キーボード沼”という深い世界(第四回)
キーボードを分解し、一つひとつに油を注す“儀式”……キーボード沼の通過儀礼“ルブ”とは何なのか
ステムに潤滑剤を塗る
続けてボトムハウジング同様、ステムにも潤滑剤を塗っていく。ステムは複雑な形状をしていてピンセットでもつかみにくい。そこで役に立つのがステムホルダーという代物。
基本的に潤滑剤は四角い側面全体に塗っていく。スプリングと干渉する中央の突起部分にも塗ってもいいとは思うが、筆者は特に効果を感じられなかったので、今回は割愛している。
潤滑剤を塗り終えたステムはスプリングの上にかぶせていく。向きが決まっているので間違いないように気をつけよう。スプリングの上にかぶせた後、ゆっくりと押し込んでみて、一番下まで押し込まれないようなら向きが違っているぞ。
キースイッチを組み立てて動作確認
あとはトップハウジングをかぶせてキースイッチを元に戻していく。トップハウジングに潤滑剤を塗る必要はないので、そのままかぶせていこう。
なお、既存のキースイッチは前回紹介した「Gateron Switch Puller」があれば簡単に取り外すことができる。
また、キーボード本体にキースイッチをはめ込む際、向きを間違えないようにしよう。ふたつのピンが目印になっているので目視で確認しながら差し込むこと。間違ってずれたまま差し込んでしまうとピンが折れ曲がってしまう。折れてしまった場合はピンセットでまっすぐにしてから差し込み直すといい。
最後はキーキャップを正しい場所にはめ込めばOK。キーキャップを外す際に写真を撮っておけば、どのように配置されていたか確認しながらはめ込むことができるのでおすすめ。
気になる効果やいかに!
実際にルブをやって見ると、なんだかんだで3〜4時間はかかってしまった。こんな大変な作業をして効果がなかったらどうしよう……なんて不安も頭によぎってはいたが、キーキャップをはめ込んでいる最中にもその絶大な効果を感じられるほどのポテンシャルを秘めていた。今回はKailh Pro Switch紫軸のルブ前とルブ後の音声を収録したので、最後のその様子をお届けしよう。
ルブ前はどことなくパーツとパーツがこすれ合うような打鍵音だったのが、ルブ後はなめらかで静かな打鍵音になっているのがわかる。いわゆる「スココココ」という小気味よい打鍵音だ。さらに打感も柔らかくなっていて文字を入力するのが楽しくなってしまう程に!
前述した通り、今回使用した潤滑剤のKrytox「GPL 205 G00」は、テクスチャーが固めなので、打感もやや重めな仕上がりになった。実はこの後別のキーボードのスイッチもルブしたのだが、その時はKrytoxの「GPL 105」と「GPL 205 G00」を混ぜ合わせて、もう少しサラッとしたタイプで作業をしてみた。
結果は大成功。より自分好みの打鍵音+打鍵感に仕上がったのだ。しかしながら、第1回目の連載で求めていたあの音がついに完成したと思うと、なんだが感慨深いものがある。
ルブという作業に正解はない。あくまで自分の好みに仕上げることが正解なので、試行錯誤しながら新しい音を求めるのも楽しいかも知れない。
さて、4回に渡って連載してきた「キーボード沼」も今回が最終回。もちろん、ルブがキーボード沼の深淵ではなく、キーボードを自作したり、キーボードの内部に吸音材を入れたりと、さまざまなカスタマイズ法がいくつも存在している。今回の連載を見て、少しでもキーボード沼に興味を持ってもらえたならば、ぜひご自身のキーボードを自分好みにカスタマイズしてみてはいかがだろうか。そこにはこれまでとは違うキーボードの魅力が待っているかもしれない。