ゲーム音楽専門レーベルの新鋭〈CASSETRON(カセットロン)〉のリリースに要注目
2021年10月、ひとつのゲーム音楽専門レーベルが新たに始動した。ディスクユニオンのレーベルグループ「DIW PRODUCTS」のサウンドトラック専門レーベル〈CINEMA-KAN〉から派生した〈CASSETRON(カセットロン)〉である。CINEMA-KANは2020年9月に『超ゴジラ オリジナル・サウンドトラック』、2021年7月に『チェルノブ オリジナル・サウンドトラック』をリリースして驚かせたが、ゲーム音楽専門レーベル立ち上げのアナウンスはさらなる驚きをもたらした。今回は、誕生して間もない〈CASSETRON〉レーベルがこれまでにリリースした3作品を紹介し、強くオススメしたい。
アイアンコマンドー 鋼鉄の戦士
レーベルの第1弾カタログは、2021年12月にリリースされた『アイアンコマンドー 鋼鉄の戦士 オリジナル・サウンドトラック』。1995年2月にポッポから発売(販売はパック・イン・ビデオ[現・マーベラス])されたスーパーファミコン用ベルトスクロールアクションゲーム『アイアンコマンドー 鋼鉄の戦士』の楽曲を本邦初CD化した作品だ。ゲームハードのトレンドがセガサターンやプレイステーションへと移りつつあった時期に登場した『アイアンコマンドー』は、当時のヨーロッパでは販売代理店が見つからず、日本のみで流通。出荷本数も少なかったことから長らくコレクター垂涎のソフトとして知られていたが、2016年にPC移植版がリリースされた。
開発を手がけたArcade Zoneは、十代の頃からソフトウェア開発に携わるゲームデザイナー/プログラマーのカルロ・ペルコンティ(現・HyperDevbox Japan代表)と、著名なデベロッパー「TITUS」のグラフィックアーティストであったライエス・ベレイドゥーニが共同設立した少数精鋭チーム。ロンドンに拠点を置き、スーパーファミコンで3作品を開発。『アイアンコマンドー』は2作目にあたる。音楽もカルロ自らが手がけており、本作では硬派な世界観とキャラクター性を投影した、リフ重視のハード・ロック/ヘヴィ・メタルサウンドを前面に押し出している。ディープ・パープルを彷彿とさせる骨太なタイトルテーマに始まり、フルート風の哀愁のメロディをアクセントにした「バトル・オブ・ウォーターフロント(パート2)」、パンキッシュなボスBGM「男対男」、フックに富んだ展開に加えてブレイクまで入る「デビル・フォレスト 悪魔の森」、トライバルなリズムと速弾きギターソロが共演する「魔宮の伝説」など、ジングル的な楽曲も含めてキラーチューンが目白押しである。スーパーファミコンでここまでラフでストレートなメタルサウンドをてらいなく聴かせる作品は貴重であり、そういった意味でも嬉しいCD化なのだ。
美食戦隊 薔薇野郎
第2弾カタログは、2022年2月にリリースされた『美食戦隊 薔薇野郎 オリジナル・サウンドトラック』。1995年9月にヴァージンインタラクティブエンターテインメントから発売されたスーパーファミコン用ベルトスクロールアクションゲームの楽曲集である。WINDSとフューパックが開発を担当した『美食戦隊 薔薇野郎(ぐるめせんたい ばらやろう)』は、「爆発男爵ぼんぢゅ~る」「爆発貴婦人まどもあぜる」「大爆獣とれびあ~ん」といったクセの強い人造人間をプレイヤーキャラとして選択し、奇抜なデザインの敵を倒すと手に入る食材を組み合わせて体力を回復(ライフアップグルメシステム)しながらステージを攻略していく。メインスタッフの斉藤智晴、延東史朗、山崎友幸の濃ゆいセンスと有象無象のエネルギーが、ブッ飛んだ世界観にこれでもかと詰めこまれた怪作だ。当時の出荷本数が不明であることも本作のカルト性を引き立てている。やがて中古市場で高値で取引され、高級珍味のような存在となっていたが、2019年にPC移植版(英語版)がリリース。手軽に味わえるようになった。
