十束おとはが“演者目線”から深掘りする、実験的テクノロジーを駆使した「オンラインライブ」の裏側

フィロのス配信ライブの“テクノロジー”

 ゲーム・eスポーツ好きのタレント・アイドルとして、イベントMCやゲストにも引っ張りだこな“おとはす”こと十束おとは(フィロソフィーのダンス)による連載『テック・ファウンダー』。

 この連載では、ゲームやeスポーツのみならず、自作PCを作ったりビジネス書を読んだりと、あらゆるテック・エンタメに興味を持つ彼女が、いま気になる“テック”を深掘りしていく。

 連載3回目となる今回は、フィロソフィーのライブを手掛ける”アベンジャーズ”こと福田正俊(SME)・三上修司(PARKLIFE)・泉原厚史(Sony Group)・森口凱(stu)の4人に取材を決行。

 EdgeTechプロジェクト本部(※ソニーグループの各社と提携しながら、エンタテインメントとテクノロジーを融合させ、新規事業の企画・創設と育成を行なっていく部署)のもと、新たなテクノロジーの実験場として実施されている“実証実験ライブ”を通してオンラインライブの可能性を探っている彼らに、十束自身がインタビュアーとなり演者目線からオンラインライブの魅力を深掘りした。(編集部)

カメラロボットにAR演出……“実証実験ライブ”で使われたテクノロジーとは?

十束おとは(以下、十束):このチームは、コロナをきっかけに結成されたのですか?

福田正俊(以下、福田):コロナが始まる前に、うち(SME)の上司が、「ライブ会場のキャパシティには限界がある。チケットを取れない人もいるから、ライブを楽しむ人を増やす為にはオンライン配信をするしかない」と言っていたんですね。「なるほど、ライブエンタテインメント市場を拡げるには、オンライン配信をもっと簡単にできるようにしないといけないんだな……」と思っていたところに、コロナがやってきた。いま思えばまさに、先見の明でした。

十束:そのなかで、このメンバーが集結した理由というのは。

福田:ライブ配信のハードルを下げて、さらにオンラインライブの価値を上げるために、いろいろな技術開発をスタートさせました。ソニーが得意とするロボット技術を活用したカメラロボットだったり、CGを使ってオンラインならではの演出を可能にするARだったり……そういった技術を実際にライブ制作の現場で試しながら開発を進めたいと思い、各分野のプロにお声がけしました。

写真左にあるのがカメラロボット。(写真=SHOKO ISHIZAKI (THINGS.))
写真左にあるのがカメラロボット。(写真=SHOKO ISHIZAKI (THINGS.))

十束:実験ライブでは、どのようなことを意識されているのですか?

三上修司(以下、三上):配信だと、お客さんが画面越しに演者を観ますよね。そうなると、色味の捉え方がまったく変わってくるんです。収録ならば、調節ができるけど、オンラインではそのまま流すしかない。そういった点を、どのようにして解決していくかを考えています。

十束:なるほど。まったくちがうんですね。

福田:会場にいらっしゃるお客様と、配信で楽しんでくださるお客様、楽しんでいただくための演出方法はそれぞれ違うのではないかと思っています。これも、実証実験ライブを通して分かったことです。実際にいろいろと試していくうちに、そういった問題点が発見できるんですよね。

三上:ライブだと、照明だけではなく、さまざまな演出で魅せることができる。でも、配信ライブは、大事な部分でカメラが人に寄るので。その差も大きいですよね。空間の作り方と、画角を加味しての空間の作り方。その上で、お客さんをどのようにして楽しませていくか。

十束:では、メンバーの間で“ロボットのパパ”と呼ばれている泉原さんにお話をおうかがいします。ロボットって、どのようにして動かしているのですか? 人に当たらないのも、すごいなと思っています。

泉原厚史(以下、泉原):まずは、ロボットにステージのマップを覚えさせます。かかる時間は、だいたい15分くらいですかね。その後は、出る曲に応じて画面上でロボットの移動経路や被写体をプログラムしていきます。撮影するパフォーマンスに合わせて、移動速度やカメラ画角を調整したり。人にぶつからないのは、センサーで人を見つけているからです。

十束:だから、人が近づくと止まるんですね!

泉原:はい。ただ、いまの時点ではある程度計画された動きはできますが、「いま、美味しいシーンだから前に出て!」みたいな、急な動きはまだできないですね。人だったら、すぐに走っていくことができるけれど……。撮影する人の感覚的な指示に対応したり、もっと柔軟で素早い移動ができるようになると、面白いと思います。

十束:ファンの方の間では、「ロボットが可愛い!」と話題になっていました。

カメラロボットは事前にプログラムされた動きにあわせて移動し、被写体にあわせてフォーカスするのだという。(写真=SHOKO ISHIZAKI (THINGS.))

泉原:パフォーマンスがメインなので、目立たないようにしていたんですけどね……(笑)。回っていても分からないように、角も丸くしていて。その結果として「可愛い!」という声が挙がっていて、驚きました。

福田:先日UNICORNのライブでこのカメラロボットを使ったんですが、チャット欄は「ロボットがんばれ!」ってコメントで盛り上がっていました。頑張っている姿が、可愛く見えるんですかね。

十束:今度は、森口さんにARについておうかがいします。数々の舞台を担当されていると思いますが、どのようにして使用するARを考えているのですか?

森口凱(以下、森口):アーティストさんのライブでARを担当させていただく場合は、ミュージックビデオを事前にいただくことが多いです。そこから、リンクさせる場面を作っていく。その方が、ファンの方にも喜んでもらいやすいかな? と。個人的には、現実とARが混ざり合った世界観を作っていきたいんですよね。

十束:ライブで使用するARは、事前にデザインが作られているのですか?

森口:コンテンツ自体は、事前に組んであります。配置はしておきますが、合成して映像として返すのは、リアルタイムで。

十束:そうだったんですね……!

森口:紙吹雪だったり、ビームだったり、降らせる系のものは、生成もリアルタイムにしています。

(写真=SHOKO ISHIZAKI (THINGS.))
(写真=SHOKO ISHIZAKI (THINGS.))

十束:では、みなさんにお聞きします。今後アップデートしていきたいことを教えてください。

泉原:プロによる様々な演出を、ロボットの撮影でも再現できるようにしたいです。カメラマンこだわりの構図や撮影技法をロボットにプログラミングできるようにするだけではなく、ゆくゆくは、ロボット自身が撮影技法を記憶して適切に動くようなことも実現したいです。

三上:自動撮影をカメラに入れて、ロボットと組み合わせたら、できそうな気がしますよね。

泉原:はい。そんなに、遠い未来ではないと思っています。

福田:僕は、引き続きオンラインライブをもっと簡単に撮影、配信できるようにしていきたいです。その為に無人カメラによる自動ライブ撮影システムを開発中です。オンラインライブの撮影、配信って、とにかく手間とお金がかかるんですよね……。でも、そういったシステムによって撮影配信のハードルを下げれば、素晴らしいライブがもっと手軽に配信できるようになるはず。オンラインライブの価値を上げるのと並行して、撮影、配信のハードルを下げることも意識して開発しています。

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