー/プレイヤーのイマジネーションをかき立て、その忘れがたい余韻は現在も語り草となっている。

 他方で大嶋は「いろいろな意味で間違った日本観を音楽と映像によって全世界に発信する」をモットーに掲げ、キワモノであらんとすることに全力を尽くす創作集団「Ninja Action Team」(NAT)を2001年夏に結成し、「黒幕」の肩書のもとにチームの中心的存在としてBMS制作活動を展開してゆく。音楽面でも毎回ユニークな試みがなされ、和風サウンドにビッグビートを組み合わせた「Wasabi」、沖縄民謡「安里屋ユンタ」とゴアトランスを組み合わせた「Goya」、栃木民謡「日光和楽踊り」とレイヴミュージックを組み合わせた「Born」、相撲甚句とトリップホップを組み合わせた「No Sumoking」、正月ソングとハッピーハードコアを組み合わせた「Showguts」、インド映画とハウスミュージックを組み合わせたヒンディー語ヴォーカル曲「Curry」(India Action Team名義)といった作品を2001年から2004年にかけて発表。強烈な個性とクオリティの高さで、BMS発表イベントにおいてたびたび上位入賞を果たし、これらの楽曲をまとめた2004年8月リリースのアルバム『NINJATRAPS』(CD-EXTRA仕様であり、オリジナルゲームやムービー、コミック、ラジオ番組も併録された)で総決算した。

 なお「Showguts」は、なんと今年1月1日付でセガ・インタラクティブの音楽ゲーム『オンゲキ』に追加楽曲として収録された(https://info-ongeki.sega.jp/3124/)。丸18年の時を経て脚光を浴びることとなり、NATの“忍者一同”も大いに驚いたという。

Paradise Lost

『Paradise Lost』
『Paradise Lost』

 2003年7月、大嶋はワールドミュージックの色彩に富む2ndフルアルバム『Paradise Lost』をリリース。アルバムは、イーリアンパイプのソロが導く壮大なアイリッシュダンスミュージック「Dawn of the midnight sun」で幕を開ける。アイリッシュミュージックは本作の音楽的なキーワードのひとつであり、2001年にBMSフォーマットで発表された「虚無への黙祷」が満を持してアルバムに収録されたことも象徴的だ。オリジナルバージョンは2分あまりだったが、ここでは9分に及ぶ長尺曲として大幅なリメイクが施されている。アイデアとイマジネーションの限りを尽くした広大な情景が描きだされ、濃密な空気感に思わず息をのむこと必至だ。

 また、当時のmuzieでリスナーの人気を博した「天路歴程」も圧巻の存在感を示している。東欧のロマ音楽、アフリカ音楽、インド音楽などのエッセンスが混然となったオーケストレーションを巧みな手腕で聴かせ、その重層的で複雑な味わいはアルバム随一といえる。さらに、「千年の庭」では篳篥や箏、龍笛の音色とピアノが絡んだ淡いメロディが壮麗にたゆたう雅楽調のニューエイジミュージックを聴かせ、インディーズレーベルDiverse Systemのコンピレーションアルバム『Diverse System Original #2』(2002年8月リリース)に先行収録された長尺曲「ロンブローゾの檻」ではブラジル音楽+ドラムンベース、「アムリタ」ではインド音楽やガムランの響きを取り入れたトリップホップを展開している。

 アルバム中盤では、広大な草原のイメージを投影した清廉なアンサンブルを聴かせるイージーリスニング・オーケストラ「風と草原の彩り」や、最初期に時間をかけて制作したニューエイジ曲「エーテルの海」のリメイク、純粋なピアノソロ曲「Roaming through the silver forest」が癒しのひとときをもたらし、ヒーリングミュージックにおける作風の深化もうかがわせる。

 本盤にはヴォーカル曲も収録されている。「Reverie」は大嶋の作曲活動の原点となった「虚空の楽園」のヴォーカルアレンジであり、オリジナルのシンフォニックな部分はそのままに近未来的なエレクトロポップを聴かせる。なお、同曲のアレンジを手がけた濱剛【はまたけし】は、この後ノイジークロークで『勇者のくせになまいきだ。』、任天堂で『スーパーマリオ 3Dランド』『ゼルダの伝説 スカイウォードソード』の音楽制作に携わり、ヴォーカルを務めたriyaは翌年に菊地創とのユニットeufoniusでメジャーデビューを果たした。

