ゲームをどう片づける? 新しい遊び方をみつける「アーカイブ化」のすすめ

ゲームと「片付け」に関する論考

今回の3つのポイント
1. 可動棚 + 規格品の容器で省スペース化+劣化対策
2. 物理的なコレクション + データベースによる管理
3. 作品同士の隠れたつながりを見出し、新たな楽しみ方を生み出す

“守り”の片づけから“攻め”のアーカイブへ

 6月になり、いよいよ梅雨がはじまった。以前、本連載(というには間が空きすぎているが)で雨季のゲームの楽しみ方について紹介したが(「雨はゲーム体験をどう変える? 解像度を上げるための4つのアプローチ」)、今回は別の方法で家にいる時間を活用する方法を考えてみたい。テーマはずばり「ゲームをどう片づけるか?」だ。

 やましたひでこ監修・川畑のぶこ著『モノを捨てればうまくいく 断捨離のすすめ』(同文館出版、2009年)や近藤麻理恵『人生がときめく片づけの魔法』(サンマーク出版、2010年)の影響もあり、片づけとは不要なモノを捨てて快適な生活空間を確保することという、“攻め”の姿勢でQOL(生活の質)を“守る”イメージが、ここ10年ほどのあいだにすっかり定着している(※1)。

 だが、ゲームや漫画などのコレクションを、一般的な片づけと同じように残すものの厳選から始めるのはなかなかむずかしい。ならば逆にいっそ全部残したうえで、それらに新たな価値を見出すような保管方法を考えてみるのもいいかもしれない。じつは「アーカイブ」というそれにうってつけの方法がある(※2)。

 筆者はゲーム研究者なので、ここで紹介する方法もゲームやその関連資料を念頭においているが、CDや漫画などにも応用できる部分があると思う。絶版本やレアソフトだけでなく、無料配布されたDLC(ダウンロードコンテンツ)や同人グッズなども一度手放すと二度と手に入らない可能性が高いため(※3)、なんとか捨てずに生かす道を考えてみたい。

「片づけ」と「アーカイブ化」のちがい

 最初に簡単な見取り図を示しておこう。ドミニック・ローホー『モノを元に戻す技術 片づいた部屋があれば、大抵のことはうまくいく』(KADOKAWA、2018年)では、片づけを

「散らかったもの」を別なふうに配置することでもありません……むだな動作や努力をせずとも、わかりやすく見渡せてすぐに手に取れるようにすることなのです

 と説明しているが、アーカイブではこの役割を、物理的なソフト自体ではなく「データベース」にまかせることになる。

 博物館などのアーカイブも、基本的には現物とそれらを管理するデータベースからなりたっており、ここは一般的な片づけや収納とはことなる点だ。もちろん家中のモノをこの方法でアーカイブ化しようというわけではなく(※4)、ここではあくまでゲームやCD、書籍などの捨てられないコレクションを対象としている。

 作業には、(1)ゲームや書籍現物の格納と、(2)各アイテムのデータベースへの登録という二つのフェーズがあるが、二度手間や登録し忘れをふせぐために同じタイミングでした方がいいかもしれない。作業をルーティン化してしまえば入力速度はすぐに上がるので、アイテムの収納や登録はある程度方針が定まるまでは少しずつ進めよう。「まずは手持ちのソフトを全部一箇所に並べて……」というのは、数が多くなるほどスペースもとられるし、作業中に落としたり倒れたりして破損する可能性も高くなるのでやめたほうがいい。これも「一気にやって完璧を目指す」という片づけの方法論とはことなるところだ。また新規購入や劣化、貸し借りなどによってコレクションは常に状態が変化するので、収納場所にはある程度余裕をもたせておこう。

 アーカイブとデータベースの作成にはそれぞれかなり高度な専門知が存在するが、ここでは専門家以外でも比較的手軽に実行できる方法を紹介する。いずれも国会図書館や国内外の研究機関によるビデオゲームの保存活動を参考に、個人レベルでも可能なようにアレンジしたうえで実際に筆者が運用しているものだ。

アーカイブ作成の3つのポイント

1)箱詰めで管理

 コレクターが壁一面のコレクションを自慢しているのはSNSやブログでよく見かける光景だが、アーカイブはそうした“展示”とは真逆のものだ。もちろん好きなソフトをディスプレイしてもいいが、基本的には箱詰め作業がベースになる。それは二つの利点があるからだ。

 ひとつは「スペースの大幅な節約」である。棚板の位置を変えられる書架と箱やケースを組み合わせれば、アイテムを普通に配置した場合より1.5〜2倍ほど多く収納できるだろう(図1)。カラーボックスやメタルラックと適当な箱の組み合わせでも、おおむね同じことが可能だ。

 もう一つは「光対策」だ。筆者の調査では、ゲーム類は博物館などの所蔵庫でも箱詰めされていることが多かったが、それだけでなく必要時以外は部屋の照明も落とされていた。これは節電目的だけでなく、日光や蛍光灯の紫外線や熱が、パッケージやコントローラの日焼け、内部基盤へのダメージにつながるためだ。部屋の照明を年中消しておくのがむずかしければ、筆者のようにLEDにするのも手だが、そちらも長期間の照射による影響にはまだ不明な点もあるので留意されたい(※5)。

