2020年代のボカロ文化は“一周”したが故の多様さを持つ――『プロセカ』『ボカコレ』運営と“初音ミク生みの親”が語り合う

『プロセカ』『ボカコレ』運営&“初音ミク生みの親”座談会

それぞれの「好き」を認め合う

ーー佐々木さんは「初音ミクの生みの親」として、初音ミクの活用のされ方に関して、かなり難しい判断を求められ続けてきたと思います。『ボカコレ』や『プロセカ』についてはどのように感じていますか?

佐々木:そうですね……世の中にいろんなキャラの生みの親がいるとしたら、僕は一番生みの親っぽくない親だと思うんです。初音ミクはボカロPさんやイラストレーターさん、動画師さんなどネットで活動している沢山のクリエイターのみなさんが集団で育ててくれたものですし、自分が親なんだとしたら、子どもに何をしてあげるというよりは正しく見守ることが求められてる気がします。

 うちの代表(伊藤博之氏)もそうですし、昔のDIVA(『初音ミク -Project DIVA-』)のプロデューサーなど、大きな視点から関わる人の影響は大きいですが、1人ひとり胸に秘めたボカロに対する思いがあって、もちろんクリエイター1人ひとりにも思いがあって。足し算ではなく、全部独立した「1」だと思うんですよ。僕も1だし。それが全部重なって、影響し合って、尊重しあって、たまに迷ったりしながら、いまの初音ミクの実態みたいなものがあるんだと思います。

 リスナーの方々も、別に全部のボカロ曲を聴いてるわけじゃないし、聴かなきゃいけないわけでもない。僕らにとっては歴史やサービスの重みがあるし、ニコニコさんにも同様に重みがあって。でも、ルーツや歴史に固執しすぎると駄目なんだと思うんです。そのあたりのバランスについては、お二方のお話を聞いて、非常に繊細に感じ取ろうとされていることが伝わってきて、安心しました。

栗田:それはお世辞抜きに、佐々木さんがずっと「初音ミクって人の数だけ解釈があって、多様性が大事な存在なんだよ」という部分を15年間ずっと守られてきたから、ユーザーにも浸透してるんじゃないかと思いますけどね。

佐々木:いや、それを言うならニコニコ動画さんも……これ、永遠に譲り合いになっちゃいますね(笑)。振り返ってみると素晴らしい瞬間や連鎖がたくさんあったし、ここで音楽が生まれてみんなが感動して、熱狂や臨場感があったことを、次のフェーズにどう生かしていこうかをみんなで考えてられるのは、すごく良いことだと思います。

 「ボカロって色んな曲があっていいよね!」「『プロセカ』でみんなで遊ぶのも楽しいよね!」という循環が生まれ続けてくれれば、僕はそれが最高だと思っています。令和のボカロシーンに対して言えるところがあるとすれば、「膨大な過去曲含め、みんなそれぞれの形でボカロに接してるんだから、それを認め合えばいいんじゃない?」ですかね。

ーー楽しみ方の多様性については、『プロセカ』陣営の近藤さんにもうかがいたいなと思っています。サービスの具体的な設計意図についてはこちらのインタビューで詳しく話されていて、先程佐々木さんも仰った通り、昔からボカロを好きな人も最近知った人も共存できるゲームになっていますよね。

近藤:入り口は非常にカジュアルなものになっているので、『プロセカ』を通してボカロを好きになってくれる人は間違いなく増えた実感はあります。ただ僕らが用意した多様性って、ニコニコ動画さんの初期やボカロシーンの前半に比べるとすごく少なくて。そもそも僕は、現状のプロセスが「多様性にあふれたプロジェクト」だとは、あまり考えていないんです。

 『プロセカ』では、若い世代の方々にボカロ曲を聴いてもらいやすくするために、言わば少々強引に音楽ジャンルをデフォルメして5ユニットに分けています。デフォルメされることによって触れやすくなっている反面、多様性といった面ではそこで止まってしまいやすくもなっていると思います。ただ、もしそこで満足しちゃったとしても、結果的にプラスにはなっていると思っていますが……。でも、あともう5歩ぐらい頑張らないと、という気持ちは常にあります。

 たとえば、『プロセカ』のユーザー全員を「ぼからんを毎日チェックするぜ」みたいなファンにするのは現実的に難しい。でもユーザーの10%でもそういうふうになってくれたら、それはUGCコンテンツをつくるアマチュアのクリエイターさんにとってもすごく良いことになるはずなんですよね。そういった目線でチャレンジをしていかないと、これまであった人気コンテンツを消費しているだけのゲームになってしまうので。

『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』より
『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』より

佐々木:近藤さんとはいつも一緒に仕事をしていて思うんですが、戦略的なバランス感覚がすごい方なんです。彼はボカロ曲を投稿していた当時、本当にぼからんのエンディング・ピックアップ曲に選ばれるべくして選ばれるような、非常に叙情的で、ちょっとテクノポップも入った綺麗な音楽をつくられていて。

近藤:ここで褒めますか!?(笑)

佐々木:(笑)。当時のミクファンの人たちが「まさにこういうのを聴きたかったんだよ」というような曲をつくっていたのもまた近藤さんで。いまこうしてColorful Paletteさんの代表として『プロセカ』に携わられていることに、それこそ因果を感じてしまいます。

 そうした純真だったり、ユニークな作品の幅広さもニコニコ動画ならではだったと思います。

 いまドワンゴさんが『ボカコレ』をやられている中で、初々しい曲だとか、そういう繊細な曲に対してどういうふうに思いを持たれてるのか、ちょっと聞いてみたいですね。

栗田:ニコニコの判断基準としては、「日本の法律に反してるか反してないか」だけなんです。いち私企業が「この作品は良い・この作品はダメ」と方針を決める形にはしたくなくて、表現に関してはあくまでフラットな立場を貫いていきたい。ただそれってリスクもあって、フラットな立場とはつまりどちらの味方にもならないことなんですよ。結果としてどちらからも叩かれる状況になりがちなので、すごく生きづらくはあるんですけど……。

 表現の自由って、逆に自分の嫌なものの存在も許容しろってことでもあるので、すごく難しい。ただ「うちがそうした場を守らないと、ほかにどこが守ってくれるんだ?」と半ば義務感を抱いている面もあって。なので、ボカロ文化のなかにおいても、どんな表現や曲調だったとしても、基本的には全部受け入れた上で、刺さる人にうまく届けていきたいなという使命感はありますね。

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