 Ninja Action Teamの楽曲にも参加した桃輝(桃木真美)をヴォーカルに迎えた「海と大地の絆」は、哀愁を湛えた胡弓とヴァイオリンの響きが力強く牽引してゆくシンフォニックバラード。同じく桃輝のヴォーカルによるバラード「Pilgrim’s lullaby」は、ハープのゆったりとした旋律とともにアルバムを締めくくる。前作『Perfect Vanity』と同じく、本作CD盤の販売は終了しているが、こちらも楽曲のほとんどは大嶋のブログで公開されている。チェックしていただきたい。

『呉義賊・五大天王』
『呉義賊・五大天王』

 その後、サークルNINJA SPIRITSからオファーを受け、同名の創作小説のイメージアルバム『呉義賊・五大天王』を同年12月にリリース。モンゴルを中心に気ままな旅を続ける盗賊集団「呉義賊」の頭目が、中国・藩陽で物騒な連中に追われる一人の青年と出会ったことに端を発する丁々発止のストーリーに沿った8つの楽曲を収録しており、古琴や胡弓の音色にレゲエ、テクノ、フュージョン、シンフォニックサウンドを交え、中国語詞のヴォーカル曲(歌:桃輝)も収録したハイブリッドなアジアンミュージックの佳作である。

 大嶋の活動はさらなる広がりを見せ、注目を集めていく。2004年に音楽パートを担当した、猪瀬真由制作のCGアニメーション『spiral rhythm』が東京国際アニメフェア2005・東京アニメアワードで企業賞を受賞。土、水、火、風の化身がダイナミックに躍動する約4分間のショートムービーに、オリエンタルミュージック、アイリッシュミュージックの要素と起承転結のストーリー性を巧みに織り込んだシンフォニックな楽曲が見事なシンクロを果たしている。さらに、ゲーム制作グループ「アルファナッツ」が『RPGツクール2000』で制作したアドベンチャーRPG『天使の微笑』(2004年11月発表)、『女神の涙TRUE』(2005年8月発表)に、それぞれ主題歌(歌:霜月はるか)を提供した。

初の商業ゲーム作品

 2005年7月に発売された、Littlewitch製作の育成アドベンチャーゲーム『少女魔法学リトルウィッチロマネスク』に、大嶋はメインコンポーザーとして参加(BGM作曲はyan、yogurt[内山利彦]との連名)。チェンバロ、マリンバ、ロー・ホイッスル、リコーダー、アコーディオン、リュートの音色をふんだんにフィーチャーした暖かみあふれるポップ・クラシカルなBGMと、霜月はるかの歌声にロー・ホイッスルとストリングスの切々とした響きが重なり合う挿入歌「Itiad」の作詞・作曲を手がけた。ちなみに「Itiad」という曲名は「大地」(daiti)を逆から読んだものであり、架空言語のような不思議な響きをもった詞は日本語のアナグラムとなっている。アイデアの基になったのは、『ファイナルファンタジー ヴォーカル・コレクションズII Love Will Grow』(1995年リリース)の収録曲「はるかなる故郷」(ヴォーカルを逆再生すると日本語詞となる)とのこと。

 同年9月にリリースされた『Jewelries 少女魔法学リトルウィッチロマネスクサウンドトラック』は、箔押しされた紙製の円筒型化粧箱に、2枚組CDと6つ折りの円形ブックレット、そして英文が印字された細切れのクラフト紙でかたどった、鳥の巣をイメージさせる緩衝材が収められ、さながら高級菓子の包装を思わせる凝った意匠が施されていた。珠玉のきらめきを放つ楽曲にふさわしいパッケージングといえよう。その後、2007年12月に発売されたLittlewitch製作の学園恋愛アドベンチャー『ピリオド』の音楽制作にも参加(BGM作曲はyanとの連名)。「青春」をテーマにした甘酸っぱいBGMと、フィドルのフレーズをアクセントにしたアップテンポなエンディングテーマ「Leap into high」(作詞・歌:霜月はるか)を手がけ、2008年2月に『pigeons ピリオド オリジナルサウンドトラック』が2枚組CDでリリースされた。

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