 使用する箱は、可能なら長期保存用の中性紙製のものが望ましいが、プラスチックや通常のダンボールでも短期的には問題ないだろう(※6)。ただしカビや虫害が発生するおそれがあるので、できるだけ新品を使うことをおすすめしたい。100均などでも購入できるスーファミやゲームボーイのカートリッジにピッタリの密封型のケースは、よくプレイするソフトの仮置き場には便利だが、長期保存には向かないかもしれない。気密性が高いと温湿度管理がむずかしくなるのと、棚のサイズに合っていなければケースの外側にデッドスペースが生まれてしまうためだ。容器は棚に合わせて選び、不要なスペースが生じないように並べよう。また、箱と棚には通し番号を書いておく。

(図1)ゲームアーカイブのイメージ。湿気対策としてフタのないトレーを採用したため、遮光カーテンとLED照明で日光や紫外線を低減している。また各棚板とトレーの番号をデータベースと紐付けし(図4参照)、アイテムを探しやすくしている。
(図1)ゲームアーカイブのイメージ。湿気対策としてフタのないトレーを採用したため、遮光カーテンとLED照明で日光や紫外線を低減している。また各棚板とトレーの番号をデータベースと紐付けし(図4参照)、アイテムを探しやすくしている。

 箱の中身については、アイテムをサイズごとに分別してスペースを無駄なく活用したいところだが、湿気や衝撃に弱くなりがちなので、あまり詰めすぎずに緩衝材を挟むなどして多少の空間を確保したほうがいい(※7)。あとは重みによるダメージの回避とタイトルが見やすいように、積み重ねずに立てて入れるとベターだ(図2)。細かい分類はデータベース上でおこなえばよいので、ここでは使用時の利便性を考えて機種別にしておくぐらいでいい。

(図2)ゲームだけでなく、書籍などもこの方法で収納できる。研究者やライターならNDC(図書館で使われる本の分類記号)も記入しておくと、自宅図書館的な運用が可能だ。
(図2)ゲームだけでなく、書籍などもこの方法で収納できる。研究者やライターならNDC(図書館で使われる本の分類記号)も記入しておくと、自宅図書館的な運用が可能だ。

 温湿度の管理は、(一箱や二箱ならともかく)個別に乾燥剤などを入れるより部屋自体の環境を一定にたもつほうが楽だし、費用や交換の手間を考えても現実的と言える。スチール製の棚を使用する場合はとくに温度変化の影響を受けやすいので、季節や時間帯で室温が大きく変化しないようにしよう。参考までに、国会図書館では所蔵庫内を温度22℃・湿度55%前後に設定している(マイクロ保存庫を除く。※8)。やや専門的な話になるが、より保存に適した環境が知りたい方には、佐野(2013)「書庫・収蔵庫の温度湿度管理」も参考になるだろう。

 今回紹介する方法ではデジタル化は必須ではないが、ダウンロード版ソフトやPDF化した書籍も物理的なコレクションと一緒にデータベースで管理できるので、どうしてもスペースが足りない場合は検討してもいい。

2)アイテム(の保管場所)とデータベースの紐付け

 アイテムを詰めた箱は、それぞれが“引き出し”になるようにする。これは飯田久恵『家庭も仕事もうまくいく 一流の収納術』(ぱる出版、2015年)の言う「収納指数」(あるモノを何ステップで取り出せるか)の考え方に近いかもしれない。棚やカラーボックスを新規に購入するさいは、部屋のスペースだけでなく使いたい箱のサイズ(とくに調整しにくい奥行き)も考慮する。できるかぎり両方とも規格品にしておくと後々拡張しやすいだろう。

 現物ではなくデータベースで管理するこの方式では、登録漏れや間違いがあると最悪の場合所持していること自体認識できなくなってしまうので、最低限どのソフトがどの棚/箱にあるのかは確実に登録するように注意したい(データベースについては次節を参照)。

 これと関連するが、すべてのアイテムには通し番号をふっておく。データ上だけでなくできれば現物にもシールや付箋、メモを挟むなどして、どのデータがどのアイテムと紐づいているのかを確認できるようにしておくと、取り出すときに便利だ。とはいえ本数が多いとこの作業は面倒かもしれない。同タイトル・バージョンのソフトを複数本所持しているなど、混同する可能性があるもの以外は、現物へのマーキングは後回しにしても問題ないだろう。

3)完璧を目指さない

 先に述べたとおり、完璧を目指さないことも重要だ(既存の片づけ論がダメなわけではなく、あくまでアーカイブの場合)。もし自分なりに「完璧な状態」を構築していた場合、たった1本や1冊の増加がとてつもない“民族大移動”を引き起こす恐れもあるため、多少のモノの増減では左右されにくい環境を整えるほうが合理的と言える。

 また理想的な環境のためでも、その維持コストは負担になる。おもちゃやゲームにかんする世界最大規模の博物館であるストロング遊戯博物館でさえ、保管には苦労しているとのことなので(※9)、コレクションの数が増えるほど、いかにシンプルな方法で管理できるかが重要になる。

 途中で方針が二転三転するとそれまでの苦労が水泡に帰すこともあるので、本当はあまり変えない方がいいが、もし箱の中身の状態を変更したときはデータを更新するのも忘れずに。

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