なぜ人はSNS中毒になってしまうのか……テック業界関係者が語る“危険性”から考える

なぜ人はSNS中毒になる?

 文部科学省が“令和時代のスタンダード”として、一人一台の端末環境を整備する政策「GIGAスクール構想」を進めています。

 これからを生きる子どもたちに、ITは欠かせない……ということから、可能な限りIT格差をなくそうという思惑があるようです。しかし、筆者はどうも不安を感じてしまいます。

 というのも、端末の代表とも言えるiPhoneやiPadの生みの親スティーブ・ジョブズは、子どもが14歳になるまで端末を触らせなかったことはご存じですか。

 スティーブ・ジョブズだけではありません。ビル・ゲイツの子どもたちも同様に14歳になるまでスマートフォンを持たせてもらえず、キッチンに置かれたパソコンを使っていたそうです。Facebookの創設者であるマーク・ザッカーバーグは、子どもたちには読書や外遊びをして欲しいと考えていると言います。

 そして、テック企業が集まるシリコンバレーの人気私立校は、11歳以下の生徒の電子機器使用を禁止しているのです。

 これは何故か? その答えは、Netflixドキュメンタリー『監視資本主義:デジタル社会がもたらす光と影』を見ればわかるでしょう。

The Social Dilemma | Official Trailer | Netflix

 本作は、スマホを持っているなら誰でもインストールしてあるであろうSNSの恐ろしさを説いた作品になっています。数多ある警告番組と違うのは、GAFAをはじめとするテック業界の関係者が、その危険性を語るところにあります。

 彼らは、かつてGoogleやFacebook、Instagram、Pinterest、YouTubeなどの会社の成長を任された人たちで、日夜、ユーザーの獲得方法を考えてきました。そして、その方法は恐ろしいほど効果を発揮し、自分たちがシステムを開発して、サービスに落とし込んでいる側にもかかわらず、その沼から出られずに自身もSNS中毒に陥ったと言います。

 では、なぜSNS中毒になってしまうのでしょうか?

タダの代償

 私たちが利用しているSNSは基本的に無料ですが、それは、SNSが広告主からお金をもらって運営しているからです。そして、広告主がSNSに多額のお金を落とすのは、そこに集まるユーザーにアクセスしたいから。ユーザーの情報やユーザーに何かを売ることを目的としています。

 SNSは、広告主に喜んでもらうために、より多くのユーザーを獲得し、よりアクティブにやりとりして滞在時間を長くしてもらう必要があるので、ユーザーがどんな画像に興味を持ち、何分ほど閲覧しているのかを細かく把握し、どのタイミングで何を表示すれば、滞在時間が長くなるかを計算していると言います。

 さらに、コメント欄に「書き込み中」と表示されるのは、ユーザーがコメントが投稿されるのを期待して待ち、結果的にページ滞在時間が長くなるからで、タグも、よりSNS上でアクティブに交流させるための手段のひとつです。

 誰かがアップした写真に自分がタグをつけられたと通知されれば、チェックしてコメントを残したくなります。そして、そのコメントに対して「書き込み中」が表示されれば、相乗効果でSNS滞在時間が長くなります。

 こうしたSNSでのやりとりを何度も繰り返した結果、脳のドーパミン生成は活性化され、刺激を求めてスマホから離れられなくなっていくのです。

『監視資本主義:デジタル社会がもたらす光と影』には、こんな言葉が登場します。

「If you're not paying for the product, then you are the product. 」

(プロダクトにお金を払っていないなら、あなたがプロダクトということだ。)


 ユーザーは、無料でサービスを利用することで便利を享受するかわりに、自分たちの情報を提供するだけでなく、広告主やメディアに都合よくコントロールされることを許してしまっていると言えます。

 そして、その沼から這い上がるのは至難のわざなのです。

SNSは道具ではない。意思を持って私たちを食いにくる

 SNSは明確な目的を持って、アルゴリズムを駆使して私たちユーザーを積極的に取り込みにやってきます。

 中毒性が高く、ユーザーのページ滞在時間を長くするための工夫が施されているというのは既に説明した通りですが、そのほかにもこんなことをしています。

 しばらくFacebookにアクセスしなければ、メールの受信ボックスに「あなたがログインしなかった過去数日間にこんなことがありましたよ」といった内容の通知が届いた経験はないでしょうか。

 この通知は、デフォルトでオンになっており、Facebook離れを防ぐためのものなのです。

 メールには、誰がどんなことを投稿したのかが軽く触れられているため、気になってログインしてしまう人も多いはず。いつの間にか実装されたこの機能は、オフにすることも可能ですが、それを知っている人はどれくらいいるでしょうか。

 SNSから離れたくても追いかけてこられるというのは「一度捕らえた獲物(ユーザー)は離さない」という執念を感じずにいられません。

SNSとギャンブルは似ている

 『監視資本主義:デジタル社会がもたらす光と影』の中で、SNSはまるでスロットマシンのようなものだと説明されています。

 実は筆者の親族のひとりがギャンブル中毒でした。その悲惨さはここでは割愛しますが、私たちが「スマホを見れば何か新しい情報にアクセスできるかもしれない。誰かが自分の投稿に「いいね」をしているかもしれない」と期待して、ついついスマホに手を伸ばしてしまう様子は、ギャンブルで「今回は勝つかもしれない」と勝率が低いにも関わらず賭けずにいられないギャンブル依存症の行動に酷似しています。

 ギャンブルにしてもアルコールにしても依存症になると、脳の状態が変化し、自分で自分の欲求をコントロールできなくなります。そして、その脳の変化は「たくあんになった大根は、また元のみずみずしい大根には戻らない」と表現されることがあります。つまり、依存症になった人の脳は、もう元の状態にはならず、その状態のまま生きなくてはならないということです。

 本作は、SNSの呪縛から解放された人間が人間らしさを取り戻す希望を感じさせるラストで締め括られています。

 しかし、依存症の「たくあん脳」を考えるなら、物事はそんな簡単には終わらないのではないでしょうか。

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