本作のサウンドトラックCDは過去に少ロット数で制作されており、ゲームソフトに同封されたアンケートに応募すると抽選で300名にプレゼントされた。今回のリリースは、ゲームオプションのサウンドテストで聴くことができた未使用曲4曲が追加収録された決定版である。いわゆる「バカゲー」といわれる本作だが、細部の作りこみは丁寧であり、キャラクターごとに用意されたテーマBGMや、難易度設定によってステージBGMが変化する趣向もこだわりの賜物に他ならない。小川一広による音楽はクラシック、ワルツ、ジャズ、ハード・ロック、ワールドミュージックとバラエティに富み、あの手この手で楽しませてくれる。コミカルでありながらアツさもしっかり感じさせるところもポイントだ。戦隊モノのテーマソングを彷彿とさせる「美食戦隊 薔薇野郎」にはボーカルこそないが歌詞が用意されており(ゲーム中では裏技でカラオケモードにすることによって歌詞を見ることができる)、歌心にあふれている。四半世紀を経て一般流通盤として世に送り出されたことを改めて寿ぎたい。グルメなゲーム音楽リスナーは、ゆめゆめ見逃がすことのなきように。
サイコドリーム
レーベルの第3弾カタログは、3月2日にリリースされたばかりの『サイコドリーム オリジナル・サウンドトラック』。1992年12月に日本テレネットから発売されたスーパーファミコン用アクションゲームの楽曲を本邦初CD化した作品である。日本テレネットの第1開発事業部「ライオット」の第1回作品として送り出された『サイコドリーム』は、後にラブデリックで『moon』『L.O.L. ~LACK OF LOVE~』、スキップで『ちびロボ!』などの開発を手がける西健一(現・Route24)がディレクターを務め、耽美かつ繊細な画風で知られる漫画家の西崎まりのがトータルデザインを手がけた。ストーリーは西と西崎の共作である。2012年にプロジェクトEGGからPC移植版が配信され、2021年にはNintendo Switch Onlineの配信ラインナップに加わった。バーチャルリアリティと精神世界を題材にした本作の現代伝奇的なストーリーと退廃的な世界観は今なお色あせていない。夢を見るよりも自由に世界を楽しむことができるVRソフト「Dムービー」。鬼才デヴィッド・ヴィスコンティによって創りあげられ、当時もっとも流行した幻想的Dムービー「廃都物語」。仮想世界に没入し現実に戻れなくなった少年少女たちを救う、国家公安委員会直属組織「ダイアモンドの犬」――ゲーム説明書に所収のプロローグではこれらの設定が仔細に語られるが、主人公たちが「廃都物語」の世界に入った後の出来事であるゲーム本編では情報的なフォローは一切ない。一見すると不親切にすら思える説明書とゲームの距離感が、そのまま「現実」と「仮想現実」を意識させる趣向になっているのだ。当時のライオットの野心を感じさせる尖った企みといえよう。なお、今回のサントラのブックレットには、ゲーム説明書所収のプロローグとエピローグのテキストも再録されている。ぜひ一読をすすめたい。
音楽は、数年後に『ワイルドアームズ』シリーズで名を馳せる なるけみちこが担当。なるけが前年にメインコンポーザーを務めたPCエンジンSUPER CD-ROM2用RPG『天使の詩』では壮麗でクラシカルな楽曲を存分に聴かせていたが、深い眠りに落ちた1人の少女の精神世界を舞台とする本作では、感情を削ぎ落としたかのような楽曲が不気味なうねりを伴って聴く者を眩惑する。赤ん坊の声とマリンバの音色がミステリアスなムードに拍車をかける「オープニング - 廃都物語」や、螺旋を描くようなメロディがサスペンスフルな「Chapter - ボス」。スティーヴ・ライヒ作品を遠まきに見るかのような「Track 1 昼下がり - 旧新宿都庁」や、6拍子のメロディが淡々と展開される「Track 4 夕暮れ - 千代田区」など、ミニマルミュージック/プログレ的な色合いの強い楽曲は、ステージ終盤「Track 5 夜 - 墨田区」にさしかかると一転してシンフォニックな色合いを強めていく。最終ボスで流れる「Final Chapter - 灰かぶりの城」は「アヴェ・マリア」のアレンジであり、荘厳なメロディが無機的なビートと絡む。再び赤ん坊の声が聴こえてくる「エンディング」では「シューベルトの子守歌」のアレンジとフォルクローレ風の楽曲が連なり、少女の精神に安寧が訪れたことを表現している。危うさと儚さをあわせ持った本作のニューロティックな響きは一度聴いたら忘れられない。今回のリリースを機に広く再評価されることを願う。
■CASSETRON 公式Twitterアカウント
https://twitter.com/cassetron
■CINEMA-KAN LABEL 公式サイト
http://www.cinemakan.com/