キーボード沼”という深い世界(第四回)
キーボードを分解し、一つひとつに油を注す“儀式”……キーボード沼の通過儀礼“ルブ”とは何なのか
一度入ると抜け出せないという危険な“沼”。そんな沼がガジェット界にも存在しているのはご存じだろうか。カメラ沼、レンズ沼、マイク沼——。なかでも筆者が足を踏み込んでしまったのが、「キーボード沼」だ。
前回はより深い沼へと誘うおすすめメーカーとオンラインショップについて紹介してきた。連載最終回となる今回は、既存のキーボードを自分好みにカスタマイズする課程を紹介しよう。
カスタマイズの行程は、キーキャップを変えて見た目をがらりと変えたり、キースイッチを換装して好みの打鍵を手に入れたりとさまざま。その中でも「ルブ」という行程にフォーカスを置いて紹介してみる。
キースイッチの感触をなめらかにする「ルブ」
ルブとは英語のLubeと同様で、「油を注す」という意味を表している。キーボードにおけるルブとは、キースイッチ部分に潤滑剤を塗るという意味。ルブをすることでキースイッチが押し込まれた際の摩擦を抑え、なめらかな打鍵感を得ることができるのだ。錆びた自転車やトビラにKURE5-56をスプレーするような感覚だ。
ルブで使用する潤滑剤は主に液体タイプとクリーム状(グリスタイプ)の2種類。国内での入手は困難ではあるが、前回紹介した遊舎工房(ゆうしゃこうぼう)やAliExpress、Keychronのオンラインショップでも購入可能だ。最近はAmazonでも「キーボード ルブ」と検索すればルブに必要なキットが一式で売られていることもある。
実際に“ルブ”をやってみた
論より証拠ということで、実際にルブの流れを紹介していこう。今回はキースイッチを交換しつつ、交換用のキースイッチにルブをしてから換装という流れで紹介していく。基本的な流れは下記の通り。
- キースイッチを分解する
- スプリングにオイルを塗る
- ボトムハウジングに潤滑剤を塗る
- ボトムハウジングとスプリングを組み立てる
- ステムに潤滑剤を塗る
- キースイッチを組み立てる
- キースイッチをキーボード本体に装着する
- キーキャップをかぶせて動作チェック
- 完成!
非常に行程が多く、キースイッチの数が多ければ多いほど作業時間はかかってしまう。十分に時間が確保できたタイミングで行うことをおすすめする。なお、今回は前回紹介したKailh Pro Switchをルブし、Keychron C2に換装していく。
キースイッチを分解する
キースイッチを分解するにはスイッチオープナーを使うのが得策。こちらもAmazonで「SWITCH OPENER」と検索すれば簡単に見つけることができる。今回はKBDfans(https://kbdfans.com/products/gb-2-in-1-machined-aluminum-switch-opener)で売られているスイッチオープナーを使用した。
土台はふたつあるので、キースイッチの形状によって使い分けよう。すっぽりと収まる仕組みになっているので、しっくりこない場合はもうひとつの土台で試せばOKだ。キースイッチのツメが外れたあとはパーツをなくさないように、しっかりと区分けしておくといい。
スプリングにオイルを塗る
続けて、ばらしたスプリングにオイルをなじませる。ジップロックにスプリングをまとめて入れて、その中にオイルを垂し、シャカシャカなじませていこう。なお、今回はKrytoxの「GPL 105」を使用した。
スプリングに十分にオイルをなじませたら組み立てる直前までこのままにしておいてかまわない。
ボトムハウジングに潤滑剤を塗る
続けてボトムハウジングに潤滑剤を塗る。数が多くひとつひとつ取り出して塗る作業は大変だが、「ルブステーション」という土台があると楽チンだ。
ボトムハウジングやステムに塗る潤滑剤はKrytoxの「GPL 205 G00」をグリスを使用。クリーム状になっているので、筆ペンを使ってボトムハウジングに塗っていこう。なおグリスは種類のよって濃度が異なり、テクスチャーが固めのグリスは粘り気がある。そのまま使用するとやや重めのキータッチになってしまうことも……。
ちょっと軽めのタッチにしたい場合は、前述したKrytoxの「GPL 105」と調合してグリスの質感をなめらかにするといいぞ。
ルブはキースイッチのパーツ同士が干渉する部分をなめらかにすることが目的なので、キースイッチを分解した際に、キースイッチを押し込むとどこがこすれるのかを確認しておくとポイントがつかみやすい。
ボトムハウジングとスプリングを組み立てる
ボトムハウジングの上にスプリングをはめ込んでいく。ボトムハウジングの中央部分にバネを差し込む突起があるので、そこに挿入していこう。
ここまでの流れを見てくれた読者の方ならお気づきだと思うが、まあとにかく地味な作業なわけである(笑)。ただ、この単純作業を黙々と続けることこそがキーボード沼の神髄でもあり、楽しさでもあるのだ。休日にまったりと好きな音楽を聴きながらルブに明け暮れる——。そんな日があってもいいんじゃないだろうか。